書道や絵画など、さまざまなジャンルで高く評価を得る熊野筆は、近年、化粧ブラシやボディブラシが注目を集めています。
熊野筆の特徴は、原毛の良さを生かしたなめらかな触感。
天使の羽とも例えられるほど柔らかく繊細な毛先は、イタチやタヌキ、馬などの毛が原料として使われており、その毛先をカットすることなく使用するという伝統の製法が用いられています。
今回は、美しく実用的な伝統的工芸品である熊野筆とはどのようなものなのか、その製作工程や魅力、化粧筆のお手入れ方法、オススメの店舗について詳しくご紹介しましょう。
熊野筆とは?
「熊野筆」とは、伝統的製法を用いて穂首を広島県安芸郡熊野町内で製作された筆のみが名乗ることのできる筆の総称です。
熊野町での筆作りは江戸時代末期から180年以上の歴史を持ち、“筆の都”といわれるほど今も職人がその技術を連綿と受け継いでいます。
また、昭和50年(1975年)には国の伝統的工芸品の指定を受けています。
経 済産業大臣指定伝統的工芸品熊野筆と指定外の熊野筆
熊野筆には、経済産業大臣指定伝統的工芸品熊野筆と指定外の熊野筆があります。
それぞれどのような違いがあるのかを順に見ていきましょう。
経済産業大臣指定伝統的工芸品熊野筆
原材料穂首に山羊、馬、鹿、タヌキ、イタチもしくは猫の毛、またはこれらと同等の性質を有する獣毛を使用し、軸は竹または木を使用すること。
・火のし、毛もみには籾殻の灰を使うこと。
・寸切りという作業において、寸木または鋏を使用すること。
・練りまぜという混毛工程を行うこと。
・麻糸を使用して糸締めを行うこと。
そして、広島県安芸郡熊野町でのみ製造された熊野筆が、経済産業大臣指定伝統的工芸品として認められます。
指定外の熊野筆
指定外といえど、熊野筆の名を掲げるためには細かい条件をクリアしなければなりません。
まず、筆の命である穂首は熊野町内で製造されていること。
そして製造事業所は熊野町内であり、外注先も熊野町か周辺地域に指定され、製造方法も伝統的な手法に基づくものであるよう細かく指定されています。
原毛には獣毛、化繊毛、植物繊維、羽根、胎毛等が定められています。
熊 野筆の歴史
江戸時代末期、農業だけで生活が成り立たなかった熊野の村人は、農業の仕事が暇な時期を利用して奈良県や兵庫県へ出稼ぎに出ていました。
そして出稼ぎに出ていた地方で筆や墨などを仕入れ、行商をしながら熊野に戻ってきます。
このような流れが繰り返され、そのうち地方で筆作りの技法を学んできた人々が熊野に帰り、村人たちに筆作りの技術を広めていきました。
明治5年(1872年)になり学校制度が開始されると、筆記用具として筆が普及し、全国に熊野筆が知られるようになります。
しかし第二次世界大戦が終わると、それまで盛んであった習字教育が制限されてしまいます。
一般的な毛筆需要の低迷もあって、筆産業は衰退の一途を辿ることに。
そこに活路を見出したのが化粧筆や画筆です。
特に、柔らかく繊細な質感を活かした熊野の化粧筆は、高く評価されるようになりました。
熊野筆はどのように作られるか
熊野筆は、どのように作られるのでしょうか。
機械化が進む現在においても、熊野筆作りには人の手が欠かせません。
熊野筆の原料と、職人の行う12の工程について簡単にご紹介します。
熊 野筆の原料は
熊野筆の軸の部分に使われる原料は、主に木や竹。
毛の部分は山羊、馬、イタチ、タヌキ、鹿など、10種以上の動物の毛が使われます。
鹿の毛は墨含みが良く、リスの毛は最高級の化粧ブラシに使用される等、動物によって異なる毛の特性を活かして筆作りが行われます。
なお、動物の毛のほとんどは中国やアメリカから輸入しています。
筆 作りの職人・筆司
現在、熊野町には筆作りの職人である“筆司“が1500人程います。
中でも筆作りを12年以上経験し、技術と経験を持つ職人の中から名人「伝統工芸士」と認められた筆司が18人おり、その技術を現在に繋いでいます。
伝統工芸士の手掛けた筆には銘が刻まれています。
伝統工芸士とは、経済産業大臣指定の伝統的工芸品の製造に従事する技術者かつ高度な技術・技法を保持する職人のことであり、国家資格です。この記事では、なるにはどうしたらよいのか、伝統的工芸品の種類や伝統工芸士の資格・認定について、女性工芸士の活躍のほか、もっと伝統的工芸品に触れるために活用したい施設などをご紹介します。
製 作工程
熊野筆作りの工程は、大きく「下仕事」、「台仕事」、「仕上げ」の3つに分類されます。
細かくは12工程の作業で、職人が一本一本丁寧に作業していきます。
12工程には以下のような作業があります。
①選毛・毛組み
②火のし・毛揉み
③毛そろえ
④逆毛、すれ毛取り
⑤寸切り
⑥練り混ぜ
⑦芯立て
⑧衣毛巻き
⑨糸締め
⑩くり込み
⑪仕上げ
⑫銘彫刻
※筆作りの工程は各社により違いがあります。
熊野筆の魅力とは
さまざまな商品が販売されている熊野筆ですが、その魅力とは一体何なのでしょうか。
