神奈川県鎌倉市の伝統工芸品として名高い「鎌倉彫」は、800年近い歴史を誇る高級漆器です。

昭和54年(1979年)には経済産業大臣が指定する伝統的工芸品に認定された鎌倉彫ですが、日本のその他の漆器とはどういう違いがあるのか気になる方も多いでしょう。

そこで今回は、鎌倉彫の歴史や特徴、鎌倉彫が作られる工程について詳しくご紹介していきます。

鎌倉彫とは?

鎌倉彫は鎌倉で発祥し、今なお伝統工芸士たちによって作られ続けている伝統的工芸品です。

繊細な彫りと、薄く何層にも重ねられた漆塗りが特徴で、古くは仏具として、現在では生活用品として用いられています。

鎌倉彫の品として特に有名なのは、お盆やお皿、手鏡などになりますが、最近ではワインクーラーや名刺入れなど、現代の生活に合わせた品も作られるようになりました。

鎌倉彫の歴史

800年近い歴史を持つ鎌倉彫のこれまでの軌跡を、鎌倉時代にまで遡って見ていきましょう。

鎌倉彫の起源は鎌倉時代

鎌倉彫が生まれたのは、鎌倉時代だといわれています。

今から遡ること800年ほど前、日本の中心地は西から東へと移され、鎌倉幕府が開かれました。

政治の中心が鎌倉に置かれたことで、鎌倉には商人や技術者、芸者などのさまざまな職業の人々が集まってきました。

当時、素晴らしい技術を持った仏師たちは、鎌倉の地で鎌倉幕府がもたらした禅宗の要素を取り入れた仏具作りに励みました。

武家文化と密接な関係を持つ禅宗の影響で、それまで華やかさや大胆さが売りだった彫刻作品は、繊細なものへと変化していきます。

その繊細な彫刻が施されたものに漆が重ねて塗られるようになり、これが「鎌倉物」すなわち現在の鎌倉彫の誕生に繋がったと考えられています。

華族のものから庶民の物へ

当初、鎌倉彫は仏具や香具として使われていましたが、茶文化の広まりと共に茶道具としても用いられるようになります。

明治期には上流階級の人々の間で鎌倉彫の人気が向上し、高級漆器として生活の中で頻繁に用いられるようになりました。

その後、華道(生け花)や茶道が上流階級の人間のものだけではなく庶民にも普及したことに伴い、鎌倉彫も庶民の生活の中で散見されるようになります。

現在の鎌倉彫

現在の鎌倉彫は伝統に則りつつも、新しい形を模索しています。

今では、鎌倉彫は観光の名物お土産の一つとして広く認知されていますが、鎌倉彫で作られた品はどれも日常生活の中で使えるものであり、そこからも鎌倉彫と我々の日常生活の密接さを知ることができます。

また、私たちの日常生活が洋式化したことに伴い、鎌倉彫も洋式化に合わせた品が増え、進化し続けています。

鎌倉彫はこれまで私たちの日常生活に寄り添い、数多くの変化を遂げてきましたが、それは今も変わりません。

ワイングラスのような洋物に用いられたり、大きな箪笥のようなものから小箱へと姿を変えたり、スマートフォン置きのような全く新しいものが登場したりと、日々試行錯誤を繰り返しています。

それは、鎌倉彫の品の形だけではなく、色味にも同じことがいえます。

鎌倉彫といえば、乾口ひくち色と呼ばれるベーシックな茶褐色のような色味が有名ですが、今は色鮮やかな鎌倉彫が誕生しています。

紫、金、青、緑、灰や白など、色彩豊かな鎌倉彫が作られています。

それは、「古い」とか「面白みがない」といった偏見を打破し、より多くの人に鎌倉彫を知ってもらいたいからに他なりません。

その取り組みは、異素材との組み合わせにも見て取ることができます。

例えば、スワロフスキーであったり、革であったり、天然石であったりと、鎌倉彫との組み合わせもとてもユニークになっています。

古き良き鎌倉彫の伝統をしっかり継承しながら、現代の日常生活にも馴染む、そんな品を生み出せるよう、鎌倉彫の職人たちは努力を惜しみません。

鎌倉彫の特徴と魅力

鎌倉彫には、日本のその他の伝統的な漆器とどのような違いがあるのでしょうか?

