春の訪れを告げる風物詩「修二会しゅにえ」は、主に奈良のお寺で行われることが多い仏教の伝統行事です。

仏教行事とはいえ、修二会ではすべての人々の幸せや国家の平和が祈念されているので、誰もが関係のある儀式といえます。

また、関西以外では知名度の低い修二会ですが、東大寺の“お水取り”のほか、“お松明たいまつ”や“花会式はなえしき”などと呼ばれることもあり、それなら知っている!という方もいるかもしれませんね。

今回は、修二会では何が行われているのか、有名な東大寺の修二会(お水取り)も踏まえながら詳しくご紹介します。

修二会とは

修二会は旧暦の2月に行われていたため、“二月に修する法会”という意味からその名前で呼ばれています。

二会で祈念されていること

修二会に参加する僧侶たちは、国家や市民に代わって旧年中の穢れを払い、新年の豊穣や国家平安のために祈りをささげています。

僧侶たちは身を清めてご本尊に礼拝行を行うのですが、長時間に及ぶ法要は時期的にもまだ寒いため、大変な苦行です。

また、修二会は2月以降に行われるため、節分の豆撒きの起源である鬼(疫病を引き起こし人間を苦しめるもの)を払う“鬼追い”が一緒に行われることもあります。

二会の歴史

もともとの修二会は、五穀豊穣を祈る祈年祭きねんさい(としごいのまつり)が仏教行事として定着していったのですが、奈良時代には南都七大寺なんとしちだいじ※1を中心に悔過けか※2の作法として成立したため、現在でもほとんどが奈良で行われています。

※1南都七大寺:奈良時代に朝廷の保護を受けた平城京周辺の7つのお寺のこと。
※2悔過:罪や過ちを悔い改めること。

東大寺の修二会

修二会は東大寺特有の行事だと思っている方も多いほど、修二会といえば東大寺が最も有名です。

東大寺修二会の正式名称は「十一面悔過じゅういちめんけか」。

修二会が行われる二月堂のご本尊が十一面観世音菩薩で、その御前で法要が行われるためその名がつきました。

天平勝宝4年(752年)から始まった東大寺の修二会は一度も途絶えることなく行われており、令和3年(2021年)には1270回目を迎えました。

二会の日程

東大寺の修二会の本業は、3月1日から3月14日の2週間続きます。

さらに、その前段階での準備もあるので、毎年非常に長い期間をかけて行われており、東大寺の儀式のなかでも特に長期間に渡る儀式といえます。

ここでは、実際にどんなことが行われているかをご紹介しましょう。

練行衆れんぎょうしゅう(僧侶の発表)
旧年12月16日の朝、東大寺を開山した良弁僧正の命日にあたるこの日に、れんぎょうしゅうの発表が行われます。

練行衆とは修二会に参加する僧侶のことなのですが、東大寺の練行衆は全員で11名です。(2021年9月時点)

前行の始まり「別火べっか
別火べっか」とは、修二会に臨む練行衆と、それを支える童子どうじが日頃使っている火と別れることで、簡単にいうと俗世から離れた場所で合宿生活を送ることを意味します。

合宿生活を参籠さんろうというのですが、参籠は修二会の本業が終わるまで続けられます。

前半の“ころべっ”は、2月20日から2月26日(閏年は2月27日)までです。

主に修二会に使用する道具を作ったり、法要での声明しょうみょう(仏教声楽曲)を練習したりするのですが、まだ少しの外出などは許される期間でもあります。

後半の“そうべっ”は、2月27日と2月28日(閏年は2月28日と2月29日)の2日間です。

私語や外出、地面との直接の接地、食事以外で水分を摂ることが禁止されるので、ころべっに比べると規律は厳しくなります。

本業「修二会」の開始

3月1日、いよいよ本業「修二会」の開始です。

本業の中心は「六時ろくじ」の作法と呼ばれるもので、日中から夜明けまでの時間を6つ(日中にっちゅう日没にちもつ初夜しょや半夜はんやじんじょう)に分けて、それぞれ悔過作法などを繰り返します。

