株式会社家’s(イエス)は、富山県で古民家を利用した宿泊事業と、箪笥など古家具の再生事業をおこなっている会社だ。
そんな会社の代表を務めるのが、伊藤昌徳氏。
「何事もまずは打席に立ってみる」
まずはなんでもやってみる、頼まれごとは「はい」か「イエス」でやります。
前のめりで事業をやっていきたいという思いから家’s=イエスという名前で会社を立ち上げたという。
また、”古民家に人が集まってくる”という意味も込められているそうだ。
なぜ地方創生ビジネスをしようと思ったのか
出身は北海道。
もともと地域のために何かできないか模索していたという伊藤氏は、とあるきっかけを機に会社を退職。
すぐに富山県へと移住を決断した。
「知り合いの紹介で、富山の古民家と出会いました。何かここでやってみたい。そんな感情が湧き出てきましたね」
空き家になっていた古民家を、貸してもらう形でスタート。
最初はプログラミングの学校やレストランとして使うことも考えたが、最終的にたどり着いたのは、古民家を改装した宿泊事業だった。
「おもしろいことをしたい。0を1にしたい」
そんな想いから、宿を通して地域の活性化を計ることになったという。
Samurai’s houseのサービスを開始
S amurai’s houseとは?
築100年の古民家を宿泊所としてリノベーションするにあたり目をつけたのは日本の箪笥。
昔は嫁入り道具としても重宝されてきた箪笥であるが、今やその保管に困っている人も少なくないのだと言う。
「思い入れのある箪笥だからなかなか捨てる訳にもいかない」
そういった方々の気持ちに答えるべく、伊藤氏は動き出した。
”箪笥の価値を現代の価値に変換していく”
デザイナーやアーティスト、職人とともに箪笥に手を加え、新たな命を吹き込んでいく姿は、まさにその言葉を体現している。
家具職人、椅子職人、ドライフラワー作家、画家…
それぞれのクリエイターと力を合わせ、生まれ変わった箪笥が光る宿泊空間。
それがSamurai’s houseである。
インバウンド向けということで、世界各国からの訪れる観光客の利用も多い。
ときには一緒に食事を楽しみ、富山の街を紹介することもあるという。
もちろん、国内旅行者にも多く愛されている。
「日本人には、おばあちゃん家に泊まりに来ているような、そんなあたたかい空間になったら良いなと思います」
平屋の一軒家なので、小さいお子さんがいる家族連れにも人気があるそうだ。
今後は宿だけにとどまらず、展示場や制作場所に変えていくことも検討しているという。
一日一組限定(1泊1人5000円、最大4人まで)のゆっくり、のんびり過ごすことができる古民家宿。
大切な人と訪れるのも良し、1人の時間をゆったり楽しむのも良し。
オンリーワンの箪笥に囲まれながら、日本の古き良き伝統に触れられる空間は心も身体も癒してくれるだろう。
古家具の再生事業を開始
その後、リメイクした箪笥をレンタル・販売する「kominca antique」を展開。
箪笥を分解すれば、椅子やテーブルにリメイクしたり、表面を壁材として使ったりすることができるという。
収納として、インテリアとして。
さまざまなシーンで存在感を示す「kominca antique」の箪笥は個人、そして飲食店やホテルなどの店舗からも大変人気を得ている状態だ。
洋風な部屋に和風の箪笥は、合わないように感じるかもしれないが、意外にもマッチするのだとか。
逆に、和室に箪笥を置く方がその場に溶け込みすぎて箪笥の良さやインパクトが出ないのだという。
それを理解して、購入やレンタルをしてくれる方も増えてきているそうだ。
伊藤昌徳×kominca antique
株 式会社家’sを立ち上げた経緯
プロスノーボーダーを目指し大学生活を過ごしている中で、海外でのビジネスに興味が移り、ワーキングホリデーでオーストラリアに行くことにしました。
人とは違う仕事や体験がしたいと思っていまして、インド人からの紹介で働くことになったのが「完全成果報酬型」の仕事でした。
仕事の内容は、車用のスプレーを2000円で会社から仕入れて4000円で売るんです。
異国の地での営業活動はとても大変でしたが、とても良い経験になりました。
帰国後、自分でビジネスをしたいと起業を試みましたが失敗に終わってしまいました。
この経験から自分でビジネスをする前に知識や経験を身に付ける必要を感じ、一旦就職活動をすることにしました。
