日本の伝統工芸品は、職人たちにより古くから守られてきた、世界に誇る素晴らしい技術によって作られています。

しかし、近年その技術を継承する後継者も少なくなり、工房の数も年々減る一方です。

そんな伝統の技術を後世に残すべく、伝統産業支援プログラムを立ち上げたのが、「特定非営利活動法人DENTO」です。

今回、ワゴコロ編集部は、そんなDENTOの広報発表会に参加。

この記事では、DENTOの設立目的や、支援プログラムの詳細をご紹介します!

株式会社DENTOとは?


株式会社DENTOは、アブラハム・ルガシ(株式会社日本の窓代表)、齋藤峰明(元エルメスパリ本社副社長・シーナリーインターナショナル代表)、西堀耕太郎(株式会社日吉屋・株式会社TCI研究所代表)の3人によって設立された会社です。

日本の伝統的な才能や技術を世界の人々に伝えることで、少しでも多くの技術を未来に残すことをビジョンとして活動しています。

D ENTO 伝燈とは?

「DENTO 伝燈」は、株式会社DENTOが展開する事業の一つです。

海外の富裕層に属する観光客に対し誘致を行い、伝統工芸を体験できる特別なツアーを提供しています。

旅行者が職人の仕事を直接目にし、話を聞くことで、日本の伝統文化を世界に広めることができるだけでなく、旅を通じて発生した商品や旅行代金を職人が受け取ることで、今後も彼らが活動を続けていくための支援の一環になるよう働きかけています。

その他にも、“伝統は革新の連続”というポリシーに基づき、日本の職人を海外のデザイナーに紹介し、新たな形の工芸品を生み出す取り組みにも参画。

このコラボレーションにより、現代の人でも馴染みやすい革新的な工芸品が誕生しているそうです。


伝統工芸支援プログラムとは?

伝統工芸支援プログラムは、特定非営利活動法人DENTOが日本の伝統工芸の担い手を支援するために実施するプログラムです。

今回は第1弾として、3つの支援プログラムが用意されています。

ここからは、各プログラムについて、詳細をご案内していきます。

手職人支援(弟子育成)プログラム

「若手職人支援(弟子育成)プログラム」は、次世代の職人を受け入れて継承していきたい法人・個人・団体を対象とした支援プログラムです。

弟子育成にかかる費用の一部を、DENTOが負担します。

支援金額月額上限15万円×最長1年(12か月)
=最大180万円
申請方法申請書類をダウンロードし記入の上、
下記資料とともにメール送付

・実際に制作活動をしている状況がわかる写真
・継承してきた伝統工芸の参考資料・掲載記事やパンフレット等
宛先[email protected]
応募期間令和5年(2024年)5月8日~6月30日

その他、詳細については下記資料をご確認ください。

D ENTOアワーズ

「DENTOアワーズ」は、“伝統は革新の連続”のモットーから、革新的な伝統工芸の作品やアイデアを表彰し、支援金を寄付するプログラムです。

伝統工芸品には、番傘が魔除けとして使われていた過去があるなど、同じ商品でも時代によって用途や形態が違うものが多く存在しています。

現代においても、今の時代のお客様に手に取ってもらうため、“使える”工芸品への改革が必要です。

本プログラムでは、そんな改革をテーマに、2種類のアワードが用意されています。

アワード①(商品・作品)

「アワード①(商品・作品)」は、伝統工芸に携わる法人・個人・団体によって作られた“次世代の工芸”にふさわしい商品・作品を表彰する支援プログラムです。

支援金額■一般工芸品部門(工芸種別の制限無し)
30万円×1件

■京都の伝統的工芸品部門(市指定の伝統産業74品目に限る)
30万円×1件
支援条件・申請者⾃⾝が制作した商品・作品である
・伝統的な技法を⽤いながら、⾰新的な取り組みに挑戦し、
 次世代の⼯芸品として相応しい商品・作品である
・第三者の知的財産権等を侵害する商品、作品ではない
申請方法Google formに必要事項を記入
応募期間令和5年(2024年)5月8日~6月30日

