年末になると、薬局やスーパーマーケットに「屠蘇散とそさん」と書かれた小さなパッケージが並びます。

この屠蘇散を日本酒やみりんにつけて、お正月にいただく独特の香りが心地よい「お屠蘇とそ」。

昔はご家庭でお屠蘇を手作りして飲む習慣があったのですが、最近では聞いたことはあるけれど、どのようなものか詳しくは知らない……という方も多いはず。

今回はお屠蘇の名前の由来や、いったい何が入っているのか、屠蘇器とそきの使い方や飲み方の作法について解説していきます!

また、お屠蘇にまつわるお話や、子供でも楽しめるノンアルコールのお屠蘇風ドリンクの作り方もご紹介しますので、ぜひ最後までお付き合いください♪

お屠蘇とは?

「お屠蘇とそ」とは、お正月にいただく祝い酒のことであり、縁起の良い風習です。

屠蘇散と呼ばれる5~10種類ほどの生薬を、日本酒やみりんなどに浸して作られます。

屠蘇の由来や意味

では、お屠蘇には一体どのような由来や意味があるのでしょうか。

お正月の祝い酒であると言いましたが、その漢字を見て少し違和感を覚えた方はいらっしゃいませんか?

お屠蘇の「」。

この字は、ほふる=家畜を殺す、切り裂く、という意味があります。

これだけを聞くと、新年早々、物騒なイメージですね。

一方、お屠蘇の「」。

これは、よみがえるという意味です。

一説には、お屠蘇とは、前年の災いや不運を葬り、新しい年に魂を蘇らせる、という願いを込めていただくものなのだそうです。

また、「」の字には、病邪(病をひきおこす邪気)という意味もあり、蘇を屠る、すなわち邪気払いをして、一年間の無病息災を祈るという願いもあるということです。

屠蘇散とは?お屠蘇の材料と効能

屠蘇散とそさんとは、お屠蘇の材料となる5~10種類ほどの生薬(薬用植物)を配合したもので、最近では漬け込みやすいように小袋に入って売られていることが多いです。

屠蘇散には独特の香りがあり、メーカーや地域により、含まれる生薬には若干の違いがあるようですが、ここでは代表的なものを見ていきましょう。

白朮
(びゃくじゅつ)
キク科のオケラやオオバナオケラの根茎を乾燥させたもの。
わずかに体を温める効果があり、食欲不振や利尿効果によるむくみの解消、胃腸の働きを整えるのに効果的だといわれている。
白朮は邪気を払う力があるとされ、大晦日から元旦にかけて無病息災や厄除けをお参りする京都の八坂神社の“おけら詣り”などでも使用される。
山椒
(さんしょう)
ミカン科サンショウの実。
体を温めお腹の冷えを取る効果があるほか、むくみを取る働きもあるといわれている。
腹痛や下痢、嘔吐を鎮め、ギョウチュウ、回虫の駆除にも用いられる。
桔梗
(ききょう)
キキョウ科キキョウの根を乾燥させたもの。
痰きり、膿を出す効果があり、咳止めやのどの痛みの解消に用いられる。
肉桂
(にっけい)
クスノキ科ケイ(トンキンニッケイ)などの樹皮をはいで乾燥させたもので、スパイスでよく知られるシナモンの仲間。
体を温め、体力不足からくる冷えを解消し、腹痛や慢性の炎症を鎮める働きがありる。
防風
(ぼうふう)
セリ科ボウフウの根。
わずかに体を温め、発汗、解熱作用、鎮痛効果が期待できる。
また、風邪、神経痛、関節痛、頭痛の解消や皮膚疾患の改善に用いられる。
風邪を防ぐということで、防風という名前がつけられた。
陳皮
(ちんぴ)
ミカン科温州ミカンの皮。
体を温め、腹部膨満感を解消し、嘔吐や下痢、消化不良を改善する。
また、胸苦しさや痰きりの効果もあるとされる。
※中国では本来、熟したミカン科マンダリンオレンジの皮のことであったが、日本では温州ミカンの皮で代用している。
八角
(はっかく)

大茴香
(だいういきょう)
モクレン科ダイウイキョウの果実を乾燥させたもの。
スターアニスとも呼ばれており、中華料理にも使用される。
体を温め、冷えからくる胃の痛みを鎮める。
紅花
(こうか)
キク科ベニバナの管状花。
体を温め、血行を促進する作用があり、月経痛の解消や内出血を治す効果がある。
染料や食用油の原料でもある。
丁子
(ちょうじ)

丁香
(ちょうこう)
フトモモ科チョウジノキの花蕾。
スパイスのクローブのこと。
胃の冷えからくる吐き気を鎮めるほか、殺菌、防腐作用、鎮痛作用も認められ、歯痛止めとしても用いられる。
細辛
(さいしん)
ウマノスズクサ科のケイリンサイシン又はウスバサイシンの根、根茎。
細くて辛味の強い根をもつことから、この名前がついた。
咳止め、体を温める効果があり、神経痛や頭痛、歯痛、喘息、風邪に効果がある。


お屠蘇の作り方

屠蘇散の中身がわかったところで、お屠蘇の作り方をご紹介しましょう。

【材料】
● 屠蘇散・・・1包み
● 日本酒・・・180ml(1合)
● みりん・・・30~50ml(または砂糖小さじ2~3杯)

【準備するもの】
● 大きめの保存容器

【作り方】
① 日本酒とみりん(または砂糖)を清潔な容器に入れます。
  
② 屠蘇散を①に浸し、冷暗所で6~7時間つけておきます。
  ときどき振りまぜると早く抽出できますよ。

③ 屠蘇散を引き上げます。
  屠蘇散のつけ時間が長いと、苦みや渋みが出ることがあるので注意しましょう!


