狂言は現代で言うところの「よしもと新喜劇」のような、人々の日常生活で沸き起こる笑いをテーマにした喜劇です。

登場人物のほとんどが無名の人々で、現代の私たちから見ても理解できるような日々の出来事が題材となっています。

また、起承転結がはっきりしており、1つの曲が5~10分で終わるため、気軽に観られるところも狂言の特徴です。

今回は初心者の方にオススメしたい、狂言の演目を5つ取り上げ、あらすじや見どころを解説していきます。

オススメの狂言1|『棒縛(ぼうしばり)』

シテ※1:太郎冠者
アド※2:主
小アド:次郎冠者

※1 主役
※2 シテの助演者

らすじ

主人は自分の留守中、家来の太郎冠者と次郎冠者が秘蔵の酒を盗み飲みできないよう、一計を案じます。

まず次郎冠者を呼び出し、続けて棒術の稽古をしている太郎冠者(和泉流は次郎冠者)に型を披露させます。

太郎冠者が両腕を広げたところで、次郎冠者に手伝わせて棒と手を縛り付けます。

主人は次郎冠者をも後ろ手に縛り付けて、外出してしまいます。

両手を縛り付けられて留守を任された太郎冠者と次郎冠者。

どうしても酒が飲みたくなり、酒蔵に行ってかろうじて動く手先で酒を飲もうと苦心します。

どころ

縛られた両手でなんとかして酒を飲もうとする太郎冠者、次郎冠者の姿が笑いを誘います。

手の使えない不自由な状態でどのようにして酒を飲むか、縛られた両手で如何にして舞を舞うかが見どころです。

オススメの狂言2|『靭猿(うつぼざる)』


シテ:大名
アド:太郎冠者
アド:猿引
アド:猿

らすじ

遠国(おんごく)の暮らしの大名は、退屈しのぎに太郎冠者を伴い、狩りに出かけます。

道中、猿引(猿回し)に出会った大名は毛並みの良い猿を見て、猿の毛皮を剥いで靭(うつぼ・矢を入れる筒)の飾りにしようと思いつき、猿を貸せと猿引に無理を言います。

猿引は、それでは猿が死んでしまうと訴えますが、大名は矢で脅して言うことを聞きません。

とうとう観念した猿引は自ら猿を殺そうと杖を振り上げますが、猿は杖を取って船をこぐものまね芸を始めるのでした。

どころ

猿の毛皮をよこせと傍若無人な振る舞いをしたかと思えば、殺されるとも知らずものまね芸を披露する猿のいじらしさに涙する、自分勝手ながら愛嬌もある大名の振る舞いが見どころです。

狂言は「猿に始まり、狐で卒業」という、『靭猿(うつぼざる)』の猿役に始まり『釣狐(つりぎつね)』の老狐を演じて一人前とされています。

猿役は狂言師の子供や孫が初舞台を踏む際に演じることが多く、彼らの親目線で猿を見守る楽しみもあるでしょう。

オススメの狂言3|『柿山伏』


シテ:山伏
アド:畑主

らすじ

出羽(でわ)の羽黒山(はぐろさん)の山伏は、修行の途中で空腹に耐えられず、道端の柿の木に登って柿の実を盗み食いしていたところに、畑の主が見回りにやってきます。

山伏は木の陰に身を隠しますが、畑の主はわざと気づかぬふりをして、あれはカラスか、サルかと呼びかけるので、山伏は見つからないように鳴き真似をしてごまかそうとします。

ついに「あれは鳶(とび)だ。鳶なら羽を伸ばして鳴くだろうが、鳴かなければ人だろう」と畑の主に言われ、山伏は柿の木から鳶の鳴き真似をしながら飛び降りてしまいます。

どころ

柿の木は葛桶(かずらおけ)※3で表現され、山伏は葛桶に登って柿の木を盗み食いする姿を演じます。

山伏役の狂言師の演技と表現力により、あたかも高い柿の木の上に居るようです。

※3 葛桶は直径30cm、高さ45cmほど、黒漆塗りで印籠ぶた付きの円筒形の桶で、演目によって柿の木や腰掛け、酒桶などとして使用する。

なんとかその場をやり過ごそうと、畑の主の無理難題に悩まされる山伏のうろたえた姿や、鳶として飛ばなければ鉄砲で撃つぞと脅され、とうとう柿の木から飛び降りてしまうおかしみが笑いを誘います。

オススメの狂言4|『蚊相撲』

シテ:大名
アド:太郎冠者
ワキ:蚊の精

らすじ

大名は天下泰平で相撲が流行っているということで、家来に相撲取りを召し抱えたいと言い、太郎冠者に適任者を探してくるよう命じます。

太郎冠者が街道でひとりの男に話しかけると、男は相撲取りで奉公先を探していると言います。

※天下泰平:全国に争いや揉め事が起こらず、治安の良い状態のこと

太郎冠者はさっそく男を大名に引き合わせますが、実はこの男、血を吸うために江州(今の滋賀県)の山から下りてきた蚊の精だったのです。

大名は相撲取りを召し抱えることができたと大喜びします。

しかし、他に相撲を取れる者がいないため、やむなく大名自身が相手になることに。

どころ

蚊の精が相撲を取るという発想もさることながら、この蚊の精の造形もまた見どころです。

「うそふき」という面(おもて)に、こよりにした和紙を口に差し込み、蚊の精を表現しています。

能や狂言には、このように人間以外の動物や神、怨霊などのキャラクターが登場しますが、とりわけ狂言では、蚊の精や蟹の精、茸(きのこ)の精など、人畜無害なキャラクターばかりが出てきます。

そんな彼らにスポットを当て、笑いに昇華するところが狂言のおおらかさ、おかしみでもあります。

オススメの狂言5|『舟ふな』※『舟船』と表記する場合もあります

シテ:太郎冠者
アド:主人

らすじ

主人の供をして参拝に出かけた太郎冠者は、道中の渡し場で「ふなやーい」と船頭を呼びます。

すると主人が「ふね」と呼ぶように注意すると、太郎冠者は古歌を引用して「ふな」だと反論します。

主人も負けじと古歌をあげて「ふね」だとやり返しますが、次々と古歌を引く太郎冠者に圧倒されてしまいます。

そこで主人は謡曲の『三井寺(みいでら)』の一節「~ふねもこがれいづらん」と謡いますが、次に続く謡が「ふな~」だったために詰まってしまいます。

太郎冠者が「ふな人もこがれいづらん」と続けて謡ったところで、主人が叱って幕引きとなります。

どころ

主人と太郎冠者が渡し船を呼ぶ際に「ふね」と呼ぶべきか「ふな」と呼ぶべきか、古歌を引用して言い争う演目です。

引用される古歌や謡曲の知識がなくても、太郎冠者が主人をやり込めてしまうところに軽妙なおかしみがあります。

まとめ

狂言は室町時代、江戸時代の庶民の生活を題材とした演目が多いため、現代の私たちでもすんなり受け入れられ、思わず笑ってしまう芸能です。

人気狂言師がお目当てでもOKですので、ぜひ実際の公演を生で体感してみてください。