四国八十八箇所しこくはちじゅうはっかしょの社寺(霊場・札所ふだしょ)を巡るお遍路へんろの旅。

どこか過酷なイメージをお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか?

昔ほどのリスクはないにしても、時間的、金銭的、そして体力的にも簡単な旅ではありません。

しかし、毎年多くの巡礼者がお遍路に訪れています。

人々を惹きつけるお遍路の魅力は一体何なのでしょうか?

この記事では、お遍路とは何か、どのような意味があるのか、またお遍路の基礎知識、お遍路をする上での準備物や作法について解説していきます。

お遍路の魅力を少しでも知っていただければ幸いです。

お遍路とは?

お遍路とは、平安時代初期の僧侶である弘法大師こうぼうだいしさまが修行された、四国にある八十八箇所のお寺(霊場・札所)をお参りする旅のことです。

正式名称は「四国八十八箇所しこくはちじゅうはっかしょ」で、ほかにも “四国(お)遍路”、 “四国巡礼”、“四国巡拝”ともいわれ、巡礼者のことを「お遍路さん」と呼びます。

では何故、今もなお多くの人たちが、お遍路をするのでしょうか?

ここでは、お遍路の本来の意味や弘法大師さまについて解説します。

また、お遍路をはじめる前に知っておきたい、お遍路用語についても触れていきましょう。

遍路の意味は? 

弘法大師さま縁りの四国八十八箇所のお寺を巡るお遍路は、人間が持つとされる88の煩悩を一つずつ消して心を清淨にしていき、功徳を積み、願いが結ばれるとされています。

さらに、徳島、高知、愛媛、香川と、四国八十八箇所霊場を巡る道のりは、約1,400kmにも及び、無事にすべての四国八十八箇所を巡礼できたら、弘法大師さまがおられる和歌山県の高野山にお礼参りに行きます。

このように、かなりの労力が必要なお遍路の旅が人々を魅了するのは、お遍路がただの観光目的ではないからでしょう。

お遍路の目的は、健康祈願や亡くなった方の供養、自分を見つめなおすためなど、人それぞれですが、目的を達成したいという決意と気持ちがなければ続けるのは難しいものです。

昔のお遍路が修行の一環であったように、現在でもお遍路の意味は、功徳を積んで自分を変える旅なのではないでしょうか。

法大師さまってどんな人?

四国八十八箇所の霊場を開いた弘法大師さまとは、一体どんな人物なのでしょうか?

宝亀5年(774年)、讃岐国多度郡さぬきのくにたどぐん(現在の香川県善通寺市)で生まれた弘法大師さまは、もともとは役人になるために大学で勉強をしていましたが、人々を救うために仏門に入ります。

四国の地で厳しい修行をする中で名前を「空海くうかい」と改め、その後、当時の中国の王朝・唐に渡って密教を学び真言宗を開きます。

開祖となってからも、教育機関の設立や故郷の満濃池まんのういけ改修に携わるなど、社会事業にも尽力しました。

承和2年(835年)、紀伊国きいのくに(現在の和歌山県)にある高野山において、62歳で入定にゅうじょう※1されています。

その後、延喜21年(921年)には、時の天皇である醍醐天皇より「弘法大師」という諡号しごう※2が追贈されました。

弘法大師さまの生き方や教えは、今もなお巡礼者の心のより所となっています。

なお、弘法大師さまのことを「お大師さま」とも呼ぶんですよ。

※1 入定:生きながらにして仏になるために、永遠の瞑想に入ること。

※2 諡号:亡くなった人に対し、生前の行いを讃えて贈られる名前。主に、帝王や位の高い貴人に贈られる。おくりなともいう。

っておきたいお遍路用語は?

