山口県萩市の伝統的工芸品である萩焼。

一つひとつ違った色合いや形がもたらす温かみに多くの人が魅了されています。

萩焼の特徴を知るには、萩焼の製造工程を理解することが大切です。

では、萩焼はどのようにして作られるのかご存知ですか?

萩焼の成形方法には、よく知られているロクロやたたらなど、さまざまなものがありますが、ここでは近年よく使われている石膏型せっこうがたを使った萩焼の作り方を紹介します。

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萩焼の特徴

萩焼の特徴は

・種類の異なった土を混ぜ合わせた「土」
・使用するほどに味わいが出る「萩焼の七化け」
・器の底の切り込み「切り高台」
・発色など侘び寂びを感じさせる「釉薬」

があげられます。

詳しくは、こちらの記事をご覧ください。

萩焼のデザインを決める

「一楽二萩三唐津」と謳われているように、昔から親しまれている萩焼は、抹茶茶碗や湯呑が一般的によく知られています。

近年では、普段使いに丁度良いお皿やお茶碗、マグカップ、花瓶など、実に様さまざまなものが作られています。

これらは、実際に萩焼を作る陶芸家が、形や色など全てのデザインを決めていきます。

デザインをする際には、紙に描いたり、実際に粘土で詳細まで作ったりします。

お皿であれば実際に1枚試作してみて自宅で使ってみることもあります。

使いやすさや大きさ、色合いをチェックした後、一般に販売する作品の製造に取りかかります。

萩焼の原型を作る

原型は、キメの細かい木節きぶし粘土で作ります。

木節粘土は耐火性が強く、また強い力を加えた際に形が変わって元に戻らない可塑性にも優れています。

粘土層の中に炭化した植物を含み、焼いた時の断面が木の節に似ていることからこの名前が付きました。

有機物を含み、褐色や灰色をしています。

原型に木節粘土を使うのは、粒子のキメの細かい土を使うことによって、細部までより細かく表現できるからです。

また原型を作る時には、実際の大きさよりも1割程大きく作ります。

これは乾燥した際に水分が飛んで小さくなるという理由があるからです。

石膏型を起こし、萩焼の型を作る

原型が出来たら、次は石膏を作ります。

膏とは

石膏とは、石灰に水を混ぜたもので、水と混ざると固まる性質があります。

学校で使ったチョークや、グラウンドに引かれた白い線と同じものです。

膏の作り方

型は、必ず二つのパーツから成り立ちます。

鋳込み口を作って元型の完成です。

使用型を複数作る為に元型からケースを作ります。

まず液状の石膏が流れ出ないように、粘土で囲いを作ります。

原型の上から石膏を流し、上側の型が出来上がります。

出来上がって乾燥途中の使用型。

次に今できた上の部分を下にし、石膏を流し込むことによって、残りの半分の型も完成させます。

石膏の型ができたら、更にそこに石膏を流しいれ、石膏のお皿やカップを作ります。

石膏が原型にくっつかないように、予め原型に剥離剤を刷毛(ハケのようなもの)で塗っておきます。

この剥離剤は、カリ石鹸液でできており、スライムのようなドロっとした状態です。

刷毛で塗る際は、水で薄めて使われます。

出来た石膏のお皿やカップを使って、ケースと呼ばれる同じ型を次々に作っていきます。

泥漿を作る

漿とは

萩焼に使われるのは粘土と呼ばれる土ですが、土そのままだともちろん固く、型に流し込むにはドロドロとした液状のものが必要です。

その液状の土が泥漿でいしょうです。

焼に使われる土

萩焼に必要な土は、前回の記事でも説明したように、作陶のベースとなる「大道土だいどうつち」と「見島土みしまつち」が使われます。

配合の割合は窯元によってそれぞれ異なり、大道土が多いと白っぽく、見島土が多いと赤っぽい作品が出来上がります。

二つの土の割合は、窯元によってそれぞれ異なります。

漿の作り方

これらの二つの土を混ぜ合わせる際には、機械が使われます。

モーターの付いた撹拌機に2種類の土と、水ガラスと呼ばれるケイ酸ナトリウムの液体を入れます。

土を液状にするのに水を使うのではなく水ガラスを入れることによって、型に流し込んだ際に、グニャっとならずに形を留めることができるからです。

