
墨絵の筆づかいをタガネを使い金属に彫刻する"町彫り"の技法が受け継がれる「東京彫金」。
帯留めやブローチなどのアクセサリーで目にする機会がありますが、一体どのような工芸品なのでしょうか。
この記事では、東京彫金とはどのようなものか、その魅力や技法、歴史についてご紹介します。
東京彫金とは
「東京彫金」とは、昭和48年(1973年)に設立された「日本彫金会」の会員により制作される、彫金技法を用いて作られた作品のことです。
主に東京都台東区・文京区・足立区などで製作されており、1988年(昭和63年)7月29日に“東京の伝統工芸品※”に指定されました。
※東京の伝統工芸品:東京都知事が指定する東京都の伝統工芸品。令和5年(2023年)8月時点で42品目が指定されている。
彫 金とは
彫金とは、その字のとおり、金属を彫ること。
糸鋸や金槌、タガネなどの工具を使って、金属に加工や装飾を施す技術をいいます。
金属の板に図柄を彫ってレリーフなどを作ったり、鍛金や鋳金など他の技法で作られた作品の表面に施されることもあります。
そんな彫り作業の中でも、特に欠かせない道具なのが「タガネ」です。
タガネとは棒状の鋼鉄材の先端をさまざまな形に加工して作られた工具で、毛のように細い線を彫るための毛彫りタガネや、彫り跡が筆で書いたような形になる片切タガネなど多くのな種類があり、タガネだけでも千本以上を使い分けるといいます。
東京彫金の魅力
東京彫金の魅力はというと、繊細かつ躍動感あふれる動物や植物の描写でしょう。
東京彫金に用いられる片切彫刻は、金属に刃を斜めに打ち込むので、彫った際に深い部分と浅い部分ができます。
その深浅の差が、彫りに影を生み出し、日本画の筆のかすれを再現することができるのです。
東京彫金により描かれる動物や植物は、その毛の1本1本、繊維の1つ1つが彫りで描かれており、立体感を醸し出し躍動感が伝わってきます。
また、年数を重ねるごとに金属は変化し、さらなる味わいを引き出すのも、東京彫金の魅力の一つです。
東京彫金の技法
東京彫金には、使用するタガネの形状により、彫り、透かし、打ち出し、象嵌などの技法があり、簡単に説明すると以下のようになります。
彫 り
タガネと金槌を用いて、金属の表面に図柄や模様、文字などを彫る技法です。
使用するタガネにより彫った線の形状は異なり、図柄によってタガネを使い分けます。
透 かし
地金を図案に沿って糸鋸やタガネで切り取る技法です。
糸鋸を使う場合は、切り取る部分にドリルで穴を開け、その穴に鋸刄を通して図案通りに切っていきます。
タガネを使う場合は、切り取るラインにタガネの刃を合わせ、金槌で叩いて叩き切ります。
打 ち出し
なまして柔らかくした地金を木槌などで裏側からたたき出し、盛り上がった表面をタガネで叩いて形を作りこみ、成形する技法です。
象 嵌
本体の地金に溝を彫り、別の金属をはめ込む技法です。
制作方法により、さらに平象嵌や切り嵌め、布目象嵌など複数の技法に分かれます。
東京彫金の歴史
東京彫金の歴史を知るべく、日本の彫金技術の流れを紐解いていきましょう。
古 墳時代後期(西暦500〜700年頃)
日本の彫金技術の起源は古墳時代後期(西暦500〜700年頃)、大陸より渡ってきた工人(制作を職とする人のこと)により伝えられたと言われています。
初期にはかんざしなどの装身具や馬具類に精巧な装飾が施され、やがて武士が力を持つ時代になってくると、刀剣や甲冑の装飾としてその技術が用いられました。
室 町時代中期(西暦1500年頃)
室町時代中期(西暦1500年頃)の装剣金工氏・後藤祐乗(1440〜1512)を祖とする装剣金工の宗家・後藤家によって生み出された作品は、京都を本拠として、江戸・金沢にも分派がありました。
伝統と格式を重んじた京都風の作風は「家彫」と呼ばれ、彫金の主流を占めるようになります。
江 戸元禄期(西暦1688〜1704年)
江戸元禄期(西暦1688〜1704年)には、後藤家の下地職として働いていた横谷宗珉が独立し、自由な題材や構図を取り入れた「町彫 」を創立しました。
この「町彫」は京都風の「家彫」に対して名付けられたものです。
町彫りは横谷宗珉が片切彫りで絵画風の意匠を表現した作品を発表したのに始まり、煙管や根付などの生活用品にも用いられるようになり広まっていきました。
明 治時代以降
明治18年(1885年)にはドイツで開かれたニュールンベルグ金工万国博覧会に町彫の作品が出品され、日本独自の片切彫りの技法は高い評価を得ました。
東京彫金は、この「町彫」の技法を今に伝えるものです。
タガネを駆使して金属の表面に緻密な模様を描き出し、さまざまな表情を与えます。
生活様式の変化に伴い、その作品はかつての額や置物などから、現在では装身具が主流となっています。
作るものは変わっても、伝統工芸として長い年月をかけて築き上げられた確かな技術と表現力は、それらの作品の中に変わらず見て取ることができます。
おわりに
東京彫金の魅力や技法、歴史についてご紹介しました。
最近では日本画以外にもモダンなデザインも取り入れられたり、受け継がれた技術を進化させ手編みジュエリーが作られるようになるなど、作品の幅を広げている東京彫金。
ぜひ一度、その技術をご覧になってみてください。

金工とは金属に細工をする工芸、あるいはその職人のことを指し、金属を加工して作られる工芸品のことを金工品と言います。日本に金属とその加工技術がもたらされたのは、弥生時代初期、紀元前200年頃のこと。中国大陸・朝鮮半島から伝わった金工技術によって剣や銅鐸、装身具などが作られ、材料として青銅や鉄が使われていました。

金工とは金属に細工をする工芸、あるいはその職人のことを指し、金属を加工して作られる工芸品のことを金工品と言います。
日本に金属とその加工技術がもたらされたのは、弥生時代初期、紀元前200年頃のこと。
中国大陸・朝鮮半島から伝わった金工技術によって剣や銅鐸、装身具などが作られ、材料として青銅や鉄が使われていました。

金工品として世に出ている製品はその製造工程のほとんどが人の手によるもので、熟練の職人により1つ1つ丁寧に作られています。
伝統工芸品でもある様々な金工品の魅力は、その熟練の技を細部にまで見ることで、職人の手の温かみが感じられることでしょう。

日本の首都である東京都。都内各地には、東京タワーや東京スカイツリー、浅草寺といった名所が数多くあり、海外からも観光客が訪れます。経済産業大臣によって東京都の「伝統的工芸品」として指定されている村山大島紬、東京染小紋、江戸木目込人形、東京銀器、東京手描友禅、多摩織、江戸切子、江戸硝子など17品目をご紹介します。