屠蘇のアレンジレシピ~アルコールが苦手な方や子供向け~

アルコールが苦手な方や子供向けに、お屠蘇のアレンジレシピもご紹介しましょう。

スパイシーアップル屠蘇

【材料】
● リンゴジュース・・・400cc
 (お好みですが、透明なものの方が味わいがすっきりとしていてオススメです)
● 屠蘇散・・・1パック

【準備するもの】
● 大きめの保存容器

【作り方】
リンゴジュースを清潔で大きめの保存容器に入れ、屠蘇散を加え、半日程度置いて味と香りを引き出します。

※小さな子供が飲む場合は、お屠蘇の香りや味がきつすぎることがあります。
適宜味見をして、ちょうど良いところで取り分けるか、屠蘇散を取り出してください。

フルーツティー屠蘇

【材料】
● きんかん、イチゴ、ぶどうなど・・・適宜
● シナモンスティック、バニラビーンズなど・・・4cm程度
● 紅茶の茶葉・・・ティースプーン×人数分(お茶パックに入れておきます)
● 屠蘇散・・・1パック

※紅茶の茶葉は、ジャワやニルギリのようなすっきりとしたものがオススメです。
他、柑橘系にはアールグレイ、ぶどうにはダージリンもよく合いますよ。

【準備するもの】
● ティーポット

【作り方】
① フルーツはよく洗い、きんかんなどの柑橘系は5mm厚程度に切っておきます。
特に外国産の柑橘類には輸入時に農薬が散布されていることが多いので、塩や重曹で皮をこすり洗いし、しっかりと洗い流しておきましょう。
気になる場合は、香りは薄くなりますが、皮をむいて使用してもOK。

② ティーポットに①のフルーツ、紅茶の茶葉を入れたお茶パック、屠蘇散を入れ、沸かしたての熱湯を注ぎ入れます。

※イチゴなど熱に弱いフルーツははじめからティーポットに入れるとドロドロに溶けてしまい、お茶が濁ってしまうことがあります。
ポットではなく、ティーカップや屠蘇器に入れ、上からフルーツティーを注ぐと良いでしょう。

お屠蘇の飲み方

お正月に、今年一年の無病息災を祈っていただくお屠蘇。

正式な屠蘇器のお銚子ちょうしには、華やかな水引細工や正月飾りをあしらって、その年の年神様をお迎えします。

お屠蘇を飲む前には、若水わかみず(元旦の朝に汲む、新年最初の水)で手や口をすすぎ、身を清めてから神棚、仏壇のしつらえを整え、神仏を拝みます。

その後、親族が揃ったところで、おせち料理を食べる前にお屠蘇をいただきます。

屠蘇器の大中小の3つの盃は、それぞれにお屠蘇を注いで1杯ずついただきますが、1つの盃に3度に分けて注ぎ、いただく場合もあります。

飲むときは家族全員が東を向き、飲む人の右側から注ぎます。

このとき、1度目と2度目は注ぐ仕草(銚子を傾ける)のみにとどめ、3度目に注ぎます。

また、飲む順番として、年少者から年長者へと盃を進めていきます。

これは年長者に若者の生気を分け与えるとともに、若い人が毒見をする、という意味も含んでいるということです。

また、厄年の人は最後に飲み、周りの人から厄を払う「気」を受け取る、ともいいます。

お屠蘇を飲むための「屠蘇器」とは?

先ほどもご紹介した通り、お屠蘇を入れるための銚子ちょうしと、お屠蘇を飲むための、大中小3個組の盃、盃を乗せる盃台さかずきだい、それらを乗せる屠蘇台をまとめて、「屠蘇器とそき」といいます。

豪華な蒔絵を施した漆器製が多くみられますが、最近では有田焼や波佐見焼、また、ガラス製のものなど、さまざまな材質で作られています。

お正月だけではなく、ひな祭りやこどもの日、重陽の節句などのお祝い事にも利用できますよ。

おわりに

一年で一番はじめの大切なイベントである、お正月。

お屠蘇を飲み、お雑煮やおせち料理をいただいて、晴れやかなひとときを過ごすのも楽しいものです。

ですが、お屠蘇に使用する日本酒やみりんはアルコール飲料です。

未成年者や車を運転される際は飲用を控え、先ほどご紹介したノンアルコールのアレンジお屠蘇でお楽しみくださいね♪