日常の暮らしの中で食べられている食事とは異なる「行事食」は、日本人が昔から四季折々に開催される祭りや神事、そして冠婚葬祭などで食べる特別な食事です。

四季折々の行事や冠婚葬祭でいただく行事食とは、一体どのようなものでしょうか。

行事食とは

節ごとの行事に欠かすことができない食べ物

四季折々の行事食は、季節ごとに行われる祭事や神事、お祝いや法事などにかかすことができないお料理や食べ物です。

また、この行事食には、地域的に伝わっている特別な行事やお祝いなどの華やいだ集まりなどでも食べられる料理も含まれています。

休息」と「栄養摂取」の意味が含まれている食べ物

昔から伝統的に行われている四季折々の行事は、その行事に参加するだけでなく、その行事を通して「休息を取る」と言う意味も含まれていました。

また、その際は、ただ休息をとるだけでなく行事食のご馳走を食べて「栄養も一緒に摂る」と言う意味も含まれていました。

この背景には昔の食生活が今日とは異なり、豊かではなかった状況があります。

そのため行事や祭事の日は、参加するだけでなく体を休めて栄養のある行事食を摂って健康を気遣うことも行事を開催する目的のひとつとして、含まれていたのではないでしょうか。

行事食の特徴

節と関りが深い食材

節分、お彼岸、お盆、お月見、冬至などの際に頂く四季折々の行事食の特徴は、それぞれの行事が行われる季節と深い関りのある食材が使われていることです。

また、桃の節句や端午の節句など、子供の健やかな成長を願ったお祝いの行事食には、昔から定番とされている食材で作られた食べ物が多いです。

呂合わせ、縁起の良い食材や旬の食材

四季折々の行事食には、新年の初めに新しい歳神様※1とご先祖様にお供えするためのお料理の「おせち料理」から始まり、一年の災厄を断ち切る年末の大晦日に食べる年越しそばまで、沢山あります。

