舞妓さんを彩るものの一つに「花かんざし」があります。

顔の周りを明るくする花かんざし。

実は、季節によって違うものを身に付けており、舞妓さんの花かんざしを見れば季節の移ろいがわかる、まさに風物詩なんです!

この記事では、舞妓歴によっても違ってくる、舞妓さんの花かんざしと、その特徴を季節ごとにご紹介します。

舞妓さんの花かんざしとは

舞妓さんが花かんざしを付ける目的とは?

舞妓さんの華やかさをいっそう際立たせるのは、日本髪を飾る花かんざしです。

季節ごとにモチーフとなる花や樹木などの装飾品が異なります。

それは植物などの生命力にあやかり邪気を払うことや、季節の行事を表すことが目的とされていました。

舞妓歴や季節によって変化する前挿しとかんざし

舞妓さんの髪を飾るかんざしは、いくつかを組み合わせて使います。

頭の上部を掛けるように付ける「前挿し」と、顔の周りを飾る「かんざし」です。

前挿しやかんざしは舞妓さんの経験年数によって変わります。

中でも、花をモチーフにしたかんざしのことを「花かんざし」と呼びます。

舞妓さんになりたての頃は、小さな花をたくさん使った華やかな飾りの前挿し「勝山かつやま」と、顔の横に花びらのような飾り(ブラ)の垂れるかんざし(「だいかん 」とも呼ばれる)を身に付けます。

この「勝山」とは、髪の結い方を表すものとは別物です。

お姉さん舞妓になってくると、徐々に花が大ぶりになり、ブラがなくなり、色合いも落ち着いたデザインに変化。

舞妓歴2〜3年を迎え、髪型を“おふく”に変える頃には、前挿しとかんざしのみというさらに落ち着いた大人の雰囲気になります。

このように、舞妓歴によっても変わるかんざしですが、季節ごとの変化も楽しみの一つ。

春夏秋冬だけでなく、行事ごとにも変化があるのも特徴です。

どのようなかんざしがあるのか、季節ごとに見ていきましょう。

【春】の舞妓さんの花かんざし

春は桜と踊りの季節が重なり、京都は一気に華やかな雰囲気に。

上七軒の「北野をどり」が3月末にはじまるのを皮切りに、祇園甲部の「都をどり」、宮川町の「京おどり」、先斗町の「鴨川をどり」まで駆け抜けます。

また、平安神宮の例大祭翌日には奉納舞踊もあり、京都全体が踊りの行事でいっぱい。

この時期の舞妓さんのかんざしも、京都の賑やかさを象徴するような色鮮やかで華やかなものばかりです。

3 月(弥生)

菜の花

3月によく使われるモチーフが菜の花です。

黄色が鮮やかで明るい印象を与えます。

京都の街中では黄色の花を付ける舞妓さんを多く見かけるはず。

同じ菜の花をモチーフにしていても、舞妓さんによってデザインは異なります。

蝶が舞っているもの、ピンクや緑の花も含まれたものなど、それぞれ個性があり目を引きます。

水仙

次いで水仙もよく見かけます。

黒髪に黄色や白の花がよく映え、花の大きさによって華やかさを調整することが多いようです。

新米舞妓は小さな水仙を多く集めたものを、お姉さん舞妓になると大ぶりの水仙が数本というかんざしを付けることもあります。

その他にも「牡丹」や「桃」といった花かんざしも使われます。

かんざしは、舞妓さんの好みや置屋(舞妓さんの事務所のようなところ)のおかあさんの趣味が反映されるため、多くの舞妓さんが集まる場所ではさまざまなデザインの花かんざしを比べ見ることができますよ。

4 月(卯月)

4月になると春を前面に出した花かんざしが目立ちます。

代表となるのが桜や蝶々です。

桜はピンクといっても濃いものから薄いものまでさまざまです。

濃い色は小さい舞妓さん(若手の舞妓さん)が、色が薄くなるにつれてお姉さん舞妓が使うようになります。

また、少し落ち着いた印象にするために水色や白を使うこともあり、同じモチーフであっても印象は舞妓さんによって変わるのが特徴です。

蝶々

縮緬ちりめんなどの布で作られた蝶々は若手の舞妓さんが使うことが多く、金属で作られた蝶々はお姉さん舞妓に似合うとされています。

素材によっても舞妓歴の変化を知ることができる、面白い仕掛けです。

5 月(皐月・菖蒲月)