ここでは、鎌倉彫の特徴を説明していきます。

繊細かつ大胆な彫刻

鎌倉彫の特徴は、その繊細な彫りにあります。

細やかな模様、それを上手く活かす繊細な彫りは他の彫刻物でも類をみません。

また、鎌倉彫の彫りの特徴で忘れてはならないのが「刀痕」です。

木地を削ると、彫刻刀の彫り跡である刀痕が残るため、彫刻品の多くはやすりをかけ、刀痕が目立たないように仕上げます。

しかし、この刀痕をあえて残し、作品の一部とするのが鎌倉彫なのです。

彫り跡には作者の大胆さや感情が表現されており、一品一品に味わいが出ています。

彫りそのものは繊細ですが、木地の模様の無い部分にあえて刀痕を残す大胆さとの対比が鎌倉彫の魅力にもなっています。

手に馴染む、温かみのある漆塗り

鎌倉彫を手にするとその軽さに驚きますが、実は漆は何層にも塗られており、この重ね塗りこそが鎌倉彫の塗りの大きな特徴なのです。

通常、漆を厚く何層にも塗るとことで細かな彫り跡は消え、さらに作品自体の重量は増します。

しかし、鎌倉彫の魅力の一つでもある繊細な彫りを生かすためにも、鎌倉彫においては塗りは薄くなくてはいけません。

因みに、どれほど重ねて塗られているのかというと、その工程は実に十を超えます。

刀痕を消さないよう、薄く均一に漆を重ねていく工程は、まさに職人の腕の見せ所ですね。

こうして塗り重ねられた漆は、時を経るごとに漆の色が落ち着き、艶やかさも出てくるのです。

色味が落ち着き艶が出てくることで、より作品に温かみが出るため、「鎌倉彫は使えば使うほど味が出る」といわれています。

鎌倉彫といえばお盆

鎌倉彫の代表的な品といえば、「お盆」が挙げられます。

小さく実用的な丸盆から、料亭で出てきそうな大きな長方形のお盆まで、その形はさまざま。

鎌倉のお土産屋さんにも、鎌倉彫のお盆は数多く置かれています。

どのお盆にも繊細な和模様が施され、落ち着いた乾口色の漆や黒色の漆が塗られています。

先に鎌倉彫の色味も多様化しているということを述べましたが、お盆に関しては伝統的な色味が用いられることが多いです。

それは、食の色、見た目、味を引き立てるためです。

変にお盆の色が主張し過ぎれば、折角のお料理が台無しです。

鎌倉彫のお盆は、主張し過ぎず、料理に花を添える目的を持って作られているのです。

鎌倉彫はどのようにして作られるの?制作工程と使用する道具

鎌倉彫の木地にはかつらという木を用います。

彫刻には彫刻刀が用いられますが、小学生が使う彫刻刀よりも、幅広い種類があります。

塗には漆師刀、漆師包丁、漆師屋小刀、短刃、漆刷毛などが用いられます。

ロクロ引き(木地作り)

まずは、桂の木を伐り出し大まかな形を整え、木地を作ります。

立ち込み、刀痕(彫り)

木地が出来上がったら、絵付けをしていきます。

完成した絵にそって彫刻刀(小刀)を入れていくのですが、これを立ち込みといいます。

今度は立ち込みに沿って、平刀や丸刀で模様の陰影を付けていきます(刀痕)。

木地に模様が彫れたら、次は塗りです。

コクソ(塗り)

同量の生漆(漆の原液)と糊、木粉とコクソ綿を少しずつ混ぜ、練り合わせたコクソ漆を用い、木地のキズ補修を行います。

木地には切り出した際に付くキズや、木地そのものに付いているキズもあります。

彫刻中に付くキズももちろんですが、木地そのものにあったキズもこのコクソで補修します。

コクソは乾くと水分が蒸発して萎むので、盛り上げるように付けるのがコツです。

コクソを乾かすために4~5日ほど放置します。

コクソ削り(塗り)

