写真提供:広島県

工業・商業のみならず、農業や漁業も盛んな広島県。

降水量が少なく、冬でも比較的あたたかいので、1年を通して過ごしやすい県です。

また、広島県で採れる牡蠣やレモンの生産量は全国1位を誇ります。

平成8年(1996年)には、厳島神社と原爆ドームが世界文化遺産に登録され、世界中から多くの人々が広島県へ足を運びます。

そんな広島県では、何百年も前から受け継がれてきた技術で作り上げた、14品目以上の伝統工芸品が存在します。

この記事では、その中でも経済産業大臣によって「伝統工芸品」として指定されている5品目をご紹介します。

伝統的工芸品とは?
経済産業大臣が指定した「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」に基づいて認められた伝統工芸品のことを指す。
要件は、
・技術や技法、原材料がおよそ100年以上継承されていること
・日常生活で使用されていること
・主要部分が手作業で作られていること
・一定の地域で産業が成り立っていること

本記事の内容は、令和3年(2021年)12月時点のものです。
掲載内容は変更していることもありますので、ご留意ください。

熊野筆

熊野筆くまのふで」は、江戸時代後期から広島県南西部の熊野町で作られている筆です。

熊野町は盆地だったため農地が少なく、多くの農民が和歌山県や奈良県へ出稼ぎに出ていました。

その道中に奈良地方で買い入れた筆や墨を売り歩いたことで筆との接点ができ、次第に熊野町でも筆作りが行われるようになりました。

熊野筆は主に、ウマ・シカ・ヤギ・イタチなどの動物の毛から作られます。


ほとんどの工程が手作業で行われ、熟練した技術が必要とされますが、特に原毛から良質な毛を選別する“選毛せんもう”と呼ばれる工程が重要となります。

こうして選んだ毛を混ぜ合わせて根元を固めると穂首ほくびが出来上がります。

熊野筆はその毛先が最大の特徴で、毛先は切りそろえず、そのまま仕上げることで、繊細さと適度なコシが生み出されるのです。

書道で使う毛筆の他に、最近ではメイクブラシが有名で、海外からの注目も集めています。


※穂首:筆の先の部分のこと。

品名熊野筆
よみくまのふで
工芸品の分類文具
指定年月日昭和50年(1975年)5月10日


熊野筆について、詳しく知りたい方はこちらの記事もご覧ください♪

広島仏壇

広島仏壇ひろしまぶつだん」は、主に広島市で作られている金仏壇です。

親鸞聖人しんらんしょうにんの弟子がお寺を開くなどして布教活動をした土地柄もあり、広島では古くから仏壇作りが盛んに行われてきました。

元和5年(1619年)に広島藩初代藩主である浅野長晟あさのながあきらが、紀州から広島へ職人を連れてきたことで仏壇製造の技術が上がりました。

その後、享保元年(1716年)に敦煌とんこうという僧が、京都・大坂から仏壇や仏具の高度な製法を持ち帰ったことでさらに発展し、その技術が確立していったといわれています。

※親鸞聖人:平安時代から鎌倉時代にかけての仏教家。浄土真宗の宗祖。


広島仏壇は分業制で作られており、大きく7つの工程に分けられ、中でも高い漆塗りの技術と純金の箔押しが秀悦です。

広島仏壇 7つの工程
・木地
宮殿くうでん
・狭間
須弥壇しゅみだん
・塗漆
・蒔絵
・かざり金具

また、漆塗りの下地材料には、広島名産の牡蠣の殻を細かく砕いて作る“胡粉下地ごふんしたじ”が用いられています。

品名広島仏壇
よみひろしまぶつだん
工芸品の分類仏壇・仏具
指定年月日昭和53年(1978年)2月6日


宮島細工

宮島細工みやじまざいく」は、広島県廿日市はつかいち市宮島町で、江戸時代末期に作られ始めた木工品です。

もともと、廿日市市は豊かな森林資源を有する中国山地の木材の集積地であり、材料が入手しやすい環境であったことから、木工品の製造が発展しました。

宮島細工の起源は諸説ありますが、僧の誓真せいしんが弁財天※1の持っている琵琶の形から杓子しゃくし※2を考案し、島民に作り方を広め、土産物として販売したことがはじまりだと伝えられています。

その後、嘉永3年(1850年)頃にろくろ技術が導入されると、さらに木工品の製造が盛んになりました。

宮島細工の特徴は、水にらしてわざと木目を引き立てて磨く技法が施されていることです。

本来の木目の美しさや手触りを大切にした、暮らしに溶け込む木工品が作られています。


※1 弁財天:仏教における守護神の一人。
※2 杓子:汁や飯をすくうための道具。


品名宮島細工
よみみやじまざいく
工芸品の分類木工品・竹工品
指定年月日昭和57年(1982年)11月1日


福山琴

福山琴ふくやまこと」は、元和5年(1619年)に水野勝成みずのかつなりが福山城を築いた頃から福山市で作られている和楽器です。

備後びんご十万石の城下町であった福山市では、歴代の藩主が歌謡や音曲などを奨励していたこともあり、女性の習い事として琴がたしなまれ、製造されていました。

江戸時代後期~明治時代にかけて備後・備中で活躍した琴の名手・葛原勾当くずはらこうとうにより、福山琴の価値が認められて需要が高まり、全国的に有名になりました。

現在では、国内で作られている琴の約70%が、福山市で生産されています。

優れた音色とキリの木目の美しさ、華やかな装飾が特徴の福山琴は、楽器としては初めて伝統的工芸品に選ばれました。


品名福山琴
よみふくやまこと
工芸品の分類その他の工芸品
指定年月日昭和60年(1985年)5月22日


川尻筆

川尻筆かわじりふで」は、広島県くれ市川尻町で江戸時代末期から作られている筆です。

摂州有馬せっしゅうありま(現在の兵庫県)から筆を仕入れ、寺子屋などで販売をしていた菊谷三蔵が、嘉永3年(1850年)に上野八重吉に筆作りを勧めます。

八重吉は筆作りの修行をし、さらなる研究を重ね、高品質な川尻筆の製造を開始しました。

川尻筆は、“練り混ぜ”という高度な毛混ぜの技法を用いて作られます。

全工程を一人の職人が一貫して担っていることから、大量生産には向きませんが、高い品質を維持しています。


品名川尻筆
よみかわじりふで
工芸品の分類文具
指定年月日平成16年(2004年)8月31日