歌舞伎にはどのような演目があるかご存知でしょうか?
400年以上の歴史を誇る歌舞伎には4,000以上もの演目があるといわれています。
その中にはすでに台本などが逸失し、題名しかわからなくなってしまったものもありますが、それでも膨大な数があります。
ただそんな膨大な演目も、その成り立ちや形式、内容などによってジャンル分けをすることができ、理解しやすくなります。
そこで今回はそんな歌舞伎の演目を
・時代物、世話物
・所作事
・義太夫狂言
・新歌舞伎
というジャンルに分け、それぞれを解説し、代表的な演目を紹介していきます。
実際に歌舞伎を観る時に役立つ内容になっています。
ぜひ最後までお付き合いください。
歌舞伎の演目の本外題と別外題とは?
演 目の「本外題」
歌舞伎の演目の題名を「外題」といいます。
歌舞伎演目の作者である狂言作者はこの外題に工夫をこらし、洒落や隠れた意味が込められています。
例えば「色彩間苅豆」は「いろもようちょっとかりまめ」と読みます。
「間」を「ちょっと」と読ませているのですね。
また「苅豆」は女性の主人公である「かさね」が苅りとった豆を背負っていたことから付けられていますが、裏にはもっとセクシーな意味も込められています。
演 目の「別外題」
そしてこの正式名称を「本外題」というのですが、読み方が難しかったり、長かったりする場合、通称や略称が付けられることがあります。
これを「別外題」といいます。
先程の「色彩間苅豆」の別外題は「かさね」といわれます。
他にも
・「青砥稿花紅彩画」は「白浪五人男」
・「慙紅葉汗顔見勢」は「伊達の十役」
・「与話情浮名横櫛」は「切られ与三」
というように別外題のある演目が数多く存在します。
【時代物】の代表的な演目
現代の私達が時代劇も観つつ、現代のドラマも観るように、江戸時代の人たちも時代劇・現代劇を歌舞伎で楽しんでいました。
それぞれを時代物、世話物といいます。
時代物は、江戸時代の人達から見た時代劇です。
したがって室町、鎌倉、平安時代や、それ以上の太古の時代が舞台となります。
歌舞伎を観たことのない人がイメージする歌舞伎はこの時代物であることが多く、誇張された衣装、かつら、台詞回しなど、典型的な歌舞伎の演出が施されています。
また、実際には江戸時代に起こった事件を他の時代に置き換えて芝居にしている場合もあります。
これはその時に起こっている時事問題をリアルに扱うと、時の政府である幕府にチェックされ、上演禁止などの処分を受けてしまうからです。
例えば「仮名手本忠臣蔵」はご存知のように江戸時代の元禄年間に起こった事件ですが、舞台を室町時代に置き換えて上演しています。
妹 背山女庭訓(いもせやまおんなていきん)
大化の改新の時代が舞台です。
天皇の地位を狙い、国家転覆を企む蘇我入鹿の野望を藤原鎌足・淡海親子が阻むストーリーになっています。
メインはロミオとジュリエットのような久我之助と雛鳥の悲恋描いた「吉野川」と、求女、お三輪、橘姫の三角関係を描いた「道行き」「三笠山」で、この三場面がよく上演されます。
寿 曽我対面(ことぶきそがのたいめん)
歌舞伎の演目に「曽我物」と呼ばれるジャンルがあります。
これは鎌倉時代に曽我兄弟が父の仇を討つ「曽我物語」がベースとなっており、様々な演目の主人公が、「実は曽我五郎」という設定になっています。
寿曽我対面はその代表的なもので、曽我兄弟と親の仇である工藤祐経が「対面した」という場面を様式美あふれる舞台に仕立てています。
【世話物】の代表的な演目
世話物は、江戸時代の人にとっての現代劇です。
その時起こった事件などを取材し上演することで、TVの無かった江戸時代のニュースやワイドショーのような役割も果たしていました。
時代物とは違い実際の市井の人の生活をリアルに描いているのが特徴です。
曽 根崎心中
大阪の曽根崎で実際に起った心中事件を近松門左衛門が取材し、人形浄瑠璃の台本となり、のちに歌舞伎に移されました。
遊女のお初と徳兵衛の二人の若者が徐々に追い詰められて心中へ至る経緯を美しく描いています。
東 海道四谷怪談
大南北と呼ばれる四代目鶴屋南北の代表作です。
