平成から令和への改元に伴い、令和元年(2019年)10月22日に天皇陛下のご即位にあたって行われた「即位礼正殿そくいれいせいでんの儀」。

世界各国で中継されたその映像は、みなさんにとっても記憶に新しいのではないでしょうか。

そんななか、同時に国内のニュースで連日放送されている「恩赦おんしゃ」という制度。

聞き慣れない言葉なので、「一体どんな制度だろう?」と疑問に思っている人も多いはず。

そこで、今回は即位礼正殿の儀に合わせて行われる「恩赦」について解説します。

そもそも恩赦とは?

恩赦おんしゃ」とは、新天皇陛下のご即位に伴い、政府がすでに決定している刑事裁判や刑事罰に対する内容や効力を軽減・消滅させる制度です。

その歴史は古く、日本においては奈良時代にはすでに恩赦が行われていたそうです。

また、世界の歴史上では日本のみならず、中国やアメリカ、イギリス、フランスなどでも実施された背景があります。

現在の日本で行われる恩赦は日本国憲法に定められており、内閣が決定を下して天皇陛下が認証する国事行為となっています。

恩赦の制度を行う意味、日本の恩赦制度に至る歴史

日本に恩赦制度という概念が入ってきたのは、文武天皇もんむてんのう4年(701年)に確立された、大宝律令たいほうりつりょうがきっかけであったといわれています。

当時の日本は、中国の刑法や行政法を基に大宝律令を作ったため、中国の法律の中にあった恩赦も同時に組み込まれたというわけです。

当時の中国における恩赦の意味合いは

● 新しい王朝の権威を国民に見せ支持率を上げる
● 新王朝に伴う法律の変更により、過去の罪を一旦リセットする

主にこの二つの意味合いが強かったといわれていますが、日本における恩赦の意味は少し独特です。

日本では、新天皇のご即位や皇太子が立てられたタイミングで恩赦を行うことで、天皇による統治のありがたさを国民に広めたり、災害や飢餓などの不幸時には”けがれ”を払い、救済の意味を持たせるために恩赦を行うなど、日本独自の政治として発達してきた歴史があります。

昔はかなり頻繁に恩赦が行われた時代もあり、持統天皇じとうてんのう10年(697年)~延暦えんりゃく9年(791年)の約100年間の間だけでも60回以上施行されるなど、現在よりもかなり頻繁に行われてきました。

恩赦は本当に必要?

今回の恩赦の実施について、菅義偉すがよしひで官房長官は、「罪を犯した人の更生や改善の意欲を高め、社会復帰を促進するという見地から恩赦を実施する」と述べました。

実はこの発表があるまで、菅官房長官は恩赦を実施するかどうかについての言及を避けてきました。

なぜなら、恩赦は刑事罰の内容を変えることができるという、とても効力が大きな制度であり、犯罪被害者や遺族の心情を考え、国民の混乱を避けるため。

また、今回実施される恩赦では、平成で行われた恩赦よりもかなり対象の規模を縮小しました。

それでも国民の過半数からは恩赦の実施に反対意見がでているものの、完全に排除するのではなく「刑罪の軽減内容を見直してほしい」、「奨学金の免除などに活用するべき」という声が上がっているため、恩赦制度自体の存在の疑問の声よりも、施行される内容に注目が集まっているようです。

恩赦で交通違反が免除される?

今回の恩赦は大半が交通違反の復権といわれていることから、「交通違反が免除されるのか?」、「点数はどうなる?」といった意見が目立ちますが、注意するべきポイントは3つ。

① 対象者が罰金刑を伴う刑事罰において、恩赦の3年前(2016年10月21日)までに罰金の支払いが終わった者であり、かつ、その後再犯をしていないこと
(※特別対象者は別)

② あくまで「復権」であり「免除」ではない

③ 恩赦は裁判により確定した刑罰である「刑事処分」が対象となる

「免除」とは刑の執行が免除されることを指し、「復権」とは刑罰によって生じた資格の剥奪や権利を回復するといった意味合いになります。

そして交通違反の点数やそれに伴う免許の停止、取り消し、反則金は「行政処分」です。

つまり、恩赦により免許の停止・取り消し処分がなくなる、反則金が返金となる、ということはありません。

多くの方が気になっているであろう免許の色についても、今回の恩赦により交通違反点数がリセットされ、ブルーからゴールドに戻ることはないのです。

豆知識

では、恩赦ってどんな人にとってメリットがあるの?と疑問に思いますよね。

例えば、交通違反で罰金刑を課せられると、一定期間中に一定の国家資格の受験を制限される資格があります。

通常こういった資格制限は、罰金を支払ってから5年経てば制限が消滅するのですが、今回の恩赦でこの5年の制限期間が3年に短縮されます。

つまり、罰金の支払いを終えてから令和元年(2019年)10月21日までに3年が過ぎていれば、その間に再犯をしていない限り、罰金に伴う資格制限がなくなるのです!