春も終わりかけの5月には、落ち着いた色の花かんざしに変わっていきます。

藤は、薄紫や白の花のデザインが多いです。

ブラ(若手の舞妓さんの顔横に垂れるもの)がないかんざしでも、少し垂らすことで藤の花を再現することがあります。

あやめ・菖蒲

あやめにも定番の紫以外のものがあり、舞妓さんの好みやイメージによって選ぶようです。

暑さのはじまる時期ですが、花かんざしを見ることで涼しげな雰囲気を感じられます。

【夏】の舞妓さんの花かんざし

夏の時期には暑さが京都を包みます。

行事も多く、6月下旬の五花街合同公演「都の賑い」では各花街で選ばれた芸舞妓が舞台で華やかな舞を披露します。

7月には祇園祭一色となり、ビアガーデンを開催する花街も。

浴衣姿の舞妓さんに会えることで人気のイベントです。

8月には、日頃の感謝を伝える八朔の挨拶まわりが行われたり、先斗町では盆踊りが開催されたりします。

忙しさのピークともいえる夏の京都。

行事に関する花かんざしにも注目です。

6 月(水無月)

6月には柳や紫陽花を模した花かんざしがよく見られます。

柳は青々しい緑が涼やかなデザインです。

時には小花をあしらうことで、かわいらしさをプラスすることも。

紫陽花

紫陽花は、大きな花をそのまま髪に刺したかのような華やかな花かんざしです。

定番の薄紫だけでなく、ピンクや緑、青などを入れ、カラフルなデザインのものや、落ち着いた印象の白の紫陽花もあります。

梅雨時で気分が落ち込むこともありますが、舞妓さんを見かけるだけで少し元気がもらえそうですね。

7 月(文月)

祇園祭

7月になると、京都は祇園祭一色です。

舞妓さんの花かんざしにも祇園祭をモチーフにしたものがあります。

団扇や扇があしらわれたかんざしで、祇園祭が開かれることをお祝い。

また、色が薄かったり、透けている素材を使っているものもあり、暑い中に涼しさを感じられるようなかんざしとなっています。

梵天

祇園祭の時にだけ結うことができる髪型「勝山」の時には、まげの部分の両脇から梵天ぼんてんという特別なかんざしを挿します。

勝山を結えるのは舞妓歴2〜3年を迎えた、おふくの舞妓さんだけ。

しかし、割れしのぶの舞妓さんもお祭りのかんざしで飾ります。

祇園祭以外の時期には「金魚」や「花火」といった夏らしいかんざしで夏らしさを演出します。

8 月(葉月)

8月は朝顔やすすきを模した花かんざしを使うことが多いです。

朝顔

すすき

すすきと聞くと「秋では?」と感じる方もいるかもしれませんが、旧暦では8月は秋の入り口。

舞妓さんのかんざしは少し先取りするくらいが粋とされているので、8月にすすきは間違いではありません。

すすきというと稲穂のようなものをイメージするかもしれませんが、花かんざしのすすきは銀色の一輪の花のようなデザインです。

一見するとすすきには見えないかもしれませんが、多くの舞妓さんが愛用しているかんざしになります。

光が当たるとキラキラと反射して綺麗です。

また、京都では8月に八朔の挨拶まわりがあります。

祇園甲部では黒紋付の正装をして、お世話になっている師匠やお茶屋に感謝の挨拶をしてまわります。

礼儀を重んじる京都ならではの行事ですね。

【秋】の舞妓さんの花かんざし

夏の忙しさを終えると秋に入ります。

時間ができるかと思いきや、秋は芸事の成果を披露する発表会の季節です。

・祇園甲部の温習会
・宮川町のみずゑ会
・上七軒の寿会
・先斗町の水明会
・祇園東の祇園をどり

と、各花街で舞踊会が開かれ、芸舞妓の稽古の成果を披露します。

日々のお座敷だけでなく、稽古にも忙しい秋の舞妓さんを彩る花かんざしを見ていきましょう。

9 月(長月)

桔梗・萩

まだ暑さの残る9月には桔梗や萩の花かんざしを使います。

どちらも小花をあしらったものが多く、白や紫、緑やピンクといった比較的落ち着いた色味。

夏の鮮やかな花かんざしとは少し違った印象を与えます。

桔梗は夏の花というイメージが強いですが、秋の七草に含まれた秋の花。

残暑の京都にぴったりのモチーフですね。

1 0月(神無月)