ご存知「お岩さん」のお話ですが、仮名手本忠臣蔵が話のベースになっており、お岩の父親四谷左門は元塩冶藩士(赤穂藩士)という設定になっています。
お岩を殺す夫伊右衛門はハンサムな二枚目でありながら、妻を始め周りの人を次々と殺す悪人であり、このような役柄「色悪」の代表とされています。
梅 雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)~髪結新三~
幕末から明治にかけての大狂言作者、河竹黙阿弥の作。
小悪党の新三の悪行を通して江戸庶民の生活をリアルに描いた傑作です。
所作事
舞踊=踊りのことです。
歌舞伎の先祖、出雲の阿国による「かぶき踊り」からの伝統で女形が踊ることが多かったのですが、江戸中期以降になると立役の踊りも増えてきます。
道 成寺物
恋人「安珍」を追いかけて執念のあまり大蛇となってしまった清姫が、安珍が隠れる道成寺の鐘に巻き付いて焼き殺したという伝説、「道成寺」が元になった舞踊郡です。
京鹿子娘道成寺
道成寺物で最も有名な舞踊であり、女形の踊りの最高峰でもあります。
白拍子(踊り子)の花子が鐘の供養に訪れ、舞を奉納しているうちに鐘に取り込まれ蛇の化身になるという内容です。
その他に、花子・桜子の二人で踊る二人道成寺や、男女で踊る男女道成寺などのバリエーションがあります。
石 橋物
能の「石橋」を題材とした舞踊です。
中国の清涼山に済む獅子が登場します。
獅子のたてがみに見立てた長い毛を「振る」のが見どころで、会場全体が盛り上がります。
春興鏡獅子
前半は小姓の弥生という女性が踊りを披露し、手にした獅子頭に乗り移られて獅子に变化。
後半は獅子となって踊ります。
松 羽目物
能や狂言の曲を題材とした歌舞伎舞踊を「松羽目物」といいます。
松羽目とは能舞台の背面、鏡板に描かれた松の絵のことで、これを歌舞伎に取り入れた際に舞台正面にこの松羽目が描かれていることから名前が付きました。
身替座禅
狂言の「花子」が題材となっている舞踊です。
浮気相手にこっそり会いに行くために妻には「一晩こもって座禅を組む」と伝える男。
しかし実際には使用人の太郎冠者に身替りをさせ、自分は愛人の元へ。
しかし嘘はあっという間にバレ、妻は太郎冠者と入れ替わって夫の帰りを待ちます。
愛人の元からニコニコで帰ってきた夫は、太郎冠者が座禅を組んでいると思い込み、ラブラブだったのろけ話をするのですが…、実際には妻が聞いているというストーリーです。
義太夫狂言(丸本物)~アニメの実写化~
江戸時代は歌舞伎と並んで人気のあった人形浄瑠璃(現代の文楽)からは多くの台本が移植されました。
このような演目を義太夫狂言(丸本物)といいます。
現代でいうとアニメの実写化のようなことが行われていたのです。
三 大義太夫狂言
菅原伝授手習鑑
藤原時平の陰謀によって菅丞相(菅原道真)が大宰府に左遷された事件が題材です。
松王丸・梅王丸・桜丸の三つ子の兄弟が敵味方に別れて争う「車引き」や、桜丸が菅丞相失脚の責任を取って切腹する「賀の祝」、菅丞相の息子菅秀才の命を守るために松王丸が自分の子供を身替りにする「寺子屋」などがよく上演されます。
仮名手本忠臣蔵
元禄時代に起きた討ち入り事件を室町時代の太平記の内容に置き換えてあります。
そのため吉良上野介は高師直、浅野内匠頭は塩冶判官という名前に変えられています。
江戸時代、歌舞伎と同等かそれ以上の人気を誇ったのが人形浄瑠璃です。現代でいうとアニメのようなポジションでしょうか。
その人形浄瑠璃の台本を歌舞伎に移したもの、つまりアニメの実写化のことを「義太夫狂言(ぎだゆうきょうげん)」や「丸本物(まるほんもの)」といいます。
義経千本桜
義経の名前がつきますが、源義経は主役として登場ぜず、義経に復讐を誓う平知盛や、落ち延びた平家の平維盛親子を守るために命を落とす、いがみの権太などが主人公となっています。
新歌舞伎~リアルガチの追求~
明治時代になると、それまでの時代考証を無視した荒唐無稽な内容を改め、西洋風なリアルな演劇を目指す「演劇改良運動」という動きが出てきます。
この動きは歌舞伎と相いれず、失敗に終わるのですが、「時代考証をしっかりして、リアルな演劇を作ろう」という意識は以降の芝居作りに影響を与えます。
