日本には、さまざまな年中行事がありますね。

特定の地域に住んでいる人にとっては当たり前の風習も、それ以外の地域の人はまったく知らないことも珍しくありません。

おそらく、「亥の子」もその一つでしょう。

この記事では、亥の子の意味や行事食など、まったくご存じない方にもわかりやすくご紹介していきます!

亥の子とは?

そもそも、「亥の子」って読めませんよね……。

亥の子の読み方や意味、由来や歴史についても簡単にご説明しましょう。

の子の読み方・意味

亥の子は「いのこ」と読みます。

亥の子とは“の月の最初のの日”に行われる、収穫祭のこと。

亥の子祭り、亥の子の祝い、お亥の子さん、玄猪げんちょの祝い、とも呼ばれています。

詳しくは【亥の子の由来・歴史 】にて触れますが、子孫繁栄や万病除去などを祈る意味があります。

亥の子は主に西日本で行われている行事なので、東日本ではあまり知られていません。

の日はいつ?亥の子 2023年は?

では、亥の月の最初の亥の日とはいつなのでしょう。

ここで十二支のお話をしますね。

十二支というと、「ね・うし・とら・う・たつ・み……」と、12種類の動物を思い浮かべた方も多いはず。

ですが、十二支とは本来、古代中国の天文学から生まれた“順序”を表す記号なのです。

十二支と月・時刻の対応

十二支時刻
旧暦新暦
子(ね)11月12月23~1時
丑(うし)12月1月1~3時
寅(とら)1月2月3~5時
卯(う)2月3月5~7時
辰(たつ)3月4月7~9時
巳(み)4月5月9~11時
午(うま)5月6月11~13時
未(ひつじ)6月7月13~15時
申(さる)7月8月15~17時
酉(とり)8月9月17~19時
戌(いぬ)9月10月19~21時
亥(い)10月11月21~23時


十二支は、年・月・時刻などを表すのに使われていました。

動物の名前があてられたのは、あくまでも覚えやすくするためです。

亥も十二支の一つで、亥の月とは旧暦の10月を表します。

新暦を採用している現在では、“11月最初の亥の日”を亥の子としています。

それでは、具体的な日付を見ていきましょう。

亥の子 2024年は11月7日

亥の子は下記の通り、毎年日付が異なります。

【亥の子の日付】
● 令和 3年(2021年):11月11日(木)
● 令和 4年(2022年):11月 6日(日)
● 令和 5年(2023年):11月 1日(木)
● 令和 6年(2024年):11月 7日(日)
● 令和 7年(2025年):11月 2日(日)
● 令和 8年(2026年):11月 9日(月)
● 令和 9年(2027年):11月 4日(木)
● 令和10年(2028年):11月10日(金)
● 令和11年(2029年):11月 5日(月)
● 令和12年(2030年):11月12日(火)

の子の由来・歴史

亥の子は古代中国の「亥子祝いのこいわい」という、無病息災を願う宮廷儀式に由来します。

亥の月亥の日亥の刻に、穀物の入った餅を食べると、病気にならないと信じられていたのです。

亥子祝いのこいわい」が日本に伝わったのは平安時代のこと。

宮中行事として、貴族の間に広まります。

稲刈りの時期と重なるため、農村部へは収穫祭として浸透していきました。

「亥」は、動物のイノシシを表します。

そこで多産のイノシシにあやかり、子孫繁栄や子どもの成長を願う地域も出てきました。

亥の子餅

画像にあるような和菓子を見たことはありますか?

「亥の子餅」や「玄猪げんちょ餅」と呼ばれるお餅です。

亥の子、すなわちイノシシの子ども・うり坊に見立てて作られています。

見比べてみると、そっくりですね!

の子餅とは?

亥の子餅は、亥の子の行事食です。

先ほども少し触れましたが、起源は古代の中国にあります。

日本でも平安時代から食べられており、亥の子餅を贈り合う習慣もあったそうです。

農村では収穫祭と結びついたこともあって、亥の子餅をの神様にお供えし、家族で食べる風習も生まれました。

亥の子の頃になると、和菓子店の店頭に並びます。

亥の子餅を亥の刻(21~23時)に食べて、無病息災・子孫繁栄を願ってみてはいかがでしょう。

の子餅と源氏物語

亥の子餅は、「源氏物語」の第9帖“あおい”にも登場します。

光源氏と紫の上の新婚第二夜が書かれた場面では、ちょうど亥の子餅を食べる日だったのです。

平安の貴族社会での結婚は男性(婿)が女性の家に通う形で、結婚三日目の夜に餅を食べる“三日夜餅みかよのもちい”という儀式がありました。

光源氏が家来の惟光これみつに三日夜餅を用意するようにいうと、惟光は「明日の晩のの子餅はどれくらい作ればよいのでしょうか?」と答えます。

もちろん、子の子餅などありません。

二日目の夜には亥の子餅が用意されたため、三日目の夜に食べる餅(=三日夜餅)を亥の次の干支である“子”の子餅と表現したのです。

惟光ったら、うまいことをいいますねぇ!

