皆さんは、「風祭り」と呼ばれる行事やお祭りが日本各地にあることをご存じでしょうか?

風祭りは行われる時期や内容が地域によって異なることから、あまり馴染みがないという方も多いかもしれません。

そこでこの記事では、風祭りの目的や行われる時期、どんな神様に対して何をするお祭りなのか?といったことをご紹介します。

もしかしたら、皆さんの住んでいる地域にも風祭りがあるかもしれませんよ!

風祭りとは?

祭りの目的

風祭りとは、一言で言うと風害除けを願う行事です。

現在の生活では「風」を意識することはあまりないかもしれませんが、かつては多くの人が農業や漁業など天候の影響を受けやすい仕事に関わっていました。

そのため、風祭りを行って「仕事や生活を脅かす大風が収まり、また必要な風が上手く吹いてくれるように」と願ったのです。

風祭りの時期は?

では、こうした風祭りがいつ行われているのか、その時期にはどんな意味があるのか見てみましょう。

候の「三大厄日」の頃

旧暦では、秋の台風シーズンに特に注意したい3つの荒天日、八朔・二百十日・二百二十日があり、これをまとめて天候や農業の「三大厄日」と呼びました。

八朔

八朔はっさく」とは“八月朔日さくじつ”の略で、旧暦8月1日のことを指します。

新暦では8月半ば~9月中旬ごろにあたり、年によって何月何日になるかは異なります。

二百十日・二百二十日

「二百十日」、「二百二十日」とは雑節の1つで、春分の日から数えて210日目と220日目を指し、新暦の9月1日前後にあたります。

天候の三大厄日の頃は、ちょうど初穂(その年で初めての稲)が実る時期で、その初穂は自分たちで食べるだけでなく神様に供えたり、普段お世話になっている人に贈ったりする特別な物でした。

初穂が実る=おめでたい時期とも言えますが、万が一この時期に風害に見舞われれば初穂が傷んでしまうので厄日でもあるわけです。

この時期に台風が来てしまうと、せっかく大切に育てた稲も農作物も台無しになってしまいます。


※雑節:二十四節気や五節句以外に季節の移り変わりの節目となる日のこと。日本の風土に合わせて生まれた物であり、主に農作業と照らし合わせた目安となっている。

の他の時期

多くの風祭りは、先ほど紹介したような八朔や二百十日、二百二十日の時期に行われます。

しかし、風祭りを行う時期は明確に決まっているわけではなく、地域ごとにも異なっています。

例えば
・小正月(1月15日)
事八日ことようかである2月8日と12月8日
・遅霜に注意が必要な八十八夜や九十九夜(立春から88日目と99日目)
・盂蘭盆会である7月または8月13~16日
など、風祭りを行う時期はさまざまです。

これらはもともと旧暦での日付ですが、新暦に変わってからも当該日に風祭りを行う地域が多いようです。

伊勢神宮 風日祈祭

有名な所でいうと、伊勢神宮の風日祈祭かざひのみさいでは、稲を植え始める旧暦4月(現在の5月中旬ごろ)に五穀豊穣と風鎮が祈願されています。

日程:5月14日
所在地:(内宮)三重県伊勢市宇治館町1 (外宮)三重県伊勢市豊川町279

千本ゑんま堂引接寺 風祭り

他にも、千本ゑんま堂として知られる京都府・引接寺いんじょうじの風祭りが行われるのは7月。

これは“閻魔堂の開基・小野篁が風となって地獄と現世を行き来した”という伝説にもとづいた祭なので、風害除け祈願の風祭りとは少し趣旨が異なりますね。

日程:7月1日~7月15日
所在地:京都府京都市上京区千本通蘆山寺上ル 閻魔前町34

風祭りの神様とは?

では、風祭りではどのような神様が祀られるのでしょうか?

同じ風の神様でも、名前や特徴はさまざまです。

本神話の神様

級長津彦命しなつひこのみことは、『古事記こじき』や『日本書紀』に登場する風の神様です。

現在、風にまつわる神社の多くでは級長津彦命を祭神としています。

登場する書物によっては、級長津彦命には級長戸辺命しなとべのみことという別名があったり、級長津彦と級長津姫という男女一組の神様だったりという場合もあります。

病神としての風神

神様と言っても、良い神様ばかりではありません。

昔は「風が病を運ぶ」という考え方があったので、風の神は疫病神のような存在とされることもありました。

例えば、江戸時代の職業図鑑である『人倫訓蒙図彙じんりんきんもうずい』を見てみると“風神払かぜのかみばらい”という職業が紹介されています。

これは「風神払の祈祷をする」という口実で太鼓などを打ち鳴らして物乞いを行う人のことで、流行病が猛威を振るった時期によく見られたようです。

これを見ると、流行病の元凶=風の神という認識が町の人々にとって一般的だったことがうかがえます。

江戸だけでなく全国に同じような考え方があり、四国などでは屋外で急な発熱や体調不良に見舞われることを「悪い風にふけた(吹かれた)」と言う地域もあったのだとか。

域の「風の神」

道端の祠など民間で信仰されていた風の神は、その呼び方や姿、残された伝承が地域によってさまざまです。

地域の風の神は、単に「風の神」「風神」と呼ばれるが多いですが、なぜか人名のように「風三郎」「又三郎」と呼ばれる地域もあります。

東北・北陸・山陰を中心に、関東や伊豆の一部でも「三郎」と呼ばれている風の神が見られるので、かなり広い範囲で風の神が人の名前のように呼ばれているようですね。

風祭りではどんなことをするの?

