皆さんは、「水石」とは何かご存知でしょうか。
水石とは「すいせき」と読み、室内で石だけを単独で飾って観賞を楽しむという日本の伝統文化の一つです。
また、盆栽展などで盆栽を展示する「席飾り」の際に、盆栽の魅力を引き立たせるために一緒に飾る添配※1(そえもの/置物)の一つとして、使われたりもします。
※1 添配:主となる盆栽の脇に展示する小品盆栽に添えて季節感や景色を演出する役割があり、盆栽の席飾りには欠かすことができないものの一つ。
今回は、盆栽の添配として盆栽と一緒に飾って楽しむ水石について、ご紹介します。
水石とは
水 石はどんな石?
盆栽は自然の野山、森、林などの風景を鉢の中に凝縮したものです。
一方、水石は海岸の絶壁で強風に耐えている風景や、山深い自然の中にある湖や滝などの風景を一つの石から連想できる自然石のことです。
盆栽展などの席飾りの添配として、主である盆栽の魅力を引き立たせるために脇に添えて飾られます。
盆栽展などの席飾りの添配として、主である盆栽の魅力を引き立たせるために脇に添えて飾られます。
水 石の魅力
水石に興味がない人にとっては、どんなに素晴らしい水石でも「石は石」。
最初から心を奪われることは、ちょっと難しいかもしれません。
また、全ての石に美しさや価値があるわけでもありません。
しかし、美しい自然の光景が、我々に何らかの安らぎを与えてくれることと同じ魅力を、水石は持っているのです。
盆栽に使われる水石は、盆栽を引き立たせる脇役として活躍します。
また、他にも「水石飾り」や「盆石」としても使われています。
水石飾りは、石の形や大きさと調和のとれた水石を水盤、台座や地板などに置いて飾って観賞します。
盆石は、盆の上に石を置き、白砂を使って自然の滝や峠などの景観を描き、表現します。
水石と盆栽の共通点とは
水石と盆栽の共通点は、どちらも飾って楽しむものであり、なおかつ自然の景観が連想できる日本の伝統文化であるところです。
盆栽は観賞した際、植えられている樹の根張りや枝ぶりなどから自然の景観が連想できるように仕立てられています。
水石も同じように、石を通して自然の景観が連想できる自然石です。
どちらも自然を連想するという点で非常に似ているため、盆栽の素晴らしさが理解できるようになると、水石の素晴らしさも理解できるようになるでしょう。
水石は盆栽以外にも日本の水墨画(山水画)、日本庭園、生花(添配)、侘び・寂や、禅などにも関わりがあります。
そのため、盆栽の水石の魅力が理解できると、他の日本文化もより深く感じられるのではないでしょうか。
水石の歴史
水石は、中国の南北朝時代から日本に伝えられたと言われています。
渡 来文化から日本独自の文化へ
水石は中国からきた渡来文化の一つですが、日本の文化の影響を受けながら発展していき今日に至ります。
例えば、中国の水石は色彩が派手な石を複数卓上に置きますが、日本の水石は色彩や形だけでなく、周囲との色合いなども重んじて、卓上に一つだけ置きます。
盆 栽と一緒に発展した水石
水石は、後醍醐天皇を始めとする歴代の天皇にも愛されたことから、「雅」の文化とも呼ばれています。
中国の南北朝時代では、自分の好みの石を身近な場所に飾って楽しむ「愛石趣味」が中心でした。
この愛石趣味が鎌倉・室町時代になると盆栽に石を添えて仕立てられるようになりました。
当時の愛石家の中には、織田信長、豊臣秀吉、後醍醐天皇などの権力者もいました。
江戸時代以降になると、上流階級や権力者の間で観賞されていた水石や盆栽が一般の庶民の間にも広がって行きました。
また、盆栽の流行とともに水石の人気も高まっていきました。
そして、盆の中に石と白砂を使い山水景観を表す盆石も人々の間で流行していき、水石は盆栽と深い関係を持ちながら盆栽の技術進化に貢献してきました。
世 界から注目されるまでに発展した日本の水石
今日、水石は日本の伝統文化の一つとして世界の愛好家から注目されています。
近年では「アジア太平洋盆栽水石大会(ASPAC)」が二年に一回、アジア諸国で開催されています。
初回は1991年のインドネシアのバリ島で開催されました。
また、日本でも2011年に香川県高松市で「第11回アジア太平洋盆栽水石高松大会」が開催されました。
この大会にはアジア諸国だけでなく、ヨーロッパやアメリカを含めた世界40ヶ国から盆栽と水石愛好家が参加しています。
今後、水石も盆栽と同じように水石愛好家が、世界各国に増加していくことでしょう。
水石の観賞の仕方とは
水石の観賞を楽しみたいと思っても、「石の美しさ」を最初から簡単に理解できる人は多くはありません。