の子餅の作り方


では、亥の子餅は、どのように作るのでしょう。

一般家庭で作る場合のレシピをご紹介します。

【準備するもの】

★もち粉(白玉粉)…50g
★グラニュー糖…70g
★水…90ml
粒餡…240g
白ごま…小さじ2
◎きなこ、コーンスターチ、シナモンなど…適量

その他、
・フライパン
・すり鉢
・すりこぎ棒
・ボウル
・ヘラ(ゴムベラ、木べらなど)
・キッチンラップ(サランラップ、クレラップなど)
・電子レンジ
・クッキングシート
・麺棒
・金串

手順
1粒餡を20gずつに分け、細長く丸めて12個の粒餡の塊を作っておきましょう。
2フライパンで白ごまを炒り、すり鉢とすりこぎ棒を使って軽くすり潰してください。
3★の材料をボウルの中に入れ、水を加えながらよく混ぜます。
※この時、水は少しずつ加えるのがポイントです♪
 耳たぶ程度の柔らかさを目指してみてください!
4ラップをかけて、電子レンジ600wで1分間加熱します。
5水に濡らしたヘラで【手順4】を練っていきます。
6【手順4】と【手順5】を繰り返し、透明感が出てきたら求肥ぎゅうひの出来上がりです。
7求肥に【手順2】で作った白ごまを混ぜます。
8台の上にクッキングシートを敷き、◎を広げ、その上に白ごまを混ぜた求肥をのせます。
◎を求肥と麺棒にもまぶしたら、麺棒で求肥を伸ばしていきます。
9伸ばした求肥を12等分し、【手順1】で丸めておいた粒餡を包み、饅頭型にしてください。
この時、饅頭をしっかりと閉じて、閉じ口を馴染ませましょう。
10馴染んだ饅頭をひっくり返したら、ガス火で1分ほど熱した金串で饅頭の上に軽く焼き印をつけて完成です!


平安時代の亥の子餅の材料は?

平安時代の亥の子餅は、新米にその年に収穫した下記の七種の作物の粉を混ぜて作っていたそうです。

1.大豆
2.小豆
3.大角豆ささげ
4.ごま
5.栗
6.柿
7.あめ

なお、大角豆ささげとはサヤインゲンに似たマメ科の一種です。

の子餅の有名店

現在、亥の子餅の作り方は、地域や和菓子店によってさまざまです。

見た目は異なるものの、すべてうり坊に見えてくるのが不思議ですね。

【仙太郎】の亥の子餅(京都府)

仙太郎の亥の子餅は、茹でた小豆をつき混ぜた餅でこし餡を包んだもの。

イノシシを表現するために焼印が施されています。

【京菓匠 甘春堂】の亥の子餅(京都府)

甘春堂の亥の子餅には、うり坊の背中にあるような3本の筋が入っています。

中は粒餡・白餡の二重になっています。

【とらや】の亥の子餅(京都府)

とらやの亥の子餅は、表面にきな粉がまぶしてあるのが特徴です。

鎌倉時代の製法を参考に作られています。

【京菓匠 鶴屋吉信(つるやよしのぶ)】の亥の子餅(京都府)

鶴屋吉信の亥の子餅は、生地に練り込まれた黒ごまが透けて見えますね。

ごまの香ばしさ、こし餡のなめらかさが楽しめます。

【銘菓創庵 むか新】の亥の子餅(大阪府)

銘菓創庵 むか新の亥の子餅は、生地に練り込まれた栗が目を引きます。

中は十勝小豆の粒餡です。

亥の子唄

亥の子の日の夕方から翌朝にかけて、子どもたちが亥の子突きをする地域もあります。

亥の子突きとは、縄をくくりつけた丸石(亥の子石)を持って近所を回り、亥の子餅やお小遣いをもらう行事です。

日本版ハロウィンといったところです。

石ではなく藁を固くしばった藁鉄砲だったり、お菓子などはもらわなかったりする地域もあります。

子どもたちは各家の玄関先で亥の子唄を歌いながら、石を地面に叩きつけます。

これには土地の除霊をし、精霊に力を与えて豊作を祈る意味があるそうです。

の子唄の歌詞

亥の子唄やその歌詞は、地域によってさまざま。

近くの地区なのに、かなり違うことも珍しくないようです。

亥の子唄の歌詞の例


日夜との関係

西日本の亥の子に対し、東日本には十日夜とおかんや(とおかや)があります。

十日夜とは、旧暦10月10日に行われる収穫祭です。

十日夜は田の神様の化身とされる案山子かかしをお祀りするので、“案山子上げ”とも呼ばれます。

十日夜になると、子どもたちは藁鉄砲を持ち、歌いながら地面を叩いて回ります。

地面を叩く理由はモグラを追い払ったり、土地の神様に生気を与えたりするためです。

亥の子突きと似ていますね。

お礼に餅やお菓子をもらえるところも、かなり似ています。

炉開き・こたつ開き

お茶の世界では、亥の子の日に炉開ろびらが行われます。

とは、畳の下に備え付ける小さな囲炉裏いろりのこと。

夏や秋は卓上式の風炉ふろを使うので、炉は使いません。

11月ともなると、肌寒くなります。

そこで、亥の子の日に風炉から炉へと切り替えるのです。

さらに新茶の入った壺の封紙を切り、茶を点てます。

これを、口切くちきり茶事さじといいます。

これらはとても重要な茶事のため、亥の子の日は「茶の湯の正月」や「茶人ちゃじんの正月」とも呼ばれます。

一般家庭でも、亥の子の日には囲炉裏や掘り炬燵ごたつを開く習わしがありました。

古代中国の考え方の一つである五行思想ごぎょうしそうによると、イノシシは水を表します。

そこでイノシシは火を防ぐと考えられ、亥の子の日に火を入れると火事にならないとされていたのです。

おわりに

かなり駆け足になりましたが、亥の子の基礎知識をご紹介しました。

亥の子は日本国民なら全員が知っている、というメジャーな行事ではありません。

出身地の違う人と、地元にはどんな風習があったのか、お互いに話してみると新たな発見があるかもしれませんね!