普段、どんな食器をお使いですか。

ずっと触れていたい手触りや口当たりを、食器に感じたことはありますか。

食器を変えれば、食卓が変化します。

手になじむ優しい漆器は、食器を手にとって食べる日本食のスタイルに非常に適しています。

食卓を豊かにする漆器

今の食器は、陶器やプラスチックのものが主流です。

最近は、木製品のものも増えてきました。

そのなか中に、漆器を一つ加えてみてはいかがでしょうか。

陶器にはない柔らかなツヤが、上品さをアップしてくれます。

アツアツのご飯や汁物をよそっても、断熱効果が高いので熱く感じにくいのも特徴です。

軽さも特徴で、陶器の半分程度の重さしかありません。

小さいお子様でも手が疲れにくいので、しっかりと手に器を持って食事を楽しむことができます。

これらの特徴は、漆器の複雑な製作工程から生み出されます。

説明している工程は代表的なもので、もっと細かい工程があり、地方によって材料や名前、工程にも違いがあります。

漆が乾くには「湿度」「温度」「時間」が必要で、3日から1週間、それ以上の時間がかかるときもあります。

①薄く作った木地きじに「生漆きうるし」を吸わせる「木地固め」
生地が硬く丈夫になるのと、湿気を吸い込むのを防ぎます。

②乾いたらうわぶちや高台に、麻などの生地をノリ漆で貼り付ける「布着ぬのきせ」
木はどうしても変形します。「あばれる」と言いますが、それを防ぎ、かけやすい先端を保護する目的があります。

③「サビ漆」と呼ばれる下地を薄くつけ、荒砥石あらといしで水研ぎする工程を繰り返します。お椀の形を決定する大切な工程です。

④「下塗り」「中塗り」「上塗り」の順に、塗って、乾かして、研いで塗る工程を繰り返します。ここで歪みがある場合は、サビ漆で繕いをします。

⑤やわらかいツヤの塗った状態で仕上げる「塗り放し」
鏡のようなツヤに磨き上げる「呂色ろいし仕上げ」など、ツヤの仕上げ方も複数あります。

蒔絵まきえ螺鈿らでんなど「加飾かしょく」を加える場合
「蒔絵師」「螺鈿師」など、加飾を専門にした職人が仕上げていきます。
 
この加飾に使われる文様は、花や鳥、吉祥文様などさまざまなモチーフがあります。

季節を彩る模様

漆器を彩る加飾は「蒔絵」「螺鈿」「沈金」「蒟醤きんま」など様々な表現方法があり、伝統的な文様もんようの種類はたくさんあります。

・亀、鶴、千鳥、貝などの身近な生き物
・松、竹、梅、桔梗ききょう、菊などの植物
・流水や波、波紋などの自然現象が生み出す模様
・雪、月、雲などの天空や気象などから生まれる模様
しま、市松、格子こうしなど幾何学的な文様
・おめでたい意味を持たせた吉祥文様 など

桜と紅葉を合わせる春秋柄、松竹梅、雪輪ゆきわ、菊などは馴染みがあるのではないのでしょうか。

柄の配置によって「散らし」「尽くし」、流水と組み合わせる「流し」などがあり、表現の組み合わせは無数にあります。

春は梅にウグイス・桜で可憐な印象を、夏は雪輪や秋草で見た目から涼をとり、秋は栗やウズラで暖かさを表現し、冬はあしがんなどで静けさを演出します。

吉祥文様きっしょうもんようは年中使っていただけますが、季節がある文様は少し先取りすることをおすすめします。

特に夏は、見た目から涼しさを味わえるような文様をつかって、季節感を楽しみましょう。

異素材とのコラボレーション

漆は美しい塗料でもあり、天然の接着剤です。

木材に塗られるのが一般的ですが、さまざまな素材と組み合わせることで、また違った風合いを醸し出します。

紙×漆

「一貫塗り」とも呼ばれ、和紙のザラっとしたあたたかみはそのままに、強さとツヤが加わります。

模様入りの和紙や葉などをとじこめた和紙など、和紙を変えることで漆器の表情が変化します。

ランチョンマットやコースター、お椀などが多いです。

器×漆

陶胎漆器とうたいしっき」と呼ばれる技法で、平安時代ごろまで用いられていたと言われています。

釉薬ゆうやくが発展したために途切れた技法でしたが、近年復活しテレビドラマでも紹介されました。

木地きじとは違ったしっとりとした手触り、美しい形が特徴的です。

銘々皿めいめいざらなどの小皿や、お猪口ちょこなどに使われます。

×漆

藍胎漆器らんたいしっき」と呼ばれ、薄く削った竹ひごを編んだ竹細工に漆を塗り重ね、磨いたもの。

縄文時代の遺跡からも発掘されており、軽くて丈夫な竹と漆の組み合わせは古くから愛用されていました。

現在は中国からの輸入が多く、国産は数が少なくなっています。

おしぼり入れ、文箱ふばこ、菓子器など日用品も多いです。

ラス×漆

鏡面のガラスに漆を塗っても、乾いたら剥がれてしまいます。

近年、新しい技術開発によって、ガラスに漆を塗れるようになりました。

夏に使いにくかった漆器も、ガラスに漆で文様を書いた器なら、見た目も涼しく使うことができます。

酒器、コップ、鉢など、さまざまな食器に使われています。

リフォーム&リメイク

旅行先でかった思い出の器、家族から引き継いだ漆器、大切な人からもらったお皿。

傷んでヒビがはいったり、ツヤがなくなってしまいこんでいませんか。

美しく直るなら、安心して使うことができますよね。

ヤあげ

使っているうちに、ツヤがなくなったり細かい傷は入ってしまうものです。

綺麗な状態で使いたいと思いますよね。

専門家に頼んで、磨きなおしをすると購入したころと同じ、鏡のようなツヤを取り戻すことができます。

メーカーやお直しを受けている工房に、磨きなおしを受けているか確認してみましょう。

継ぎ

割れたり欠けてしまった器を繕う「金継」という技法が、注目されています。

お気に入りの食器を大切にする、器に宿った思い出をさらに深める、伝統的な技法です。

金継キットなども販売されていますが、純金粉ではない場合が多いので、食器に使用するなら注意が必要です。

体験教室が増えてきているので、見学に行ってみてもいいでしょう。

り直し

塗膜とまくが浮き上がっているような、痛みが激しい場合に行います。

剥がれている部分だけを塗り直す場合と、すべての漆を剥いで塗り直す場合があります。

木地きじは同じものを使うので、漆器のリフォームと思っていただいたらいいのではないでしょうか。

様の写し

お手持ちの漆器と同じ模様を、別の漆器にほどこすことも出来ます。

家紋など、同じものを複数あつらえるときにも便利です。

新しい家族が増えた時など、そろいの漆器を増やすことも可能です。

漆器は、なんだか難しいイメージがあるかもしれません。

まずはお椀や菓子皿など、使いやすい漆器から取り入れてみてはいかがでしょうか。