その他、詳細については下記資料をご確認ください。

アワード②(新商品アイデア)

「アワード②(新商品アイデア)」は、伝統工芸に携わる法人・個人・団体によって考えられた、新商品のアイデアを表彰するプログラムです。

支援金額30万円×1件
※新商品開発に対する追加支援も検討
支援条件・申請者⾃⾝が制作する事が可能
・伝統的な技法を⽤いながら、⾰新的な取り組みに挑戦し、次世代の⼯芸品として相応しいアイデアである
・第三者の知的財産権等を侵害する商品、作品ではない
申請方法Google formに必要事項を記入
応募期間令和5年(2024年)5月8日~6月30日

別支援プログラム 能登半島地震被災伝統工芸団体に対する支援

「特別支援プログラム」は、令和6年(2024年)の能登半島地震で被災された、伝統工芸品産地組合や団体を支援するプログラムです。

応募制ではなく、DENTOの選定による支援となります。

支援金額総額200万程度
申請方法DENTOにより選定。応募不可

DENTO 伝燈にかける想い

(理事:アブラハム・ルガシ)

なぜ日本の伝統文化や伝統工芸品が外国人にとって魅力的なのか、お話をしたいと思います。

日本人は、山を数える時、“座”という単位を使います。

“山には神様が座っている”から、だそうです。

これを聞くと、座という数え方を知らなかった人でも、日本人なら「あ~、なるほどね」。

そう言って納得します。

しかし、他の国では、この心の感覚は持っていない。

どんなに綺麗な山を見ても、そこに神様が座っているなんてことは思いません。

日本人だけが潜在的に持っている心の感覚。

日本の職人と世界の職人の違いはそこにあると思っています。

例えば、酒を造る職人は、美味しい米や水など、豊富な材料や環境に感謝をしながら製品を作っています。

他の職人も同じです。

八百万やおよろずの神様から頂いたもの、自然がくれたものに感謝しながら、すごく細かいところにまでこだわって一つひとつ作品を作りあげているんです。

もう一つ、日本の工芸品が魅力的であると思う理由は、日本の工芸品は“日常の芸術”であるという点です。

海外では、芸術と日常はある意味別の物として捉えられています。

芸術に触れようと思った時には、美術館に足を運んで、大事に保管されているものを見て帰ってきます。

しかし、日本の芸術はあくまで“日常の中で使うもの”なんです。

家で毎日使って日常を豊かにする、そんな日本の文化はとても素晴らしい。

現代は、なんでも携帯電話で済ませることができて、人と人との交流関係が薄れてきているように感じます。

日本の工芸品には、買った時の思い出や職人の想いなど、さまざまな背景があって、人との繋がりを作る可能性が込められていると思います。

工芸品を通して、世界中に感動を与える、お金で買えない心の動く体験を提供したい、というのが僕の想いです。

(理事:齋藤 峰明)

日本の流通機構を辿ってみると、基本的には職人が作り、問屋が買取り、販売店に卸す、という大体の流れが出来上がっているところがほとんどです。

ただ現代においては、この体制がマイナスに働いている部分もあると感じています。

この体制を取っていることで、実際に商品を作っている職人さん自身は市場から分断され、社会が何を求めているのかわかりづらい状況にあります。

こういった現状に対して、我々は、職人と消費者を直接結び付ける、ということが大事だと考えています。

一つひとつ手作りで作っている伝統的な工芸品というものは、その分値段も高いものです。

“付加価値の高い”ものを高い値段で売ろうとしたときに、どうすれば良いのか。

そこで目を向けたのが、インバウンド事業でした。

海外の方に直接話を聞いてもらい、工芸品を購入してもらい、消費者の欲しいものを直接聞けるシステムを作ってみよう。

“旅行に来る”という経験にプラスで、自分が消費をすることが“社会貢献にもなっている”という考えを持ってもらうことで、海外からの観光客にとってさらに貴重な経験を提供できると考えています。