10月になると菊のかんざしを身に付けた舞妓さんを多く見かけます。

菊というと黄色や白のイメージがありますが、かんざしになると赤やピンクも使われ、華やかさがアップ。

また、大きな一輪挿しはお姉さん舞妓が、小菊がたくさんついたものは若い舞妓さんが付けます。

同じ菊のモチーフでも、色や大きさが異なることで印象が大きく変わります。

1 1月(霜月)

紅葉(もみじ)・銀杏(いちょう)

11月には紅葉や銀杏といった秋を代表するモチーフが施された花かんざしが目立ちます。

黄色がメインになりますが、オレンジや赤、ピンクや白といった華やかな色味が加わることも。

大きい舞妓さんが使うシンプルなかんざしは、緑から赤に染まる紅葉の様子を表した粋なかんざしもあります。

【冬】の舞妓さんの花かんざし

冬の京都は年末年始にむけた準備で大忙しです。

各花街の芸舞妓総出で歌舞伎を観劇する「顔見世総見」や年末のご挨拶、年が明けてからは芸舞妓の学校・女紅場にょこうばの始業式や新年の挨拶、豆まきや奉納舞といったイベントごとが盛りだくさん。

寒さの厳しい京都を駆け回る、舞妓さんを彩る花かんざしをご紹介します。

1 2月(師走)

まねき

12月には顔見世総見と呼ばれる、芸舞妓そろって歌舞伎を観劇する会が催されます。

それに合わせて、まねきと呼ばれる、歌舞伎役者の名前が書かれた看板を模したものを付けたかんざしを身に付けます。

そして、顔見世総見後に贔屓の役者を訪ね、まねきを模した木の板にサインを書いてもらう習慣があり、心待ちにしている舞妓さんもいるのだとか。

1 月(睦月)

松竹梅・稲穂に鳩

新しい年を迎えてからは、新年を祝うかんざしを身に付けます。

松竹梅や稲穂に鶴を模したものなど、縁起のいいものをモチーフにしたものが多いです。

稲穂には「稲穂のように頭をたれて謙虚に生きます」といった意味があるのだとか。

稲穂についた鳩には目が入っておらず、ご贔屓さんや意中の人に目を入れてもらう風習も。
元日から15日までは正装(紋付)のため、鼈甲と稲穂のかんざしを付けます。

2 月(如月)

2月は春の訪れを表す梅が用いられることがあります。

赤、白、緑といった明るい色味が使われ、春が近づいていることを知らせます。

先輩舞妓は大きな一輪の梅の花を、小さい舞妓さんは小花が散りばめられたかんざしを使うことも。

くす玉

また、2月には「節分お化け 」と呼ばれる楽しいイベントもあります。

厄除のために扮装をしてお座敷をまわるもので、舞妓さんは町娘のような格好をすることも。

この際にかわいらしさを表すために、くす玉のかんざしを身に付けることもあります。

花かんざしの歴史

日本の伝統的な髪飾りである花かんざしには、どのような歴史があるのでしょうか。

かんざし自体は縄文時代の出土品にも見られており、当時は1本の先端の尖った細い棒というシンプルな形状で、邪気払いのお守りとして髪に挿して用いられてきました。

かんざしの語源は、この“髪挿かみさし”からきているという説があります。

奈良時代には唐(現在の中国)からの文化伝来でかんざしの形も影響を受けて変化していきますが、垂髪が主流だった平安時代には廃れてしまいます。

その後、安土桃山時代頃から結髪が多くなったことで、かんざしが広く使われるようになっていったのです。

花かんざしが登場するのは、かんざしの最盛期とされる江戸時代末期。

天明5年(1785年)に京都の宮中で生まれた“つまみ細工”が発展を遂げ、かんざしに応用された結果、花かんざしが作られるようになりました。

つまみ細工については、以下の記事でも詳細をご紹介していますので、あわせてご覧ください。

おわりに

常に華やかな舞妓さんですが、季節ごとに異なった花かんざしで華やかさをいっそう際立たせています。

そのときどきの季節感を表現した花かんざしは、手作りのため繊細で、舞妓さんの儚さを引き立てる存在です。

見かけるたびに違った花かんざしを身に付ける舞妓さん。

どの季節の花かんざしなのか、舞妓歴がどのくらいの舞妓さんなのかを予想してみるのも面白いかもしれませんね。