また、「現在重病で刑が執行されていない」、「3年以内の罰金刑」なども個別恩赦で復権できる場合があります。

一般の対象者と違い、個別に判断される対象者を特別対象者と呼びます。

恩赦法の種類

恩赦には主に「政令恩赦せいれいおんしゃ」と「個別恩赦こべつおんしゃ」の2種類のグループがあります。

その中には「大赦たいしゃ」、「特赦とくしゃ」、「減刑げんけい」、「刑の執行の免除」、「復権」の5つの種類が振り分けられています。

大←———効力———→小
恩赦の種類大赦特赦減刑刑の執行の免除復権
政令恩赦
個別恩赦

では、それぞれがどのようなものなのか、詳しく見ていきましょう

政令恩赦とは

政令恩赦は、刑罰の種類ごとに政令を定めて、一律に施行されます。

日本の国家的なお祝い事があった場合に実施されることが多く、今回の新天皇陛下誕生に伴う恩赦もこの「政令恩赦」にあたります。

政令恩赦には「減刑」や「復権」の他、政令恩赦ならではの「大赦たいしゃ」と呼ばれる恩赦があるのが特徴です。

個別恩赦とは

個別恩赦は、5人の有識者からなる中央更生保護審査会によって、1件ずつ個別に恩赦の内容を審査し、恩赦が相当と判断された場合に同審査会の申し出により行われます。

あまり知られていないのですが、「個別恩赦」は国の慶弔けいちょう時とは関係なく普段から行われており、これを「常時恩赦」と呼びます。

その数は年間で30件前後といわれており、あまり珍しい恩赦という訳でもありません。

また、個別恩赦の中には常時恩赦ともう一つ、「特別基準恩赦」というのがあります。

特別基準恩赦とは、上でお話した政令恩赦の対象から外れた者に対し、内閣の定める一定の期間に限って行われます。

個別恩赦には「特赦」、「減刑」、「刑の執行の免除」、「復権」があります。

では、次は政令恩赦・個別恩赦で行われる恩赦の種類について、もう少し詳しく見ていきましょう。

恩赦の種類

大赦たいしゃ≫ 恩赦法2条、3条
大赦とは、有罪の言い渡しをされた人は言い渡しの内容が無効となり、罪の言い渡しを受けていない人については公訴権が消滅するという内容です。

つまり、”罪がチャラになる”という、恩赦の中でも特に大きな効力を持つもので、大赦が行われた場合、受刑者であれば刑務所から釈放され、警察からの捜査を受けている人は捜査の打ち切りになります。