そこで、初心者が水石を観賞する場合は、最初に水石の美しさと言われている三大要素の「形、質、色」について理解することから始めましょう。
「 質」の良い石とは
水石において質の良い石とは、簡単に欠けてしまうことのない「硬さ」のある石であると言われています。
その中でも、硬さの中にも柔らかさが感じられる、緻密さのある石が特に良いとされます。
また、水をかけるとしっとりとした色合いが長く続く、水持ちの良さも質の良い石の条件です。
「 形」の良い石とは
形の良い水石とは、盆栽の古木と同じで、石の形から古びた色や様子、自然観が感じられる石が良いとされています。
石の形だけが良くても、時代(歴史感)ある古色が感じられない水石は、形の良い水石とは言えません。
「 色」の良い石とは
水石は真黒が一番良い色とされています。
また、真黒に続いて蒼黒、灰黒の順に良い色とされています。
つまり、黒色が濃いほど良いということです。
どの色の石にも落ち着き感、静寂感や品格、そしていかに自然に馴染むかが求められます。
まずはこれら三つの要素を理解しましょう。
そして、慣れてきたら水石の持つ他の魅力にも注目してみてください。
例えば、石が持っている「静けさ」、「豊かさ」、「大きさ」を観賞できるようになると水石をより楽しむことができます。
そのためには、水石の形から分類されている石の呼び名も理解し、できるだけ「名石」と呼ばれている石を多く観賞したり水石の展覧会を訪れたりして、良い水石を見る目を養いましょう。
水石を育てる「養石」とは
「養石」とは、時代感があり古色をした風情ある水石を人工的に作ることです。
盆栽でも、何年もかけて良い盆栽に育てて仕立てることは、「培養」と言います。
同じように、何年もかけて良い水石に仕立てることを、「養石」と言います。
一般的な石の養石作業では、石に水をかけて日光に当てて乾かす作業を何年も繰り返し、時代的な古さを付けていきます。
溶けやすい石灰質の石には、水をかけずに乾いた布で繰り返し拭く養石作業を行います。
石によっては時代感の趣や風情が付くまで、少なくても10年前後はかかるので、時間をかけて養石作業を行い、時代感のある質、色、形、品格がある水石にしていきます。
良い水石は、盆栽と同じように長い歳月をかけながら、繰り返し行う養石作業が必要となるのです。
盆栽の添配として使われる主な水石の基本形9種
盆栽の添配として使われる水石は、石から自然の海や山が連想できる「姿石」と、石に紋様がある「紋様石」の二種に分類されます。
この中からさらに姿石は「岩潟」、「水溜まり」、「土坡」、「滝石」、「段石」、「島形」、「遠山形」、「茅舎石」に分かれます。
そして、水石はこれに「紋様石」を足した、全部で九つの基本的な形に分類されるのです。
姿 石 ‐山の景観が連想される水石‐
姿 石 ‐海岸に荒波が打ち寄せる景観が連想できる水石‐
姿 石 ‐その他‐
盆栽初心者にオススメの水石
せっかく水石に興味を持っても、どの水石を盆栽と一緒に飾ったら良いのか、最初は迷ってしまいますよね。
そこで、水石初心者の方には、色に深みと濃さがある「遠山形」と「岩潟」の二種をオススメします。
なぜなら、この二種類の水石が持つ自然の豊かさは、数ある水石の中でも盆栽の魅力が一層引き出されやすいからです。
自分の育てている盆栽と一緒に飾る添配の水石がわからない時は、ぜひ遠山形か岩潟のどちらかを盆栽と一緒に飾ってみてください。
盆栽は樹木だけに注目してしまいがちですが、本来はその全体の雰囲気を含めて楽しむ日本の伝統文化です。
盆栽を飾る際は添配に水石も一緒に飾り、自分の育てた盆栽の魅力を引き立ててみましょう。
おわりに
盆栽は育てたり仕立てたりすることも楽しいですが、本来は、「飾って観賞する日本の伝統文化」です。
そのため、盆栽を育てたり仕立てたりする管理作業を楽しむだけでなく、水石と一緒に飾って自分の盆栽の魅力を引き出し、「飾って観賞する日本の伝統文化」を満喫してみてはいかがでしょうか。
きっと、想像以上に日本の伝統文化の奥深さや楽しみ方を感じることができるでしょう。
盆栽は、長きにわたり日本人に愛され、大切に継承されてきた日本の伝統文化です。
近年、盆栽は、海外でも芸術性が高く評価されているので、愛好家や富裕層のコレクターも増加していますが、盆栽の基礎知識については、意外と知られていないです。
灌水(水やり)作業は、良い盆栽を育てる上で最も基本的な作業の一つです。
初心者におすすめの3つの灌水用道具を使って灌水作業を行うと、枯らすことなく生育の良い盆栽を育てることができます。
日本の伝統文化の一つでもある盆栽。
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