そして、ベンチャー企業の幹部採用の支援をする株式会社BNGパートナーズに入社しました。
そこで、年間数百名の経営者に会い、さまざまなビジネスモデルを体感しつつ、役員として同社組織の成長を経験することができました。
その後、独立を決意し会社を退職。
2017年9月に富山県へ移住し、株式会社家’sを立ち上げました。
北海道の田舎出身ということもあって、いつかは地方創生に関わる事業したいと考えていたんです。
地元を選ばなかったのは、実家もあるし知人も多いので甘えが出てしまう可能性があると思ったから。
心機一転、まったく知らない土地での起業に挑戦することにしました。
な ぜ富山県高岡市で起業したのか
これは本当に、たまたまご縁があったからです。
知人が活動していたのが富山で、そこではじめて古民家との出会いがありました。
実際に事業をはじめてみると、富山県の高岡市には職人さんが多いことを実感しましたね。
k ominca antiqueを始めた経緯
たまたま近所の家を訪ねた際に、箪笥が”邪魔な物”として扱われているのを目にしました。
最近は住宅事情も変化し、ウォークインクローゼットなどが主流です。
そうなると、あまり箪笥に価値を見いだす機会が少ないんですよね。
昔は値段も高い上に、嫁入り道具の伝統的な家具であったのに、この現状はとても勿体ないことだと感じました。
そこで、見せ方を変えれば新たな価値になるのではないか。
そう思ったのが、箪笥のリメイクをはじめるきっかけとなりました。
k ominca antique”についての詳細
箪笥については、個人の家から無料でいただく場合もありますし、有料で譲ってもらうこともあります。
メインは箪笥ですが、壷や木彫りも引き取って欲しいと言われることもありますね。
材料が揃ったら、加工を開始。
家具というよりは、アート作品に近い形にしていくことが多いです。
箪笥は和室にあるのが日本人の一般的なイメージかと思います。
でも、それをコンクリートの中に置いてみれば雰囲気がガラッと変わりますよね。
そんな風に、箪笥=和室に置くという固定概念を覆していきたいなとも思っています。
今 後の展望
現代における箪笥の価値を上げていくこと。
そして宿泊の棟も増やしながら、この街に人が来るようなシステムをつくっていきたいなと思っています。
また、いずれは海外にも作品を持っていこうと思っています。
海外での個展やブランドとのコラボもできたらいいですね。
古家具のリメイク工程
手 順1:箪笥をばらして一枚の板にする
手 順2:その板を重ね合わせある程度の厚みのある木材にする
手 順3:厚みある木材を積み木の形(四角形)にカットしていく
伊藤昌徳×kominca antiqueのQ&A
や りがいを感じる瞬間はどんな時でしょうか?
「良い出口を必ず見つけてあげたい」そう思って箪笥の引き取りをしていますから、リメイクをしてさらに価値が増したときにはやりがいを感じられます。
最 も苦労したことは何ですか?
特に思いつかないので、苦労を苦労と思っていないのかもしれません(笑)。
お 客さんに言われて心に残っている言葉は?
箪笥を引き取る際の「ありがとう」という言葉は、身が引き締まります。
その後リメイクして生まれ変わった状態を見てもらい「こんな風になるんだ!」と言ってもらえたときは、やっぱりとてもうれしいですね。
こ の仕事をやっていて忘れられない体験は?
民泊にはじめて外国の方が来てくれたときの思い出はやはり印象的ですね。
「ちゃんと届いているんだ!」とうれしい気持ちになりました。
職 人さんと仕事をする上で感じることはありますか?
デザインをお渡ししてお願いすることもあれば、箪笥を渡して「何か作ってくれない?」という形でお願いをすることもあります。
自分の力だけではできないことがたくさんあるので、そういう意味ではとても感謝しています。
伊藤昌徳氏の略歴
北海道出身。
2011年9月より株式会社BNGパートナーズにて、IT・インターネット業界におけるヘッドハンティング業務を行う。
2017年8月に同社を退社し、株式会社家’sを創業。
インバウンド向けの宿泊事業と古家具の再生事業を行う。
2019年7月10日〜12日 11:00〜23:00
TOOTH TOOTH恵比寿店にて
箪笥とアーティストをコラボした作品を多数展示予定。