コクソが乾いたら、余分なコクソを削り、木地の表面を整えます。

木固め(塗り)

生漆に石油または片脳油へんのうゆを混ぜたものを用い、木地全体に漆を馴染ませます。

生漆は基本的にそのままで用いますが、この木固めの作業だけは伸びをよくするために油を混ぜます。

隅々までしっかり漆を塗れたら、丸一日乾燥させます。

ペーパー当て(塗り)

日研no.150(使用済み)もしくは日研no.220を用いて木地肌を整えます。

日研no.150や日研 no.220はサンドペーパー(ヤスリ)であり、番号は目の粗さを現しています。

削り過ぎると漆が取れてしまったり、彫刻面そのものを傷つけてしまったりするので注意が必要です。

キズ見(塗り)

ここで、再び木地についたキズの確認をします。

キズがあるとしっかりと美しく漆が塗れないので、キズの有無を確認するのはとても大切な作業になります。

キズがみつかった場合は、今度はサビ(砥の粉を粉末にしたものを生漆とよく混ぜて作る)でキズを補修します。

キズを補修したものは、一日以上乾燥させます。

生漆塗り(塗り)・・・(ア)

木地全体に生漆(今度は原液そのまま)を塗ります。

ペーパーあて(塗り)・・・(イ)

木地が乾いたら、木地全体にペーパーをかけ滑らかにします。

ペーパーをかけ過ぎると漆が全部取れてしまうので、かけ過ぎないように注意します。

(ア)(イ)の工程をもう二回繰り返します。

(ア)(イ)の作業中にキズを発見した場合は、都度サビで補修します。

黒中塗り(塗り)・・・(ウ)

中塗り漆を漆刷毛で塗ります。

生漆とは異なり、伸びが悪く塗面が厚くなりやすいので、ボコボコにならないよう気を付けながら塗り進めます。

細部まで塗り終えたら、彫刻面の谷に溜まった漆を一度さらいます。

塗り上がったものは埃が付かないよう、湿度調整した場所で二日以上乾燥させます。

炭研ぎ(塗り)・・・(エ)

良く乾燥させた後、木炭で漆の表面を研ぎ、次の漆がよく付くように木地肌を整えます。

彫刻面のような繊細なところは、炭で研ぐのは非常に難しいので、耐水ペーパーを用いて研ぎます。

この工程で漆面のブツブツを取り除き、仕上がりが綺麗になるようにします。

(ウ)(エ)の工程をもう一回繰り返します。

朱上塗り(塗り)

表面の埃や汚れを取り、朱漆で上塗りを行います。

彫刻の谷に漆が溜まり過ぎないよう注意しながら塗り進めます。

塗り上がったものは、湿度調整した場所で二日間乾燥させます。

研ぎ出し(塗り)

純毛やモスリン(薄地の織物)を用い、砥の粉を付けて塗面を研ぎ、艶出しをします。

黒いアクセントを付けたい場合は、この工程でその部分を良く研ぎます。

こうすることで仕上がった際に中塗りの黒が現れます。

摺漆(塗り)

生漆の上等版を刷毛でよく木地に摺り込み、すぐにむらが無いように拭ききります。

拭ききったら、またすぐに煤玉すすだまをまぶし、彫刻の隅々まで入るようにしたら、これもすぐに拭ききります。

仕上げ

綿の布で拭きながら艶出しをして完成になります。

以上が、もっとも単純な鎌倉彫の製作工程になります。

塗りの工程はこれが基本ですが、塗る作品や漆の色味によって、一度で終わらず繰り返し行われる作業もあります。

おわりに

いかがでしたでしょうか。

軽いが頑丈だといわれる鎌倉彫には、十を超える塗りの工程があります。

一見、そんなに漆が塗り重ねられているようには思えませんが、それだけ長い時間と労力が費やされた鎌倉彫には、温もりと味わい深さがあります。

観光で鎌倉を訪れた際には、お土産屋さんでぜひ鎌倉彫を手に取ってみてはいかがでしょうか。

興味のある方は鎌倉彫の資料館を訪ね、鎌倉彫の辿った軌跡に触れてみてください。