江戸切子は日本の伝統的工芸品の一つで、江戸時代末期に江戸(東京都)で誕生しました。
江戸切子の文様(模様)は、光の当たり方によってさまざまに煌めき、その美しさは日本人のみならず海外からも賞賛されています。
今も東京を中心に100人ほどの職人が、受け継がれてきた技を駆使し、作品を生み出し続けています。
自分で楽しむだけでなく、大切な人に贈る品としても人気の江戸切子。
今回はその江戸切子の世界の中でも、刻まれる文様に焦点を当て、それぞれの文様の意味などをご紹介します。
「江戸切子」とは、国および東京都が指定する伝統工芸品のひとつです。ガラスの表面を彫り、美しい紋様を刻んでいく技法(もしくは紋様そのもの)を指します。そもそも「切子」とはカットグラス技法を意味する言葉。そのため、「薩摩切子」や「切子工房」など、「切子」という名を冠する商品・店舗は各地に存在しています。
江戸切子の文様(模様)は何種類あるの?
そもそも、江戸切子の文様はどれくらいあるのでしょうか?
実は、江戸切子に使用される文様は、はっきりとした数が決まっているわけではありません。
ホームページで文様を説明している工房は複数ありますが、工房ごとにそれぞれ重視している文様があるため、取り上げられる文様の数や種類も少しずつ異なっています。
また、古くから伝わる伝統の文様だけでなく、現在活躍している職人達によって新しい文様も発明されています。
それだけではなく、彫られる場所によって呼び方が変わったり、二つの文様を重ね合わせて一つの文様を作ったりということも。
さらに、同じ文様でも線と線の幅や、彫りの深さを変えるだけでも印象ががらりと変わります。
このように江戸切子は非常に奥の深いもののため、文様は代表的なものをカウントするだけでも15種類以上あると言われます。
江戸切子の代表的な文様(模様)と意味、特徴
たくさんの種類がある江戸切子の文様ですが、今回はその中でも比較的よく使われる10種類をご紹介します。
魚 子紋
魚子紋は、織物や金工品といったさまざまな日本の伝統工芸品において、古くから使われてきた文様です。
江戸切子の中でも基本的な文様の一つで、魚の卵のように連なった細かなカットが光を受けて輝きます。
古く、「魚」は“な”と読まれており、「魚の子」から“ななこ”となりました。
魚子紋はその言葉のとおり、魚の卵がびっしりと並ぶ様子から名付けられ、子孫繁栄の意味が込められています。
ちなみに、この“ななこ”の音から、7月5日は「江戸切子の日」と定められています。
このことからも、魚子紋は江戸切子の中で大切にされてきた、歴史ある文様であるということがよくわかりますね。
菊 つなぎ紋
文様のネーミングのパターンとして、植物を由来とするものがあります。
菊つなぎ紋はその一つで、菊の花が連なっているような文様が特徴です。
この菊の花は直線だけで表現されるのですが、非常に細かい線を連続させて彫らなくてはならないため、江戸切子の中でも難易度の高い文様だといわれています。
菊つなぎ紋は、職人の腕の見せ所というわけですね。
菊は薬として使われてきたことから、菊つなぎ紋には不老長寿の意味がありますが…
女性の名前に「菊子さん」と同じ読み方で「喜久子さん」がありますよね?
菊つなぎ紋には、菊の不老長寿という意味以外にも、この「喜久」に込められた「喜びを久しくつなぐ」という、とても素敵な意味も込められているそうです。
六 角籠目紋
六角籠目紋は、竹を60度に交差させて作られた竹籠の文様をイメージして作られます。
竹を60度交差させて編むと、中央に六角形ができあがります。
このように、生活の身近なものを由来としてネーミングされるのも江戸切子の文様のパターンの一つです。
籠の文様は「籠目」と言われ、その一つひとつが魔を見張る目として日本では古くから魔除けの意味合いがありました。
八 角籠目紋
八角籠目紋は、六角籠目紋と同じように籠の文様をイメージして作られますが、こちらは45度に交差させているため、できあがる図形は八角形です。
1本1本の線の刻み方が細かく、手間と技術が必要とされることから、高級な作品によく使われる文様です。
六角籠目紋と同様、魔除けの意味が込められています。
菊 花紋
江戸切子には小さい柄が連続する文様が多いのですが、この菊花紋は一つだけでも存在感を発揮する、華やかで目を引く文様ですね。
グラスの底の部分にこの文様を大きく使った作品は「底菊」と呼ばれ、花が飲み物に浮かんでいるようにも見えます。
麻 の葉紋
麻の葉紋は、日本の文様の中でも非常に伝統のある文様の一つです。
麻の葉を上から見た姿を表しており、平安時代から仏像の装飾などに使われ、江戸時代には着物の柄として広く人気を博しました。
忍者は、地面に植えられた麻の上を毎日ジャンプすることによって跳躍力を鍛えていたという話をご存じでしょうか?