六時以外にも、決まった日にのみ行われる作法がいくつかあり、歴代天皇や歴代の東大寺関係者、国の要人の名前が読み上げられ、鎮護国家と万民快楽などが祈念される大導師作法などが有名です。

修二会で最も謎めいている儀式は“達陀だったんの行法”で、跳ねながら松明を礼堂に突き刺す所作を何度も繰り返し、堂内には火の粉が飛び散るのでとても勇ましい儀式でもあります。

名なお水取りとお松明は修二会の一部

東大寺の修二会を「お水取り」や「お松明」と呼ぶ方もいるのですが、お水取りもお松明も、東大寺の修二会のなかで行われる儀式の一つです。

それぞれ何が行われているかご紹介します。

お水取り
お水取りは、練行衆が二月堂の若狭井わかさいに入り、観音菩薩へお供えするための「お香水こうずい」というお水を汲み上げる儀式のことです。

お水取りの儀式は3月12日の深夜から始まり、実際に汲み上げる作業は13日の未明で、大変寒さの厳しいなか行われています。

二月堂の若狭井わかさいの水は、福井県小浜市の神宮寺にある鵜の瀬から送られているといわれているため、鵜の瀬ではお水取りの10日前にあたる3月2日に「お水送り」という儀式を行っています。

お松明

お松明は、二月堂へ上堂する際に暗い足元を照らしたのが起源で、大きな松明を担ぐのは童子の役割です。

有名なのは3月12日の籠松明(練行衆11名分の大きな松明)があげられ、この日は参拝者が特に多く集まるためニュースでも取り上げられます。

そのためにお松明は3月12日にのみ行われていると思っている方も多いのですが、実際には期間中、毎日19時から欠かさずお松明があげられてるので、いつでも見学は可能です。

※上堂:仏教を説法する建物へ上がり、説法すること。

二会に対しての覚悟

東大寺の修二会は、令和3年(2021年)に1270回目を迎えた奇跡ともいえる儀式なのですが、コロナ禍で開催ができるか、長い時間をかけて議論されました。

火を扱う儀式のためアルコール消毒液との相性が悪い上に、参籠では密になりやすく、一人でも感染者が出ると全員が濃厚接触となってしまうためです。

感染者が出れば修二会が終わってしまうなかでも、「中止も延期もしない」というのが東大寺の出した結論でした。

修二会は、東大寺が焼き討ちにあったときも、第二次世界大戦時も、欠かさず続いてきた「不退の行法」だからです。

そのため、練行衆と童子の39名は、修二会開始の2週間前から隔離生活を送り、いつもよりも強い覚悟でコロナ禍の修二会を無事に成功させました。

【華厳宗大本山 東大寺の修二会】
開催日:3月1日~3月14日
住所:〒630-8587 奈良県奈良市雑司町406-1
アクセス:
・JRもしくは近畿日本鉄道「近鉄奈良駅」より市内循環バス「東大寺大仏殿・春日大社前」下車、徒歩5分
・近畿日本鉄道「近鉄奈良駅」からぐるっとバス(大宮通ルート・奈良公園ルート)「大仏殿前駐車場」下車すぐ

情報は変更となる場合がございます。詳細は、公式サイトをご確認ください。

東大寺以外の修二会

修二会は京都の清水寺などでも行われていますが、南都七大寺の流れを引き継いでいるため、奈良で多く行われています。

ここでは、東大寺以外に奈良で行われる主な修二会をご紹介します。

会式(薬師寺/奈良県奈良市)

薬師寺の修二会は、ご本尊の薬師三尊像に造花をお供えすることから「はな会式えしき」と呼ばれているのですが、悔過を薬師三尊像の御前で行うため「薬師悔過」ともいいます。