そうした中、それまでの歌舞伎の座付き作者(鶴屋南北、河竹黙阿弥など)と異なり、一般的な小説家、劇作家、翻訳家などが歌舞伎の演目を執筆するようになります。
これらの一群の作品を「新歌舞伎」と呼びます。
番町皿屋敷
小説家岡本綺堂の作品。
題材は怪談ですが、それを悲恋の物語として仕立ててあります。
「一枚…二枚……」
悲しげな女の幽霊が、夜ごと井戸に現れては皿を数える……という怪談、番町皿屋敷。古くから知られている怪談話の一つですが、幽霊となった女は誰になぜ殺されたのかと訊かれたら、答えられますか?この記事では、知っているようで意外と知らない「番町皿屋敷」について解説します。
桐一葉(きりひとは)
翻訳家・評論家の坪内逍遥作。
関ヶ原の戦いの後、徳川側との交渉役を務める豊臣家の忠臣、片桐且元の苦悩をリアルに描いた作品。
歌舞伎の舞台装置には、演出に欠かせない驚きの仕掛けがたくさんついています。ダイナミックで迫力のある演出を見せるため、舞台装置にさまざまな工夫をこらし、新しい演出を可能にしていったのです。今回の記事ではそんな歌舞伎の舞台装置の数々を紹介していきます。
「難しい」と思われがちな歌舞伎ですが、実はルールを覚えてしまえば非常に分かりやすいお芝居になっています。
というのも当時の歌舞伎は庶民の娯楽。しかも現代と異なり芝居中に食事をしたりお酒を飲むことも自由でした。
宴会をしながら観劇するようなもので、集中して観ているわけではないのです。
歌舞伎芝居は、江戸時代のニュースとワイドショーを兼ねた舞台芸術。
古来、当時世間を賑わせていた事件を演劇にし、江戸の大衆に伝えていました。
芝居、という字のごとく、まさに芝の上でわいわいと観ていた時期もある歌舞伎には、今も、その名残があります。
「大向こう」と言われる独特の掛け声もその一つ。
おわりに
歌舞伎にはさまざまなジャンルがあり、その中には多くの演目があるということがわかっていただけたと思います。
今では若者にも興味を持ってもらうためにアニメとコラボするなど、伝統を絶やさないために工夫がされているので、そういった演目から入ってみるのも良いかもしれません。
また、今は「シネマ歌舞伎」といって、映画館で映像を通して歌舞伎を観ることができます。
歌舞伎俳優のアップなど、舞台とは違ったアングルであらゆる角度からのダイナミックな映像が楽しめます!
日本でも外国からの観光客を見かけることが多くなってきました。
飲食店で食事をしていている時、隣に外国人が座っているという場面も珍しくありません。
ではそんな外国人に「歌舞伎ってどういうお芝居なの?」と聞かれ、あなたはきちんと答えられるでしょうか?
名跡とは、先祖代々受け継がれている家名や名前のことです。歌舞伎役者の名前には一定のルールがあります。例えば市川團十郎、市川海老蔵という名前をお弟子さんが名乗ることはできません。市川家の跡継ぎ、御曹司でなければ名乗ることができないのです。
市川海老蔵さんや中村獅童さんなど、有名な歌舞伎役者さんはTV出演などメディアの露出もあって一般的に知られていますが、歌舞伎はそういった人だけで成り立っているわけではありません。
そこには歌舞伎を支える「お弟子さん」の存在があります。
能・狂言と歌舞伎は、どれも同じ「伝統芸能」「古典芸能」として一緒くたにされがちです。しかし、それぞれの芸能には明確な違いがあります。
能と狂言と歌舞伎、それぞれの違いを知ることは、それぞれの芸能をより楽しむことができるということです。
最近『ワンピース』や『NARUTO』といった漫画を原作とした新作歌舞伎が上演されています。
「あれ?歌舞伎どうしちゃったの?」「歌舞伎っぽくないね」という意見もありますが、実はこのような新たなものを取り入れる「活発な新陳代謝」こそ歌舞伎が400年にわたって生き残ってきた秘密なのです。
最近「ワンピース」や「NARUTO」といった超人気アニメが次々と歌舞伎の舞台で上演されました。
「え!?歌舞伎でアニメ作品を演るの???」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。