さて、こうした神様に風害除けや風鎮を願うために、各地域ではどのような風祭りが行われてきたのでしょうか?

の神に祈願する

風の神様を祀っている神社や祠に対して、供え物などをして風害除けを願うという方法です。

祈願の際には神道的に祝詞のりとを上げることが多いですが、護摩祈祷ごまきとうのような仏教的な祈願をする地域もあるそうです。

祈願と併せて、その土地で古くからおこなわれてきた獅子舞などの郷土芸能、奉納相撲などを行う地域もあります。

また最近では見られる機会が減っていますが、かつては地域の人が集まって日の出を待つ「お日待ち」や「講」、参加者が大きな数珠を回しながら念仏を唱える「百万遍念仏ひゃくまんべんねんぶつ」と呼ばれる形式の行事も多くの集落で行われていました。

の神を送り出す

先ほど紹介した「風神払」のように、神様を追い払う場合もあります。

多くは、神様にわらで作った人形などの依り代よりしろに移っていただき、集落の境まで丁重に送り出したり川に捨てたりします。

虫害除けを願う「虫送り」などでも似た方法がとられるので、風に限らず悪いことを引き起こす神様に対して有効な方法と考えられていたようです。

の神を閉じ込める

送り出すのとは反対に、風の神様を閉じ込めるという方法もあります。

閉じ込める場所は風神の祠であったり、そこから風が吹くと言われる風穴だったりと地域によってさまざまです。

の力を削ぐ「おまじない」

神社でのお祭りや地域ぐるみの行事だけでなく、家ごとに行う「おまじない」のようなものも、以前は多く行われていたようです。

風切り鎌

風切り鎌とは、長い棒の先に草刈り鎌をくくり付けたものです。

これを屋上や庭の隅に立てることで風の神様を切って力を削ぐとも、神様に風鎮の願いを届けるために鎌を供物や依り代にしているともいわれています。

今では風切り鎌を実際に見られる地域はかなり減っていますが、かつては関東~信越を中心に広い地域で行われていた風習です。

夕顔の実

新潟県など、風除けのおまじないとして夕顔の実を輪切りにしたものを枝に刺して立てたという地域があります。

立てる場所は田んぼの四隅や水口(田んぼに水を引き入れる入り口)、村の境などです。

なぜタ顔なのかは分かっていませんが、新潟県以外では同じような場所に風除けのお札を立てる地域があります。

各地の有名な風祭り

愛知県】菟足神社の風まつり

愛知県豊川市にある菟足うたり神社では、4月に風祭りが行われます。

御祭神である菟上足尼命うなかみすくねのみことは風の神様というわけではありませんが、この地に国造くにのみやつことして着任する際に「嵐にもかかわらず無事に船旅を終えて到着した」ということで風に霊験があるとされました。

菟足神社の風祭りは、平安時代の有名な説話集『今昔物語集こんじゃくものがたりしゅう』にも記されている歴史ある神事です。

祭礼の当日には雀射初すずめいそめをはじめとする神事が行われるほか、郷土芸能である獅子舞や笹踊りの奉納、迫力ある山車だしや手筒花火も見どころです。

風祭りで販売されている風車もかわいいので、菟足神社の風祭りを訪れた際にはぜひ買ってみてはいかがでしょうか?

日程:毎年4月の第2土・日曜
所在地:愛知県豊川市小坂井町宮脇2−1

熊本県】阿蘇神社の風祭り

熊本県阿蘇市一の宮町では、阿蘇神社の神職により旧暦の4月4日と7月4日に風祭りが行われます。

この風祭りは山中にある風穴に、悪い風の神を封じ込めるという古式ゆかしい神事です。

当日は、宮地地区の風宮神社かざみやじんじゃで神事を行った後に、御幣ごへいを持った2人の神職が別々の経路を通って風の神を追い立てていきます。

次の神事を行う手野地区の風宮神社で合流するまで、およそ4kmも歩き続けるそうですよ。

日程:旧暦4月4日、7月4日
所在地:熊本県阿蘇市一の宮町宮地3083-1

富山県】越中八尾のおわら風の盆

おわら風の盆は、富山県富山市の八尾で行われる風祭りです。

富山県は局地風が非常に強く、級長戸辺しなとべ神社や不吹堂ふかんどうなど風鎮を願う神社やお堂が多く存在します。

おわら風の盆も、その名前から「風鎮」や「盆」の要素を含んだ祭りと考えられていますが、名前の由来ははっきりとは分かっていません。

日本の民謡には珍しく伴奏に胡弓こきゅうが使われており、独特の哀切に満ちた旋律が響きます。

その音の中で、笠を目深にかぶり明け方まで踊る姿は非常に幻想的です。

日程:毎年9月1日~3日
所在地:富山県富山市八尾地区

情報は変更となる場合がございます。詳細は、公式サイトをご確認ください。

おわりに

日本各地に残る風神信仰の行事・風祭りについてご紹介しました。

「今まで風祭りなんて聞いたことが無かった!」という方も多いかもしれませんが、今回紹介したものの他にも日本各地にはたくさんの風祭りがあります。

風祭りは主役になる神様や祈願の方法が土地ごとに違うので、そうした違いを知るのも面白いかもしれませんね。

この記事が、風祭りに興味を持ったり、実際に訪れたりするきっかけになったら嬉しいです。