茶道、華道(生け花)、剣道、柔道……そして能楽と、おおよそ思いつく限りの“伝統”や“日本文化”と呼ばれる物事では、「正座」をしている印象があるでしょう。
本記事では、そんな日本文化と深く関係のある「正座」について、歴史や長所、正座のコツなどをお伝えします!
意外と知らない正座のルーツについて知ることで、もっと日本の文化を理解できるかもしれませんよ♪
日本文化と正座
「正座」は、膝をそろえて畳んだ座法のことです。
冒頭で触れたとおり、日本にある多くの伝統的な物事において基本とされています。
茶道の先生も華道の先生も、お能の先生までも皆正座をしていますよね。
最近では正座をする機会がめっきり減ってしまいましたが、それでも和室に通された時には、皆さんもきっと無意識に正座をしているのではないでしょうか?
その点で、「日本文化=正座」という強力な形式は、現代でも成立しているといえるでしょう。
正座の歴史
日本における正座の起源は諸説ありますが、一説では奈良時代(710年~794年)に中国から伝わったとされています。
ではここからは、正座がどのようにして定着していったのか、その歴史を探っていきましょう!
昔 の人の座り方~茶人も能楽師も正座をしていない?!~
画像提供:堺市博物館
茶の湯や能楽といった日本文化が大成したのは、一般的に室町時代(1336年~1568年)から安土桃山時代(1568年~1600年)といわれています。
ところがどっこい、描かれた絵画を見てみると、なんと皆、胡坐をかいているではありませんか!
胡坐の茶人なんて現代では見かけることもありませんが、この時代には、茶の湯の祖・千利休でさえも胡坐をかいています。
申楽(能楽)の様子が描かれた絵も、袴の開き具合を見るに安座※をしていると見受けられます。
大河ドラマをよく見ると、戦国武将も正座していません。
「礼儀正しい座り方は正座だ!」という風に思ってしまう方もいるかもしれませんが、歴史的に見ると、この時代ではそうではなかったようです。
ではどのようにして、正座が一般的になったのでしょうか?
ここから深掘りしていきましょう!
※安座:胡坐のこと。くつろいで座ること。
【 江戸時代】正座の普及
当時、正座をすることは「畏まる」と言われており、もともとは、平民が貴族に平伏※したり家臣が殿に畏まったりする場合に使われる座り方でした。
「畏まる」のに正座が使用されるようになったのには、しっかりとした理由があります。
現在では、能楽以外ではめったに見かけませんが、当時の武士は正装として長裃を着ていました。
長裃は裾がとても長いことが特徴で、見てのとおり非常に動きにくい格好です。
これは家臣達を動きにくくさせることで、将軍の身の安全性を高める意図が含まれているのだとか。
正座も同様に、家臣の足をしびれさせることで、将軍が急に襲われないようにするという趣旨が含まれていたそうです。
このようにして、武家社会を中心に江戸時代の間に正座が普及し、茶道や能楽でも安座をやめて正座をする様になっていきました。
ちなみに、中国には正座の文化は残されていませんので、現在も一般的に正座の座り方が定着しているのは日本のみとなります。
※平伏:恐れ入って地面に伏せ、礼をすること。
【 明治時代】正座の定着
「正座」と言う呼び名は、明治15年(1882年)の『小学女子容儀詳説』や昭和16年(1941年)の『国民礼法要項』などで確認できます。
明治維新後、欧米諸国との対比を強調し、日本人としての意識を強めるため、また身分制の廃止で国民を平等に扱うという意味で、「正しい座り方」として「正座」が採用されたといわれています。
また、庶民への畳の普及も、これを後押ししたと考えられています。
江戸時代、明治時代と、時代ごとに思惑があって「正座」の定着は図られてきたのです。
ぶっちゃけ正座ってしんどい・・・でも長所もある?
正 座への疑問
ここまで正座の歴史を紹介してきましたが、正座って正直しんどいですよね。
足がしびれてしまうので、長時間座るのに適した座り方でないことは明らかです。
舞台の上でずっと正座をしている能楽師も、足腰の故障が多いといわれています。
海外の方が文化体験をするときにどうしても正座ができないとか、日本人でも正座が苦手だから茶道が続けられなかった、という話もよく耳にします。
仏像もみな胡坐をかいていますし、座禅も安座で行います。
正座していたら、足が痛くてきっと瞑想なんかできないでしょう。
あえて正座をすることで、良いことはあるのでしょうか?
正 座の長所
正座の最大の長所は、姿勢の良い座り方ができることでしょう。
姿勢が悪い人が日常的に正座をすれば、背筋が伸び、姿勢の改善に繋がるかもしれません。
また一説では、背筋をまっすぐに伸ばして正しく正座を行うことで、胃腸の働きを良くしたり、眠気を防いで集中力を上げる効果が得られるといわれています。
そして正しく正座ができていれば、物事の所作が洗練されますから、周りからは格好良い人、スマートな人に見える可能性もありますね。
さらに言えば、個々にとっての利点かは微妙ですが、単位面積当たりの収容人数が多くなる、というのも長所といえるでしょう。
正座は避けられない!正座のコツ
足 がしびれない正座の仕方
機会は減っても、日本の行事において避けられない正座。
足がしびれず座れる方法は、あるのでしょうか?
結論から言えば、残念ながらそんな方法はありません…。
強いて言うとするなら、「慣れ」です。
現代人は、100年前の日本人と比べて明らかに体格が大きくなっており、正座をする上で昔の人よりも不利になっています。
しびれが発生してしまうのは、ある意味仕方のないことなのです。
しかし、しびれを軽減するコツや方法は存在します!
かかとを外向きに開く
一つめは、足のかかとを外向きに開いて座る方法です。
お尻を直接かかとに乗せないようにすることで、体重が足首にかかって血流が圧迫されるのを多少軽減してくれます。
そして、左右のつま先の重ね方を定期的に組み替えることで、足を交互に休ませることができます。
正座用の椅子を使う
また、飛び道具的ではありますが、正座用の椅子のようなものも存在します。
お尻と足の間に置いて座ることで、足に体重をかけないようにしてくれたり、足や腰が悪い人が正座をするのを助けてくれたりします。
しびれを解消する方法
しかし、一番正しい対処方法はしびれないことではありません。
しびれた後の復帰法が、なにより大事なのです!
正座中に足がしびれてしまった時は、立つ前に、足首だけ曲げた状態でつま先を立て、正座して体重をかけることで、一気にしびれが軽減して立てるようになります。
足がしびれた時は、無理をすると転んでしまう恐れがあるので、しびれが直ってから立ち上がるようにしてくださいね!
おわりに
今回は、日本文化と切っても切り離せない「正座」について深掘りしてみました!
「足が辛いからやめちまえ!」とつい叫びたくなりますが、正座にはメリットもあります。
正座をすることから逃れられなくなった時は、ぜひこの記事を思い出してみてくださいね!
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