特赦とくしゃ≫ 恩赦法4条、5条
特赦というのは、有罪の言い渡しを受けた人のなかでも特定の人に対し、有罪の言い渡しの効力を消滅させるという内容です。

恩赦法では、恩赦の時点で有罪判決を受けていない人は対象になりません。

≪減刑≫ 恩赦法6条、7条
減刑は、刑の言い渡しをされた人に対して、罪や刑の種類を軽減する恩赦の一つです。

こちらは漢字のイメージどおり、懲役刑などの期間が短縮されたり、刑が軽いものに変更されるというもの。

また、執行期間中であれば猶予期間を短縮することもあります。

≪刑の執行の免除≫ 恩赦法8条
刑の言い渡しをされた特定の人が対象となり、その刑の執行が免除されます。

無期懲役の人は仮釈放となったり、保護観察中の人は保護観察が終了となったり、社会復帰の促進のために行われることがあります。

≪復権≫ 恩赦法9条、10条
刑の言い渡しによって資格停止になってしまったり、資格の喪失をした人は、資格を復権することができます。
 
ただし、刑の執行が終わっていない人や、執行の免除を得ていない場合には行われません。

過去には選挙法違反による公民権の停止などが対象となった例もあります。

過去と現在、恩赦の内容と対象者の違い

恩赦制度はその時代ごとに対象者を大幅に変えてきた歴史がありますが、今回の対象者は例年と比べてどのような違いがあるのでしょうか。

過去の憲法下で実施された恩赦

恩赦の歴史は非常に長いですが、具体的な人数で比較しやすい対象としては、現在の日本国憲法下で施行された戦後の恩赦といえるでしょう。

当時の総人口には違いがあるものの、同じ法律をもとに対象人数を比較することができます。

戦後に実施
された恩赦
恩赦の理由政令個別恩赦対象者の人数
大赦減刑復権
昭和昭和20年(1945年)10月17日終戦424,425人
昭和21年(1946年)11月3日日本国憲法公布169,874人
昭和22年(1947年)11月3日戦後2回の恩赦の修正×××4,750人
昭和27年(1952年)4月28日サンフランシスコ講和条約発効1,006,628人
昭和27年(1952年)11月10日上皇陛下 立太子の礼×××3,478人
昭和31年(1956年)12月19日日本の国連加盟××71,782人
昭和34年(1959年)4月10日上皇上皇后両陛下のご成婚××48,738人
昭和43年(1968年)1月11日明治100年記念××152,818人
昭和47年(1972年)5月15日沖縄本土復帰××34,503人
平成元年(1989年)2月24日昭和天皇 大喪の礼×10,170,000人
平成平成2年(1990年)11月12日上皇陛下 天皇即位の礼×××2,500,000人
平成5年(1993年)6月9日天皇皇后両陛下のご成婚××1,277人
令和令和元年(2019年)10月22日天皇陛下 天皇即位の礼××約550,000人

現在の上皇陛下の天皇即位礼を例にとると、今回の対象者人数に比べて4.5倍以上の人数が恩赦の対象となりました。

このことからも、ご即位時の前例と比べて、かなり小規模に抑えられていることがわかります。

過去の恩赦のポイント
● 国家の慶弔に伴い戦後計13回の恩赦を実行。
● サンフランシスコ条約発効以降は軽微の減刑が主体。
● 戦後13回に渡る恩赦の対象者数が最も多かったのは”昭和天皇崩御”の約1017万人。
● 沖縄本土復帰時はアメリカ統治時代の刑罰救済も大いに含有された。

現在の憲法下で実施される予定の恩赦

今回の恩赦は、平成12年(2000年)に制定された犯罪被害者保護法・平成16年(2004年)に成立した犯罪被害者等基本法などに基づいた「国民の被害者感情を重視する」といった流れが加味されています。

刑期を短くする減刑や、刑の効力が消滅する大赦は実施せず、資格を回復する復権のみ行い、その対象者も約55万人に限定されることから、過去の例と比べると対象の恩赦の種類や規模も確実に縮小されています。


  令和改元に伴う復権の対象となる約55万人の内訳(法務省の推定値)
  

  道路交通法違反(酒気帯び、無免許、速度超過など)
  

  65.2%
  

  過失運転致死傷など
  

  17.4%
  

  傷害・暴行
  

  3.3%
  

  窃盗
  

  2.6%
  

  その他(公職選挙法違反など)
  

  11.4%
  

また、上皇陛下のご譲位(生前退位)と即位礼正殿の儀が短期間であったことによる国民感情も加味され、即位礼正殿の儀のみに対して恩赦が実施されることとなりました。

今回の恩赦のポイント
● 天皇陛下の「即位礼正殿の儀」に伴い政令恩赦を実施。
● 対象者は上皇陛下御即位時の約5分の1に規模を縮小。
● 大赦や減刑は行わない方針で、復権のみを予定。
● 昭和天皇崩御は対象者数1000万人以上の恩赦に対し、上皇陛下譲位による恩赦は行われなかった。

おわりに

天皇陛下のご即位に伴う恩赦の歴史は古く、日本独自の政治的な文化としての意味合いが強くなり独自の進化を遂げてきました。

ただ、その存在意義や内容のあり方については賛否両論なので、私たちが恩赦法の内容そのものに関心を向ける必要がありそうですね。

今回の新天皇陛下ご即位に伴う恩赦法は、これからのあり方について考える良いきっかけとなったのではないでしょうか。