お遍路を巡っていると、聞きなれないワードをたくさん耳にします。

中でも知っておきたい、お遍路用語を解説します。

同行二人(どうぎょうににん)

同行二人とは、お遍路は一人であっても複数人であっても、お大師さまと二人連れという意味です。
なお、お遍路で持つ金剛杖こんごうづえは、お大師さまの分身と考えられています。

お接待(おせったい)

お接待とは、地元の人がお遍路さんに食事やお菓子をふるまったり、宿を提供したりする風習(お布施)のことです。
自分の代わりにお参りを託すという意味も込められているので、ぜひありがたくお受けしてください。

納経(のうきょう)

納経の本来の意味は、写経を納めることです。
昔は、写経を納めた時の受付印として納経印(御朱印)が授与されていました。
今では、参拝の証として納経印をいただくことができます。

御影(みえい)・御姿(おみえ・おすがた)</u></b>

御影とは、お寺のご本尊さまの姿が描かれたお札のことで、御姿とも呼ばれます。
ご本尊さまの分身とされており、納経印(御朱印)と一緒に授与されます。

先達(せんだつ)

お遍路に関して深い知識と経験があり、巡礼者の案内をしてくれる人を先達といいます。
4回以上お遍路をしていることや、お寺からの推薦があることなどの条件をクリアした人が、先達の資格を取ることができます。

お遍路の回り方

それでは、お遍路の回り方や移動手段について解説します。

歩き遍路、車遍路、お遍路ツアー、それぞれの魅力や予算なども紹介するので、自分に合った移動手段を選んでくださいね。

遍路巡りの順番は?

お遍路でお参りするお寺は、札所ふだしょと呼ばれています。

また、札所をお参りすることを「打つ」といいます。

お遍路の回り方に明確なルールはなく、いくつかのパターンがあります。

詳しく見ていきましょう。

発願・結願(ほつがん・けちがん)

お遍路は、実はどの札所から回りはじめてもOKなのです。

巡礼をはじめたお寺がその人にとっての発願寺になり、八十八箇所目のお寺が結願寺になります。

しかし、はじめてお遍路巡りをする方は、お遍路用品を揃えるためにも1番札所の霊山寺りょうぜんじ(徳島県鳴門市)からはじめたほうが良いかもしれません。

霊山寺の売店では、お遍路に必要なものを全て買い揃えることができ、道中のアドバイスも受けられます。

また、歩き遍路の方は特に、徐々に体を慣れさせるためにも里山に位置する霊山寺から歩きはじめることをオススメします。

無事に八十八箇所を巡り終え、日程に余裕があれば、発願寺の霊山寺へもぜひお礼参りに行ってください。

納経印と一緒に数珠を授与していただけます。

順打(じゅんうち)・逆打ち(ぎゃくうち)

1番札所から番号順に巡ることを「順打ち」といいます。

それに対し88番札所から逆回りに巡ることを「逆打ち」といいます。

お遍路の道に設置されている道標は順打ちが基準となっており、逆打ち用の道標は設置されておらず、非常にわかりづらいことから、逆打ちは道が険しいとされています。

しかし、難易度が高い逆打ちは、特にうるう年に行うのが良いとされており、ご利益が3倍になるとわれています。

また、今でも弘法大師さまは順打ちで回られていると信じられていることから、逆打ちで回ると弘法大師さまと出会えるという考えもあり、逆打ちでお遍路をされる方の後は絶えません。

通打ち(とおしうち)・区切り打ち(くぎりうち)

1番から88番までの札所を、中断せずに回ることを「通し打ち」といいます。

また、何回かに分けてお遍路を巡ることを「区切り打ち」といいます。

四国八十八箇所を通し打ちするには、それ相応の時間を要します。

お仕事や学業、家庭のことなどあらゆる理由で通し打ちが難しい方は、お休みを利用し区切り打ちで回られてみてはいかがでしょうか。

歩き遍路

歩き遍路の魅力は、なんといっても、1,400㎞を歩き終えた時に得られる達成感でしょう。

自然を感じながらの旅や、お接待で人の優しさに触れられることも歩き遍路の醍醐味です。

しかし、長い距離を歩くことで、体力的にも精神的にも負担が大きくなることが予想されます。

歩き遍路のプランを立てるときには、自分のペースを考慮した無理のないプランを立てることが重要です。

また、迷わず巡礼するためには、遍路道の地図は必須アイテムですよね。

「四国遍路ひとり歩き同行二人 地図編」は、地図と宿泊施設の一覧も載っているのでオススメです!