※1 歳神様(年神様): 神道の神様です。

それぞれの行事食には、1年を通して「語呂合わせ」、「縁起の良い食材」や「旬の食材」を使って作られていることが特徴です。

歳神様は初日の出と共に表れて高い山から下ってくると伝えられています。

そのため高い山で見る初日の出を「ご来光」と言います。

お正月の「門松」は、歳神様が家にやって来る際、迷子にならないための目印です。

また、「鏡餅」は歳神様が家の中に入ってきて過ごす場所です。

鏡餅を食す「鏡開き」は、歳神様が宿っていたその鏡餅をたべると一年を無病息災で暮らせると言われています。

4 つの願いが込められている行事食

四季折々の行事食には、4つの願いである

1. 無病息災
2. 子孫繁栄
3. 子供の健やかな成長
4. 家族の健康

が込められています。

そのためどの行事食も家族の健康や幸せを願って作られるので、それぞれの季節の旬のもので縁起を担いだ食材が使われています。

語呂合わせや縁起の良い食材

行事食で使われる語呂合わせや縁起の良い食材には、昆布、数の子、ヨモギ、豆、タケノコ、ゴボウ、レンコン、海老、鯛など、多数あります。

何となく食べている行事食で使われている食材ですが、それぞれ使われる理由があります。

茹でると鮮やかな赤色になる海老の“赤色”には、邪気を払う魔除けの力があると伝えられています。

尻尾が曲がっているので、「腰が曲がるまで長寿を願う」と言う思いも込められています。

また、殻が硬くて鎧に似ているので、力強さの象徴としても使われる食材です。

鯛は、「めでたい」と言う語呂合わせが縁起の良いとされている由来のひとつです。

鯛の赤色は神様が好む色なので、邪気を払う色として使われます。

鯛は頭と尾が付いている「尾頭付き」が最初から最後までまっとうするという意味がある縁起の良いものとして、お造りや焼き魚として使われます。

昆布は、「よろこぶ(喜ぶ)」の語呂合わせから縁起の良い食材として使われています。

また、昆布は繁殖力があり成長が早いので、繁栄の象徴としてお祝い事の行事食に使われる食材です。

結婚の結納では、子孫繁栄の意味が込められています。

の子

数の子はニシンの卵です。

このニシンの卵巣には数万位の卵があるところから由来して、“数の多い子”と言う語呂合わせから「子孫繁栄」の象徴として、お祝い事の行事食に使われる食材です。

鰹節は、背中側の「雄節」とお腹側の「雌節」の2つに身の中心で切り分けて作られます。

この2つを合わせる「鰹夫婦節」(かつおぶし)と呼ばれ、円満夫婦の象徴的な意味合いを込めて結婚式の引き出物として使われています。

また、「雄節」と「雌節」を合わせて一対となった形が亀甲に似ているので「亀節」とも呼ばれ、長寿のお祝いとしても使われています。

さらに“勝男武士”の語呂合わせから威勢の良い端午の節句のお祝い、出産、快気祝いなどにも使われています。

モギ

ヨモギは、邪気を払って健やかに成長すると伝えられている縁起を担いだ食材なので、柏餅などにも使われます。

豆は「まめに生きる・まめに働く」などの意味から日々健康で過ごせる願いが込められた食材です。

豆はどの種類を行事食として使っても良いですが、主に大豆、小豆、枝豆などが良く使われています。

お節料理に使われる黒豆の黒色は、邪気を払って災いを防いでくれると言われています。

また、慶事※2の際は色が暗い種類の豆はあまり使いません。

※2 慶事: 祝い事、めでたい事。

ケノコ

タケノコは、まっすぐ伸びて成長が早いため子供がまっすぐスクスクと育ってほしいと言う願いが込められているので、端午の節句などの行事食に使われます。

ボウ

ゴボウは、土の中に長く細く伸びて埋まっているので、「長寿」の縁起を担いだ食材として使われます。

また、「たたきゴボウ」は、煮たゴボウを柔らかくなるまで叩いて中身を開いたものなので、開運の意味が込められています。

ンコン

多くの穴が開いているので、「先の見通しが良い」と言う意味から仕事や受験などにご利益がある食材として使われています。

また、「節目レンコン」は人生の節目を無事に迎えるという意味で、明るい未来を願う縁起物として使われます。

暮らしと共にある「冠婚葬祭」の行事食

冠婚葬祭は、この世に人が誕生してから亡くなるまでの期間、そして亡くなった後も故人の霊を祭るために行われる様々な行事です。

この冠婚葬祭行事で頂く行事食では、それぞれの行事食の由来と意味を理解しながらお料理を頂くことが大事ではないでしょうか。

「冠婚葬祭」の「冠」は、男女ともに15歳になると今日の成人と同じように大人として認められる「元服」と言う慣習から由来しています。

武家の男子が15歳になると髪型を改めて冠を被る「加冠の儀」が行われ、女子は歯を黒く染める「鉄漿かねつけの儀」が行われることで成人の証としました。

「冠」の際には、一般的に特に決まった行事食はないですが、お祝いの席に欠かすことができない尾頭付きの鯛、伊勢海老、赤飯などが食べられていました。

「婚」は、結婚式を意味します。

結婚式では、お祝いのお膳としての料理が出されます。

今日では、和食だけでなく中華、フランス料理、和洋折衷など、主催者側によって内容が決められます。

どのお料理にもお祝い事につきものの尾頭付きの鯛やエビが食材として、今日でも多く使われています。

「葬」は、お葬式を意味します。

お通夜とお葬式に振る舞われる料理には、故人を偲びながら歓談したりする場を提供して悲しみを和らげる願いが込められています。

お通夜やお葬式に振る舞われる料理には特定の決まりはなく、地域やその地方の慣習によっても異なります。

一般的に今日では祝の席の料理とは異なり、色合いも地味なものが振る舞われています。

「祭」は、一年の始まりである元旦から年末の大晦日までの間に四季折々で行われる感謝や祈り、慰霊のために神仏をまつる行為を意味し、先祖の霊をまつる行事も含まれています。

1年を通して行われるご先祖様の霊を祭る行事で頂く行事食には、それぞれの行事に集まる人々や親族と絆を深めて一族繁栄を願う意味も込められています。

そのため地域によっても異なりますが、行事食には大皿に盛りつけられたものが多くあります。

例えば、生ものであるお刺身、色々な地域の郷土料理を組み合わせた「組みもの」、そうめん、お寿司などは、大皿に盛られます。

また、これらの大皿料理は、来客や親族の好みに合わせて料理が途切れないようにするための気遣いが背景にあります。

色合いも地味な行事食~お通夜やお葬式で行事食に使ってはいけない食材や料理~

お通夜やお葬式では、行事食として使ってはいけない食材や料理があります。

例えば、上記で紹介した縁起の良い食材や、下記の食材はお祝いの行事で使う食材のため、お通夜やお葬式の行事食の食材として使ってはいけません。

仏教の場合は、お通夜や葬儀のために殺された動物の肉を食べることがタブーとされているためです。

物のお皿に添えられる松竹梅などの小枝類

松竹梅は昔から縁起の良い木とされ、様々な縁起の良いものの象徴として使われています。

松は長寿や不老死の象徴、竹は力強い生命力があるので「子孫繁栄」の象徴、梅は江戸時代から高潔で気高さの象徴として、それぞれの縁起物として使われています。

の花、桜の塩漬けなど

桃や桜の花は、花がほころぶ頃に行われるお雛祭りのお祝い事の席に使われる花です。

その花を使った塩漬けなどは、お祝いの席でも使われます。

類(梅酢、梅肉、梅干し、梅酒など)

梅は松や竹と同じように縁起の良い木として扱われているので、梅から作られた食材やお酒もお祝いの席で使われています。

た目が艶やかでおめでたいお寿司

ご遺体が荼毘たび※3にふされていないため、殺生を連想されるため、などと言われています。

※3 荼毘: 火葬により死者を弔うこと。

昔から葬儀では精進料理が食べられていたので、生ものは避けられていた、など諸説あります。

お通夜や葬儀はお祝いの席とは異なり悲しみの中で行われる行事なので、出されるお寿司も控えめなものを出すことがマナーとなっています。

しかしながら、今日ではあまり生ものについて気にしないでお料理に出されている場合も多いです。

地方によっては、全く関係なく生ものがお通夜やお葬式に出されています。

出してはいけない料理もご紹介します。

ュウリの漬物などのまわし切

葬儀の順番が回ってくると言われているため

祝いに使われる糸結びのコンニャク

葬儀では三角切りにします。糸結びの「結び」はご縁を意味しているので慶事に使われます。

しかし、葬儀では不幸のご縁があってはいけないので、この糸結びは避けます。

い色の煮物

ご遺体の白装束に合わせた白煮にします。

蕎麦

お蕎麦はお祝いの縁起物なので、葬儀ではうどんなどがでます。

日常の暮らしの中で良く使われている食材や料理でもお通夜やお葬式では避けるものがあるので、日頃から調べておくことが大事ではないでしょうか。

おわりに

四季折々の行事と冠婚葬祭で頂く行事食には細かいルールが多いと思われますが、それぞれの行事食に込められた意味や背景を理解しながら頂くことが大事ではないでしょうか。

また、それぞれの行事食を作る際も、その行事にふさわしい食材を使って料理を作り、おもてなしをすることも大事ではないでしょうか。