みなさんは、「地蔵盆じぞうぼん」という行事をご存知でしょうか?

地蔵盆とは、主に京都を中心とした近畿地方で行われている子供が主役のお盆です。

京都では“京都をつなぐ無形文化遺産”に選ばれていますが、地蔵盆は関西以外ではあまり知られていないのが現状です。

この記事では、地蔵盆とは何をする日なのか、地蔵盆の意味や歴史、いつ頃どのように行われているのかをまとめました。

地域の結びつきを深める、子供のための素敵な地蔵盆を知っていただければ幸いです。

「地蔵盆」とは

地蔵盆じぞうぼん」とは、子供の健康や幸せを願うと同時に、日頃の地域の平和をお地蔵さんに感謝するお盆の行事です。

地蔵盆はお寺で行われることもありますが、道端や町角にお祀りされている“辻地蔵”と呼ばれるお地蔵さんのある地域の子供会や町内会・自治会が主体となって行われます。

なお、京都では地蔵盆を「京の地蔵盆」として“京都をつなぐ無形文化遺産”に選定し、世代を超えて地域の結びつきを深める行事として大切にしています。

蔵とは地蔵菩薩のこと

地蔵盆でお祀りされる“地蔵”とは「地蔵菩薩」のことを指します。

地蔵菩薩とは、お釈迦様が入滅してから、次の仏となる弥勒みろく菩薩が現れるまでの無仏時代に苦しむ人々を救済するようにと、お釈迦様から委ねられた菩薩様のことです。

親よりも先に亡くなった子供は、さいの河原で苦行を積むことで知られていますが、地蔵菩薩は賽の河原にいる子供を救済するとも言われているため、子供を救う仏様ともされています。


※賽の河原:三途の川の手前にある河原のこと。

地蔵菩薩は閻魔大王の化身!?

閻魔大王は裁判官として死者を裁く一方で、地獄では地蔵菩薩として死者の身代わりとなり、地獄の炎に焼かれていました。

平安時代の高官であった小野篁おののたかむらは、地獄と現世を行き来し、実際にその様子を見て、お地蔵様をお祀りするようになったと言われています。

なお、小野篁が地獄と現世を行き来したとされる井戸は、今でも京都の六道珍皇寺の庭に残されています。

蔵盆の意味

地蔵盆は子供の健やかな成長を願うことが第一にあり、地域の多くの子供が集まって行われるため、子供が主役の行事と言えます。

同時に、日頃の地域の安全にも感謝し、準備では地域の大人と子供が交流するという、地域交流を深める側面も担っているのです。

蔵盆はいつ?

では、地蔵盆はいつ行われるのでしょうか?

近年の地蔵盆は、7月24日前後と8月24日前後に行う場所とがありますが、8月に行う地域がほとんどです。

縁日はそのうちの1日~2日で行われます。

地蔵盆は本来、旧暦の7月24日を中心とした3日間を指します。

毎月24日が地蔵菩薩のご縁日なのですが、旧暦のお盆である“盂蘭盆うらぼん”と近い7月24日前後(新暦の8月下旬~9月上旬)の期間を“地蔵盆”と呼ぶようになりました。

蔵盆が盛んな地域

地蔵盆の発祥地とも言われ、現在でも最も盛んに行われているのが京都です。

京都以外では近畿地方を中心に行われていますが、長野県や長崎県など、京都から離れた県でも地蔵盆を行う地域があります。

しかし、関東から北の地域ではほとんど行われていません。

関東や東北では稲荷信仰があり、地蔵信仰が浸透しなかったことや、関東でお地蔵さんが作られたのが江戸時代以降で遅かったことなどが、地蔵盆が広まらなかった理由だと考えられています。

地蔵盆の歴史

地蔵盆は、小野篁が平安時代に地蔵菩薩をお祀りしたことがきっかけとなり、室町時代には京都で大流行したと言われていますが、起源ははっきりしていません。

ただ、江戸時代の記録はたくさん残っています。

江戸時代には現在行われているような数珠回しや福引などが既に行われ、“地蔵祭”という名で盛んに開催されていたのですが、明治初期の廃仏毀釈によって一度衰退しています。