歩き遍路に要する日数と費用

歩き遍路の場合、予定通り進めたとしても50日ほどの日数がかかります。

例えば、東京から四国までの交通費、宿泊費、食費、高野山までの交通費などを合算した50日間の費用は、50万円ほどになります。

日数がかかる分、食費や宿泊費もかさんでしまうのが歩き遍路のデメリットです。

車遍路

気楽にお遍路を楽しみたい方は、車遍路がオススメです。

ツアーと違って、自由に移動や観光ができるのがメリットです。

しかし、慣れない山道で迷ってしまうこともしばしば。

そのため、当初の予定通りに回れないこともよくあります。

車遍路の場合も、ぜひ余裕を持った巡礼プランを立ててくださいね。

車遍路に要する日数と費用

車遍路の日数は早くて12日程度、高野山までの行程でプラス1日程度が必要です。

東京からの交通費や宿泊費などとレンタカー代で、費用は20~30万円程度になります。

お遍路ツアー

スケジュール通りにお遍路巡りをしたい方は、ツアーがオススメです。

道に迷う心配もなく、食事や宿泊先もおまかせなので楽ちんですね。

また、先達が案内してくれるので、お遍路の歴史や作法を学びながら巡ることができます。

スケジュールが決まっているので、自由に観光することはできませんが、お遍路の充実度は高いでしょう。

お遍路ツアーに要する日数と費用

バスツアー、タクシーツアーなどがありますが、一般的な日数は全周+高野山で12日程度、費用は30万円程度のプランが多いです。

ぜひ、ご自身に合ったツアーを見つけてみてください。

お遍路の準備

お遍路にはどんな服装が良いのか、またお遍路に必要なものについても解説しましょう。

遍路の服装は?

お遍路さんの服装といえば、竹笠に白衣、白ズボン姿が思い浮かぶと思います。

日焼け対策にもなる手甲てこうや異物が入らないようにする脚絆きゃはんも、歩き遍路にはオススメのアイテムです。

気軽にお遍路をしたい方は、輪袈裟わげさだけでもOK。

お坊さんの法衣を簡略化した輪袈裟をかけることで、正装とみなされます。

お遍路装束は、1番札所の霊山寺で揃えることができます。

また、楽天市場でも購入できるのでチェックしてみてください。

遍路に必要なもの

お遍路の充実度をアップさせるために必要なものをまとめました。

納め札

納め札は、参拝した証に本堂と大師堂に1枚ずつ納めます。
また、お接待を受けた時も、お礼として納め札を渡します。
納め札は、お遍路に行った回数によって色が変わります。
はじめて巡る方は白色の納め札を選んでください。

数珠

お参りの際には数珠があったほうが良いでしょう。
宗派にはこだわらなくても大丈夫。普段使っているものを持っていってください。

ろうそく・線香

本堂、大師堂に参拝するときに、ろうそくと線香をお供えします。
ご先祖様の供養のためには持っておいたほうが良いでしょう。

納経帳

納経印(御朱印)をいただくためには、納経帳が必要です。
四国遍路専用の納経帳には、札所の番号が印字されています。
どこのお寺を参拝したかが分かりやすいのでオススメです。

金剛杖(こんごうづえ)

お遍路はお大師さまと二人連れ。
金剛杖は、お大師さまの分身とされています。

遍路の宿泊場所について

歩き遍路や車遍路の場合は、予定通りに回れないことも多いので、宿泊先は回りながら探すほうが無難です。

「四国遍路ひとり歩き同行二人 地図編」などのガイドブックにも宿泊施設が載っていますし、市町村のホームページも参考になるでしょう。

札所の近くには、リーズナブルな料金で宿泊できるお遍路さん向けの旅館やホテルもあるので、チェックしてみてください。

また、宿坊に泊まるのもオススメです。

宿坊は、もともとは修行中のお坊さんのための宿泊施設でしたが、現在は参拝客でも宿泊でき、部屋は旅館やホテル並みに整備されています。

精進料理をいただけたり、朝のお勤めに参加できたりと、特別な体験ができるのが魅力です。

宿坊を設けているかはお寺によって違うので、事前にホームページなどでチェックしておいてください。

お遍路 お参り参拝の作法は?