型を使って萩焼を成型する

萩焼の成型は、圧力鋳込あつりょくいこみという機械を使って行われる作業です。

タンクに入れた泥漿が、約2気圧の加圧によって型に流し込まれます。

石膏には3-4㎜の穴が開けてあり、そこから泥漿が流れ入ります。

機械には、9㎝の石膏のセットが10段積まれます。

10個全てに泥漿が行き渡り、成型されるまで30分ほどかかります。

よほどの大きなお皿など以外は、成型されてすぐに石膏の型から外すことができます。

剣先やヘラで石膏の型から作品を外したら、スポンジで高台を綺麗にします。

取り出した生地。 

余分な粘土(バリ)を取ってスポンジなどを使って仕上げます。

萩焼を乾燥させる

成型した萩焼を完全に乾くまでに、数日かかります。

なお、季節や湿度によって乾燥にかかる時間が異なり、梅雨時期は乾燥に長い時間がかかります。

萩焼を素焼きする

ぜ萩焼を素焼きするのか

萩焼は土で出来ているので、成型した段階では水分が多く含まれています。

そのまま本焼きをしてしまうと壊れやすくなってしまいます。

素焼きをすることによって一旦焼き固め、強度を増すことができます。

また、素焼きの後に施す釉薬は、素焼きをすることでかかり易くなるので、素焼きは重要なポイントなのです。

焼の素焼きの温度と時間

萩焼の素焼きの温度と時間は、700℃-750℃で10時間ほどです。

本焼きに比べて温度が低いですが、素焼きの温度が高すぎると焼き固まってしまい、水の多い成分である釉薬がしみ込みにくくなります。

素焼きが終わると、窯の内の急激な温度変化を避けるために翌日~翌々日まで待ち、それから窯を開けます。

出来上がった萩焼の素焼き。

萩焼の施薬

いよいよ萩焼に施薬=釉薬を掛けていきます。

釉薬についても、【萩焼とは?萩焼の特徴と種類】の記事をご参照ください。

釉薬は素焼きの状態の焼き物に入り込んですぐに乾くので、翌日にでも窯に入れて焼くことができます。

模様を描く場合は、釉薬を塗った後に描く上絵の具や、素焼き後釉薬を塗る前に描く下絵の具があります。

使われるものは、主に顔料です。

萩焼を本焼きをする

萩焼に施釉した後は、窯積みをして本焼きをします。

窯積みを終え、これから本焼きです。

本焼きでは、1200℃~1250℃で13時間程焼きます。

素焼きの際と同様に、窯の温度が完全に下がった翌日~翌々日に取り出します。

萩焼を検品する

約1200度で焼成し、萩焼が焼き上がりました。

萩焼は掛ける釉薬によって、さまざまな色の器ができます。

窯から取り出した後は、萩焼に高台(皿の底部分)を擦って滑らかにして、完成です。

また、萩焼の状態を確かめる検品も行われます。

花瓶など水が入るものについては、漏れ止めの液体を作品にかけます。

こうして一つひとつ状態を確かめられた萩焼は、いよいよお店に並べられます。

おわりに

萩焼の製造にはいろいろな手法がある中、今回は石膏を使って作られる方法についてご紹介しました。

これは一例に過ぎないので、違うやり方があって当然ですし、窯元さんの好みによります。

最後に、萩焼の製造工程をおさらいします。

・萩焼のデザインが終わったら木節粘土で原型を作る。
・萩焼製造用の石膏を起こし、石膏のお皿やカップを作る。
 萩焼の原型に剥離剤をつけてくっつかない様にする。
 それをもとにケースと呼ばれる型を10個作る。
・モーターの付いた機械で泥漿を作る際には、水ガラスを入れる。
 圧力鋳込みを使って泥漿を萩焼用の石膏に流し込む。
・成形した萩焼の型を乾燥させる。
 ※乾燥時間は季節や湿度によって異なる。
・素焼きは強度を増す大切な工程で、700~750℃で約10時間行う。
・釉薬は一つひとつ手作業で行う。
 ※素焼きした萩焼に吸収されすぐに乾く。
・本焼きでは1200℃~1250℃で13時間程焼く。
・最後に、検品を行い漏れ止めを萩焼に施す。

普段なかなか聞きなれない名前や、見たことのないものばかりだと思いますが、萩焼はこうやって作られているんだ、と納得して頂ければ幸いです。

こうした工程を通して作られた萩焼には、一つひとつの作品に、人々の暮らしの中で温もりを感じてもらえるようにという職人の想いが詰められています。