岐阜県の特産品である美濃和紙や竹を使い、江戸時代から作り続けられてきた「岐阜提灯」。

お盆にご先祖様を迎えるために欠かせない道具の一つです。

繊細で上品な流線形の形や美しい絵付けが特徴で、平成7年(1995年)には国の伝統的工芸品に認定されました。

この記事では、岐阜提灯とは何か、その歴史や魅力、製造工程と現代における需要についてご紹介します。

岐阜提灯とは

岐阜提灯とは、岐阜県岐阜市で生産される伝統的工芸品の提灯です。

岐阜提灯は主にお盆で飾られる提灯で、吊り下げ式の「御所提灯」と据え置き式の「大内行灯おおうちあんどん」の2つの形があります。

形は卵型か丸型で、木地や和紙の部分に美しい花や鳥などの絵付けが施されています。

また、岐阜県は提灯の出荷額全国1位! ※平成29年(2017年)における順位

近年では従来の利用法だけでなく、和モダンなインテリアとして、国内外から注目を浴びています。

岐阜提灯の歴史

岐阜提灯の起源は所説ありますが、明治18年(1885年)に出版された長瀬寛二著「岐阜志略ぎふしりゃく」には、土岐成瀬の時に起こったとあり、徳川三代将軍・家光の時に初めて幕府に献じたと記されています。

しかし、これはあくまで伝承であり、詳細は分かっていません。

江戸時代中期には幕府への献上品であったことや、現在の岐阜提灯に近いものが出回っていることから、約300年前には岐阜提灯があったと考えられます。

戸時代の岐阜提灯

誕生した当初は無地の提灯が作られていましたが、江戸時代末期になると火袋に美しい絵付けが施された岐阜提灯が作られるようになりました。

この時の岐阜提灯は、幕府の献上品や一部の富裕層が祭事やお盆の際に飾る高級品であり、庶民が手にすることはありませんでした。

治時代の岐阜提灯

明治維新後、高級品ゆえに広く出回っていなかった岐阜提灯は、衰退の一途をたどります。

しかし、明治11年(1878年)に明治天皇の岐阜行幸ぎょうこうの折り、岐阜提灯の生産者・勅使河原直次郎てしがわらなおじろうが岐阜提灯を献上したことで注目を浴びました。

阜提灯が国の伝統工芸品に

明治時代以降、再び勢いを取り戻した岐阜提灯の生産者たちは、昭和24年(1949年)に岐阜提灯振興会を設立し、平成5年(1993年)には法人化して岐阜提灯共同組合を設立しました。

平成7年(1995年)には、岐阜提灯の歴史と伝統的な製法が認められ、国の伝統的工芸品に指定されました。

岐阜提灯の魅力

阜提灯の流線美

岐阜提灯の魅力の一つは、細い竹ひごで作られた卵型や丸型の、流れるように滑らかな美しい形です。

張師といわれる伝統工芸士が、張り型に細い竹ひごを巻き付け、この美しい流線形を作り出します。

しなやかに流れるような形は、岐阜の美しい清流を思わせます。

雅な絵付け

美濃和紙を使った火袋ひぶくろに、風雅な花や鳥などの絵が描かれている点も魅力の一つと言えます。

細くしなやかで、繊細で上品な絵付けは、やさしい女性を思わせるような芸術品です。

※行灯や提灯の、紙で覆われている部分。

濃和紙の温かみある灯

岐阜提灯には、岐阜県美濃地方の特産品である美濃和紙を使います。

美濃和紙を限界まで薄くすることで、繊細でやわらかな温かみを表現します。

亡くなられた方に思いを馳せる人の心のような、優しく温かい灯りです。

岐阜提灯の種類

岐阜提灯はさまざまな形やデザインのものが作られていますが、大きく分けると吊り下げ式の提灯と据え置き式の大内行灯の2種類です。

それぞれの特徴は以下の通りです。

り下げ提灯

吊り下げ提灯とは、その名の通り上から吊るすタイプの提灯で、その中でさらに卵型をした御所提灯や丸型の御殿丸提灯、円柱型の住吉提灯、切子提灯といった形で分けられます。