参拝手順やお遍路の作法について解説します。

拝手順

札所での参拝手順は、以下の通りです。

① 山門や仁王門で合掌、一礼して境内へ入る
② 手水鉢で手と口を清める
③ 鐘楼で鐘を2回撞く
・お寺によっては、禁止しているところもあります。
・近隣にお住まいの方への配慮として、早朝などの時間帯も撞くのは控えましょう。
・参拝後に鐘を撞くのは戻り鐘といって縁起がよくないとされています。
④ 本堂で、ろうそくを1本、線香を3本、お賽銭、納め札を納める
・ろうそくのもらい火は、その人の業をもらうとされているのでやめましょう。
・ろうそく、線香はできるだけ奥から立てるのがマナーです。
⑤ 本堂でお経を唱える
・般若心経を唱える
・ご本尊を三回繰り返し唱える
・光明真言を三回繰り返し唱える
・「南無大師遍照金剛なむだいしへんじょうこんごう」を三回繰り返し唱える
・お経を唱えるときは、正面ではなく端に唱えるのがマナーです。
⑥ 大師堂でろうそくを1本、線香を3本、お賽銭、納め札を納める
⑦ 大師堂でお経を唱える
⑧ 納経堂で納経印をいただく
・参拝の証として、納経帳に墨書と朱印をいただきます。
⑨ 山門の門前で手を合わせて一礼し、山門を出る

遍路でやってはいけないこと

お遍路では、やってはいけないとされている行為がいくつかあります。

伝説的なものもありますが、作法として知っておいてくださいね。

橋の上では杖を突かない

橋の下で夜を明かしたお大師さまは、一夜が十夜にも感じたという歌を詠まれたそうです。
その言い伝えから、お大師さまの安眠を妨げないように、巡礼者は橋の上では杖を突かないことがしきたりになっています。

トイレに輪袈裟(わげさ)や金剛杖を持ち込まない

輪袈裟や金剛杖などは神聖なものとされています。
トイレなどの不浄な場所には、持ち込まないように注意しましょう。
食事の時にも輪袈裟を外すのがマナーです。

宿についたらまず金剛杖を洗う

金剛杖は、お大師さまの分身と考えられています。
宿についたらまず、お大師さまの足を洗うつもりで金剛杖を洗いましょう。

参拝せずに納経だけはマナー違反

お遍路が予定通りに回れないことはよくありますが、かといって参拝せずに納経だけをお願いするのはマナー違反です。
納経印(御朱印)は、あくまでも参拝した証としていただいてください。

お遍路に行きたいけど、行けない方には【お砂踏み】

お遍路に行きたくても、さまざまな事情で行けない方には、「お砂踏み」という礼拝方法があります。

お砂踏みは、四国八十八箇所各霊場寺院のご本尊をお祀りし、各寺院から集めたお砂を踏みながらお参りする礼拝方法です。

お遍路巡りと同じ功徳が積めると考えられているので、お遍路に行けない方は検討されてみてはいかがでしょうか。

ャラバンお砂踏み

四国八十八ヶ所霊場会は、ご本尊の仏像や掛け軸と、各霊場のお砂を会場に設置していろいろな規模でお砂踏みを開催しています。

その中の「キャラバンお砂踏み」は、長机4脚分のスペースがあれば行える小規模なもので、公民館や老人ホームなどでも開催されています。

通寺のお砂踏み道場

“弘法大師生誕の地”でもある善通寺では、「お砂踏み道場」が常設されています。

お砂踏み道場には、各寺院のご本尊さまの仏像が安置されており、中には秘仏とされていて見ることができないご本尊さまの仏像もお祀りされています。

住所:〒765-8506
   香川県善通寺市善通寺町 3-3-1
場所:遍照閣1階
時間:土・日・祝日 9:00~16:00
料金:無料

おわりに

お遍路の基礎知識などについて解説しました。

お遍路をはじめるための準備物や作法についても細かくお伝えしましたが、そんなに堅苦しく考える必要はありません。

お遍路を達成したいという気持ちが一番大切なのです。

お遍路の旅に出られたなら、お大師さまを傍に感じながら、ぜひ結願するまでかんばってくださいね。