これは、町角のお地蔵さんを撤去するように命令が出されたためです。

しかしお地蔵さんは撤去されず、山に埋めたり、川に沈めたりして隠されていたため、明治の終わりには元の場所へ戻され、地蔵盆も復活しました。

都市の無形文化遺産に選定

最初にご紹介した通り、地蔵盆は「京都をつなぐ無形文化遺産」に選定されています。

「京都をつなぐ無形文化遺産」は京都市独自の制度で、京都に伝わる文化を引き継いでいくために、平成25年(2013年)に創設されました。

現在は6件の登録がありますが、地蔵盆は“京の食文化”・“京・花街文化”に次いで3件目、平成26年(2014年)11月に登録されました。

きものや京菓子よりも先に登録された地蔵盆は、京都において重要な行事であることがわかりますね。

在の地蔵盆

少子化が進んだ現在、地蔵盆は縮小傾向にあり、縁日は1日で済ませる地域が増えています。

また、平日の準備が大変なこともあり、7月24日もしくは8月24日に近い土日で行う地域も増えました。

子供がいない地区では、年配者だけで地蔵盆を行っていることもあります。

主に神戸では、自転車に乗った子供たちが何件かの地区を回る風習があり、SNSやメールでお友達と情報交換をする子供もいるなど、とても現代的に進化しています。

地蔵盆で行われること

地蔵盆では何が行われるのか、ここでは事前の準備と当日の催事に分けてご紹介します。

準備は主に大人が行うのですが、子供も可能な限り参加することで、世代を超えた交流を図っています。

お地蔵さんのお清め・お化粧

地蔵盆が近づくと、祠などからお地蔵さんを出してきれいにお清めします。

お清めの後は、お化粧(新たに彩色したりお顔を白く塗ったりすること)をして、新調した前掛けをつけます。

飾り付け・お供え

地蔵盆の会場の周辺は、行燈や提灯などで飾られます。

お供えは地域の人から集めたり、子供会や町内会・自治会で準備したりします。

お供えの花は、見た目が提灯に似ていることから、ほおずきが使われることが多いです。

珠回し(数珠繰り)


数珠回し、または数珠繰りは、子供たちの無病息災を祈願する儀式です。

長い数珠の周りに輪を作り、お坊さんの読経に合わせて数珠を回すのですが、大きな珠が自分の目の前にきたら、一礼するのが作法です。

直径2~3mの数珠を使う地域が多いですが、5mもの数珠を回す地域もあります。

老若男女、誰でも参加できることが多いのですが、子供のみで行うこともあります。

最近では子供の数が減って、数珠回しができない地域、子供がいても数珠回しを省略する地域もあります。

さがり・お接待

お菓子配り

お地蔵さんにお供えしたお菓子などの供物は、地域の子供たちへ分けられます。

子供たちに分けられるお菓子を「おさがり」や「お接待」と呼びます。

おさがりをもらったら、お地蔵さんの前で食べたり、そのままお地蔵さんの前で遊んだりして、地蔵盆の一日を地域のみんなで楽しく過ごすのです。

地域によっては、お菓子以外に手料理が振舞われることもあります。

福引・ゲーム

地蔵盆では「ふごおろし」という形式での福引がよく行われていました。

「ふご」とは「かご」のことです。

福引の景品をかごに入れ、高い場所から吊り下ろして渡すのですが、現在はふごおろしはせず、景品を手渡しすることが多いようです。

福引以外にもビンゴなどのゲーム大会が行われたり、夜は花火をしたりと、地域によってさまざまな楽しいイベントが準備されています。

地蔵盆と一緒に盆踊りを開催したり、山車を出したりと、盛大なお祭りを行う地域もあります。

おわりに

地蔵盆は、子供が健康で元気に育つようにお祈りするとともに、子供と地域を守ってくれるお地蔵さんに感謝を伝える日でもあります。

地域の結びつきが弱くなっている現在、地蔵盆によって世代を超えた人々が繋がりをもてることは、とても素敵なことです。

縁日の日程が縮小されても、地蔵盆は末永く続いて欲しいですね。