もともと御所への献上品の提灯に美濃和紙を使用していたことから、御所提灯のことを「岐阜提灯」と呼ぶこともあります。

岐阜の古い町並みを歩いていると、店先に吊るしてある御所提灯を目にします。

内行灯

3本足のある据え置き式の提灯を「大内行灯」と呼びます。

仏間の左右に対に置くのが一般的ですが、決まりはありません。

最近では、足が木製でなくプラスチック製のものや、電気で回転する新しいデザインの大内行灯も作られています。

の他の岐阜提灯

上記で紹介した2種類のほか、火袋部分に家紋が入った提灯や創作提灯と呼ばれるモダンなデザインの岐阜提灯も作られています。

岐阜提灯ができるまで

岐阜提灯の材料は、主に和紙と竹で、すべて岐阜県美濃地方のものを使用しています。

岐阜提灯の他、岐阜県の特産品として水うちわや岐阜和傘があるのも納得ですね。

阜提灯の制作工程

岐阜提灯の作業工程は非常に多く、この多くの工程を踏むことで、古くから連綿と続く伝統の技術が守られています。

①摺込

「摺込師」といわれる伝統工芸士が、使用する和紙にミョウバンを溶かした水ににかわを入れて煮た“ドウサ”と呼ばれる液体を塗ります。

ドウサを塗ることで和紙が丈夫になり、この後の摺込すりこみや絵付けの際に、絵具がにじまない効果も生まれます。

ドウサが乾いたら、火袋部分となる和紙に装飾を施していきます。

「伊勢型紙」という伝統的な型紙作りから、すべて摺込師自身が行います。

刷毛を使い、一枚一枚に色を重ねていきます。

②口輪・手板作り

提灯の上下にある口輪の部分と、吊り下げるときに使う手板ていた、大内行灯に使われる3つの脚の部分を木地師が作ります。

③木地の装飾

口輪や手板、脚が完成したら、それぞれの部品に漆で金粉を定着させる“蒔絵”や、胡粉を重ねて絵を立体的に見せる“盛り上げ”と呼ばれる装飾を施していきます。

盛り上げに使われる胡粉とは、白色顔料の一つで貝殻から作られる炭酸カルシウムで、胡粉ににかわと水をいれて煮たものを使います。

花びらを何枚も重ねるように描くため、胡粉が乾くまで待つ必要があり、仕上げるのに5日以上かかる場合もあります。

④型組、ひご巻き

張型と呼ばれる型は、6枚、8枚、10枚と提灯の形によって枚数が異なります。

張型をコマと呼ばれる押さえを上下に使って固定し、張型につけられた細い溝に竹ひごを螺旋らせん状に巻いていき、最後に上下にも竹ひごをかけ、提灯の骨となる部分を作っていきます。

⑤張り付け

張りは、「張師」が行う工程です。

竹ひごで作られた骨の全体に糊を薄く刷毛はけでぬった後、無地の和紙、もしくは摺込された和紙を張り付けていきます。

全体に和紙を張り付けたら、乾いた刷毛を使って骨の一本一本に和紙が密着するよう、優しく表面を撫でます。

⑥継ぎ目切り

張り付けをしたら、カミソリを使って和紙同士が重なった余分な部分を切り落としていきます。

見た目を美しく丈夫に仕上げるため、継ぎ目が目立たないよう、繊細な技術が必要とされます。

⑦絵付

最後に、提灯の模様を一筆一筆下書きせずに描き足していきます。

絵付けは、「絵師」が火袋部分に装飾を施します。

同じ提灯を10個ほど並べ、同じ図柄になるように仕上げていきます。

竹ひごや紙の重なり部分の凹凸、曲面に描く作業は加減が難しく、高度な技術が必要とされます。

⑦仕上げ

口輪や手板を取りつけ、必要に応じて房をつけたら岐阜提灯の完成です!

現代における岐阜提灯

岐阜提灯は、定番のお盆で使用するものから、現代の生活様式に取り入れやすいデザインのものまで、そのバリエーションはさまざま!

盆の定番品から和モダンまで、多彩なデザイン!

昔は照明としての役割を持っていた提灯。

現代で提灯といえば、お盆やお祭りを思い浮かべる方も多いでしょう。

しかし、最近では和と洋をミックスした「和モダン」のインテリアとしても人気です!

岐阜提灯も、形や用途など私たちの生活に調和するものに変化しています。

また、もちろんお盆にご先祖様を迎えるための提灯としても活躍を続けています。

外でも人気!お土産にぴったりな岐阜提灯

海外の方には、提灯やうちわ、和傘などは「THEニッポン」を感じることのできるお土産として人気があります。

その中でも岐阜提灯は、繊細で美しい見た目から、外国の方へのお土産にピッタリ♪

また、ベルギーのリエージュ万国博覧会、フランスの美術工芸品博覧会において金賞を受賞するなど、海外でも岐阜提灯は高く評価されています。

おわりに

今回は、江戸時代から続く岐阜提灯の魅力や特徴、作り方をご紹介しました。

古くから受け継がれてきた岐阜提灯の技法は、現代でも私たちに上品でやわらかな温かみを伝えてくれます。

お盆にご先祖様をお迎えする提灯としてはもちろん、和モダンなインテリアとしても注目されている岐阜提灯を、ぜひ生活に取り入れてみてはいかがでしょうか?