ここでは、洗顔ブラシ、化粧ブラシ、書筆、画筆、それぞれの魅力をご紹介します。
洗 顔ブラシの魅力
熊野筆の洗顔ブラシは、優れた耐久性と泡立ちの良さが魅力。
繊細な熊野筆のブラシは洗顔に欠かせないきめ細かな泡を作り、余計な摩擦をかけずに汚れを落とします。
毛穴の奥の皮脂や汗、残ったメイクまですっきり落とせるので、黒ずみやニキビ等の肌トラブルを予防できるでしょう。
可愛らしいデザインや明るいカラーのものも販売されているため、ギフトにも最適です。
熊野筆の洗顔ブラシは、ムラなくキレイに顔や髪の毛の生え際などをきめ細かく洗うことができます。洗顔ブラシで、普通だったら落とせなかった細かい汚れも、かき出してくれるのです。その効果として、毛穴の黒ずみがなくなったり、美容液の浸透率がアップし、肌のトーンもいつもより明るくなるかもしれません。
化 粧ブラシの魅力
熊野筆の化粧ブラシは、国内外の一流の女優やメイクアップアーティストも愛用する逸品です。
肌の弱い人でもかゆみや痛みを感じにくく、やさしい触感が人気の理由。
原料である動物の毛はキューティクルが鱗片状になっているので粉がしっかり筆につき、少ない量でよく発色するのも特性です。
メイクの乗せすぎを防ぎ、適度なコシと弾力によって細部まで美しく仕上げることができますよ。
熊野筆は、「筆の都」で知られる広島県熊野町で製造される伝統工芸品です。
毛筆、画筆、化粧筆、そのどれをとっても素晴らしい品質と絶賛される熊野筆の秘密はその穂先にあります。
通常の筆は、穂先をカットした上で長さを揃えて作られますが、熊野筆は穂先をカットせずに作られるんです!
書 筆の魅力
書筆は熊野筆の原点。
穂先のまとまりや適度な弾力があり、書きやすさが魅力です。
墨含みがよく毛先が割れにくいため、書の濃淡、強弱など書き手の精神を自在に表現できるでしょう。
児童用、一般用、専門家用など、さまざまなタイプの筆が生産されています。
画 筆の魅力
画筆といっても水彩、油彩、日本画、工芸品用など用途はさまざま。
用途に合わせてイタチ、馬、羊、鹿などいろいろな動物の毛を使い分け製造されます。
動物の毛をそのまま活かすことによる滑らかな穂先で、繊細な線や画を思い通りに描くことができますよ。
初心者用からプロ用まで種類豊富です。
熊野筆の手入れ方法(化粧筆編)
熊野筆を良い状態で長く使うためには、日々のお手入れが大切です。
中でも、化粧筆の手入れ方法について触れてみましょう。
日 常的なお手入れ
使用後、手のひらなどで粉をそっと振るい落としましょう。
ティッシュの上で数回なでるようにするだけでも、残った粉を落とすことができます。
ただし、擦りすぎると毛先が傷んでしまうので逆効果となります。
やさしく軽くなでるようにするのがポイントです。
汚 れや毛流れが気になったら
石鹸やシャンプー、中性洗剤等をぬるま湯に溶き、熊野筆の毛をなじませます。
根本から押し出すようにして洗い、お湯で振り洗いをしてすすぎましょう。
石鹸やシャンプーが毛に残ると筆が痛む原因となるので要注意。
最後に、根元から穂先にかけて櫛で梳かし毛流れを整えます。
タオル等で水気を十分にとり、風通しの良い場所で陰干しして乾燥させます。
オススメの熊野筆店舗
数多くある熊野筆の店舗ですが、ここでは主に化粧筆を取り扱うオススメの3店舗をご紹介します。
それぞれたくさんの商品があるので、使用用途に合わせてまずはホームページをチェックしてみてくださいね。
竹 田ブラシ製作所
歌舞伎や演劇などの舞台用化粧筆から欧米のメイクブラシまで種類豊富に扱う化粧ブラシ専門メーカーの竹田ブラシ製作所。
なでしこJAPANの国民栄誉賞の副賞として贈られた熊野筆は、竹田ブラシ製作所の熊野筆なんですよ。
取扱い数は800アイテム以上。
理想のブラシがきっと見つかるはずです。
熊 野筆セレクトショップ
広島県安芸郡熊野町にある筆ミュージアム「筆の里工房」内にある熊野筆セレクトショップ。
ミュージアム館内に構える本店のほか、広島店と銀座店を展開しています。
化粧筆のほかにも画筆や伝統工芸士作の書筆も取り扱われているので、贈り物にもぴったり!
専門アドバイザーにオススメの筆を教えてもらうこともできますよ。
白 凰堂
月約50万本にのぼる筆を生産し、国内外の化粧品メーカーやブランドへの化粧筆世界トップシェアを誇る白凰堂。
熊野筆はもちろん、プロ仕様の化粧筆用ウエストバッグやアクリルスタンドも購入できますよ。
おわりに
約180年前に産まれた熊野筆は、世界が称賛する最高品質の筆へと進化を遂げました。
天使の羽とも称されるその柔らかな使用感は、長年受け継がれてきた職人の伝統技術により生み出されます。
美しく実用的な伝統的工芸品・熊野筆をぜひ一度使ってみてはいかがでしょうか。
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