麻はとても成長が早いという特徴があるため、どんどんレベルが高くなるトレーニングができるわけです。
まっすぐにすくすくと育っていく麻の特徴から、元気な成長を願う思いが込められています。
笹 の葉紋
菊花紋と同様、単独でも見栄えのする文様です。
笹は根がとても広く張り、暑さ寒さにも強く、冬でも緑の葉のある植物。
そのため笹は生命力の強さの象徴とされ、江戸切子では上向きに伸び伸びと刻まれます。
矢 来紋
竹を交差して作られる囲いである「矢来」をイメージして彫られる文様です。
外敵から防ぐ意味から、魔除けの意味があると言われます。
シンプルで素朴な文様ですが、カットの深さを変えることにより違った雰囲気をみせ、他の文様の引き立て役としても活躍します。
七 宝紋
七宝紋とは、円を4分の1ずつ重ねて作られる文様です。
4つなので本来は四方なのですが、音が似ているため仏教用語の七宝※に繋がったとのこと。
円が重なって続くことから、円満・平和の意味が込められています。
曲線を彫るには高い技術を必要とするのですが、七宝紋は曲線ばかり。
高い技術で作られた七宝紋は柔らかい印象を与えてくれます。
直線の光の鋭さに対し、温かく浮かび上がる光を楽しめる文様です。
※七宝:仏典中に出てくる金・銀・水晶・瑠璃・瑪瑙・珊瑚・硨磲の7種の宝。
亀 甲紋
「鶴は千年、亀は万年」の亀の甲羅をモチーフにした六角形が亀甲紋です。
正倉院の文物にも見られ、平安時代から現代まで非常に人気のある文様です。
亀は本当に百年以上生きることがあるほど、長命の生き物なんですよ。
また「吉向」の読みと同じことから、吉に向かうという意味もあります。
江戸切子でも長寿吉兆を願って、よく使用される文様です。
オ リエステル折り紙で江戸切子の文様を愉しむ!?
江戸切子では伝統的な文様だけではなく、新しい文様も発明されています。
華硝という江戸切子の工房には、豊穣・繁栄を願う“米つなぎ”というオリジナルの文様があります。
平成20年(2008年)に行われた洞爺湖サミットでは、国賓への贈答品であるワイングラスに、この米つなぎ文様が使われました。
米つぶの文様が整然と流れるように続くのですが、すべて職人の勘で刻まれるとのこと。
華硝の一流の職人としての技量の高さが見て取れる文様です。
ここでご紹介する商品は、オリエステルという素材を開発した東洋紡と、華硝とのコラボによって生まれた「オリエステル折り紙」です。
米つなぎをはじめとした、5種類の江戸切子の文様がとても鮮やか!
オリエステルは折り紙のように使えるだけでなく、水に強い素材のため、水に浮かべたり、コースターとして使ってみたり、用途はさまざま♪
お手軽な値段で、江戸切子の文様が身近に楽しめますよ。
おわりに
一口に江戸切子といってもいろいろな文様があります。
一つの作品でもいくつかの文様が組み合わされ、お互いを引き立て合います。
それぞれの歴史や意味を考えながら見ると感動もひとしお。
見れば見るほどに、江戸切子の世界を味わわせてくれるでしょう。
ぜひ、文様を通して江戸切子の奥深さに触れてみてください。
大正12(1923)年創業の清水硝子で働く中宮涼子さんは、江戸切子初の女性伝統工芸士。
今回は、職人になったきっかけや一つ一つの作品に込められた想い。
この仕事をしている上でのこだわりなどを詳しく伺った。
日本には何十年、何百年も前から受け継がれてきた技術を用いた、伝統工芸品が数多く存在します。技術の革新により機械化が進み、安価で使いやすい商品がどんどん市場に出回っている昨今、手作業で作られる伝統工芸品は需要が少なくなり、追い詰められているのが現状です。