結願けちがん後の3月31日に行われる“鬼追い式”では、黒・青・赤・白・黄の5色の鬼が登場して松明を振り回しながら豪快に暴れまわり、毘沙門天によって退治されます。

※結願:日数の決まっている法要や儀式が終わること。

【薬師寺の花会式】
開催日:毎年3月25日~3月31日
住所:〒630-8563 奈良県奈良市西ノ京町457
アクセス:近畿日本鉄道(近鉄)橿原線「西ノ京駅」より徒歩1分

情報は変更となる場合がございます。詳細は、公式サイトをご確認ください。

たいまつ(新薬師寺/奈良県奈良市)

新薬師寺の修二会は、薬師如来の御前で行われるため、薬師寺と同様に「薬師悔過」と呼ばれます。

悔過法要は17時から、おたいまつは19時から行われるのですが、おたいまつでは長さ7mもある大松明が10本と、籠松明1本が本堂の周りを雄々しく回るので、非常に迫力があります。

4月に開催されるため、ほかの修二会に比べると少し遅い時期になりますが、ちょうど桜の季節に行われていて、おたいまつによって白く浮かび上がった幻想的な桜も見どころの一つです。

【新薬師寺のおたいまつ】
開催日:毎年4月8日
住所:〒630-8301 奈良県奈良市高畑調1352
アクセス:JRもしくは近畿鉄道「近鉄奈良駅」より市内循環バス「破石町」下車徒歩10分

情報は変更となる場合がございます。詳細は、公式サイトをご確認ください。

だおし(長谷寺/奈良県桜井市)

花の寺としても有名な長谷寺の修二会は、東大寺と同じく十一面観世音菩薩の御前で悔過が行われるので、「十一面悔過」といいます。

最終日に行われるのが「だだおし」なのですが、正式名称は「追儺会ついなえ」です。

だだおしで行われるのは鬼追いで、赤・青・緑の鬼が本堂の周りを走り回るのを、法力を宿したおうふだで退治します。

牛玉札に法力があるのは、開山者である徳道上人が閻魔大王にいただいた檀拏印だんだいんが押印されているためといわれているそうです。

【長谷寺のだだおし】
開催日:毎年2月8日~2月14日
住所:〒633-0112 奈良県桜井市初瀬731-1
アクセス:近畿鉄道(近鉄)「長谷寺駅」から徒歩20分
      
情報は変更となる場合がございます。詳細は、公式サイトをご確認ください。

西 円堂修二会(法隆寺/奈良県斑鳩郡)

法隆寺の修二会は、国宝の西円堂さいえんどうで執り行うため「西円堂修二会」と呼ばれており、西円堂修二会の悔過は薬師如来像の御前で行われるため「薬師悔過」ともいいます。

西円堂修二会でも最終日の結願後に追儺会があり、赤・青・黒の鬼が松明を投げて、最後に毘沙門天が鬼を追い払うので、薬師寺の花会式に少し似ていますね。

【法隆寺の西円堂修二会】
開催日:毎年2月1日~2月3日
住所:〒636-0115 奈良県生駒郡斑鳩町法隆寺山内1-1
アクセス:
JR「王子駅」北口からバス「国道横田・シャープ前・法隆寺前」行き
JR「法隆寺駅」からバス「法隆寺参道」行き
近畿日本鉄道(近鉄)「筒井駅」から「JR王子駅」行き
いずれも「法隆寺前」下車すぐ

情報は変更となる場合がございます。詳細は、公式サイトをご確認ください。

おわりに

修二会が終わる時期は暖かくなってくるため、修二会は春を告げる儀式といわれますが、そこで行われていることは「悔過」です。

自分たちのために罪や過ちを悔い改め、祈りをささげてくれる僧侶のみなさんには、本当に頭が下がるのですが、幸せを祈ってくださるので勇気がもらえますよね。

これから修二会のニュースを見かけたり聞いたりしたら、感謝の気持ちで見守ってください。