こういった視点で、職人の後継問題を後押ししつつ、日本の素晴らしい文化を多くの方に知っていただく手助けができたらと思います。

広報発表会を終えて

日本の伝統工芸と切っても切れない後継者問題。

古き良き伝統を残していくことは、容易ではありません。

アブラハム氏のお話しの中で、「この世界の続きを作りたい」という言葉を聞き、強く衝撃を受けました。

これからも当たり前に続いていくと思っていた日本の文化は、今、失われつつあるのです。

伝統文化メディアを運営する身として、日本の伝統の担い手を増やしていくため、少しでも日本の文化を残そうという気持ちと、常識にとらわれない広い視点で奮闘していく人々が増え、この活動が広がっていくことを願っています。

特定非営利活動法人 DENTO理事の略歴

ブラハム・ルガシ(株式会社日本の窓代表)

1964年イスラエル生まれ。
1989年日本初来日、1年半滞在する。
1994年エルサレム・ヘブライ大学東アジア人類学卒業後、イスラエル大手旅行代理店で上級公認ガイドとして、シルクロードを含むアジア全域での旅行事業に関わる。
1995年再来日、以降日本に居を構える。
2005年「日本の窓  Windows To Japan」社を京都で設立。
現在では体験観光(イマージュン旅行)のトップ企業として知られる。
2013年「日本の窓  Windows To Japan」社は、欧米のハイエンド観光エージェントである、Virtuosoをはじめ、Signature、Traveller Madeの公認オペレーターとして多くのハイエンド観光客を案内している。
​日本での特殊な経験を基に、日本全国の地域文化や、かけがえのない価値を感じられる旅行体験を創出している。

藤 峰明(元エルメスパリ本社副社長・シーナリーインターナショナル代表)

1971年渡仏、パリ第⼀(ソルボンヌ)⼤学芸術学部卒。
三越パリ駐在所⻑を経てエルメス本社に⼊社後、エルメスジャポンに赴任。
1998年代表取締役社⻑として⽇本でのエルメスの発展に貢献。
2008年外国⼈で初めてエルメスパリ本社の副社長及びライカカメラジャパン会長に就任。
2015年エルメスを退社後、シーナリーインターナショナルを設立。
現在パリと東京をベースに、企業のブランド戦略のコンサルティングほか、伝統産業や地方再生の支援の活動を行う。
フランス共和国国家功労勲章シュヴァリエ叙勲。
エルメスでの仕事を語った本に「エスプリ思考〜エルメス本社副社長、齋藤峰明が語る」(川島蓉子著)ほか、虎屋黒川社長との共著「老舗の流儀」がある。

西 堀 耕太郎(株式会社日吉屋・株式会社TCI研究所 代表)

1974年和歌山県新宮市生まれ。
カナダ留学後市役所で通訳をするも、結婚後妻の実家「日吉屋」で京和傘の魅力に目覚め、脱・公務員。職人の道へ。
2004年日吉屋五代目就任。
「伝統は革新の連続である」を企業理念に掲げ、伝統的和傘の継承のみならず、和傘の技術、構造を活かした新商品を積極的に開拓、国内外のデザイナー、アーティスト、建築家達とのコラボレーション商品の開発にも取り組む。
2008年海外展示会に積極的に出展。
和風照明「古都里-KOTORI-」シリーズを中心に約15カ国に展開中。
2012年日吉屋で培った経験とネットワークを活かし、日本の伝統工芸の海外向け商品開発や販路開拓を支援するTCI研究所を設立し代表に就任。
延べ約500社以上の企業の海外展開を支援。
2018年地域プロデューサーを育成する「Japan Brand Producer School」を開校。
各地域の技術や産品をプロデュース出来る人材の育成にも努める。