写真提供:FIELD DESIGN GALLERY

日本アルプスが連なる自然豊かな山岳地帯、長野県。

本州の中心部に位置し、隣接県は8県と全国で1番多くなっています。

スキーやスノーボードをはじめとしたウィンタースポーツが盛んで、平成10年(1998年)には冬季オリンピックの開催地となりました。

また、ブドウの産地としても有名で、長野県のオリジナル品種である“ナガノパープル”は、大粒の黒系ブドウには珍しい、皮ごと食べることができる種無しブドウとして人気となりました。

そんな長野県では、何百年も前から受け継がれてきた技術で作り上げた、20品目以上の伝統工芸品が存在します。

この記事では、その中でも経済産業大臣によって「伝統工芸品」として指定されている7品目をご紹介します。

伝統的工芸品とは?
経済産業大臣が指定した「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」に基づいて認められた伝統工芸品のことを指す。
要件は、
・技術や技法、原材料がおよそ100年以上継承されていること
・日常生活で使用されていること
・主要部分が手作業で作られていること
・一定の地域で産業が成り立っていること

本記事の内容は、令和4年(2022年)3月時点のものです。
掲載内容は変更していることもありますので、ご留意ください。

信州紬

長野県では“上田紬”や“松本紬”など、県内の各地で独自性のあるつむぎが織られてきました。

信州紬しんしゅうつむぎ」とは、それら長野県各地で作られる複数の紬を総称した織物です。

信州は古くから養蚕が盛んで、江戸時代には養蚕農家の副業として織物の生産がはじまり、草木染くさきぞめの技術と融合して独特の紬の産地へと発展しました。


※紬:紬糸を使った絹織物のこと。

信州紬はかいこまゆから作られる生糸きいとや屑繭から取り出した手つむぎ糸、玉糸、緑色の繭を作る蚕から取り出した天蚕てんさん(やままゆ)糸の4種類を用いて作られます。

別名“繊維の女王”とも呼ばれる天蚕で織られた織物は、親から孫まで3代にわたって着用できるほど、軽くて丈夫だといわれています。

それらの糸を草木染し、手機てばたを用いて一つひとつ手作業で織り上げられた信州紬は、渋みのある光沢や格調の高い染め色が特徴です。

上田紬は縞や格子柄を、飯田紬は素朴な手織りを……といったように、産地による違いを楽しむのもオススメです。

品名信州紬
よみしんしゅうつむぎ
工芸品の分類織物
指定年月日昭和50年(1975年)2月17日 


木曽漆器

木曽漆器きそしっき」は、長野県塩尻しおじり市の木曽平沢きそひらさわ(旧楢川ならかわ村)を中心に作られている、塩尻周辺の木曽谷きそだにでとれた良質なヒノキを使った木製品に漆塗りを施した漆器です。

かつては、“漆器”というと豪華な絵付けや金箔が施された、富裕層しか手に入れることができない高級品でした。

しかし、装飾の少ない木曽漆器の登場により、弁当箱やくしなどの身近な日用品として扱われるようになりました。

木曽漆器の生産は江戸時代に本格化し、発祥の地とされている中山道の宿場町・奈良井宿(長野県塩尻市奈良井)で人気の旅土産となりました。

木曽漆器の特徴は、鉄分を含む地元の“錆土さびつち”を混ぜた下地を使うため、強く頑丈なこと。

また、長期間使用することで生まれる温かみのある艶の美しさも魅力で、塗り工程には以下3つの技法があります。

木曽春慶塗きそしゅんけいぬり
木目を活かすために下地をつけずに生漆をすりこむ

木曽堆朱塗きそついしゅぬり
数種類の漆を含んだタンポまだら模様を付ける(別名:木曽変わり塗)

塗分呂色塗ぬりわけろいろぬり
数種類の色漆を使用して絵柄や幾何学模様に塗り分けた後に磨いて艶を出す

現在は、器などの日用品から高級家具までさまざまな製品が作られており、平成10年(1998年)に行われた長野冬季オリンピックのメダルにも木曽漆器が用いられていました!


※タンポ:模様や絵を描く時の筆のような道具

品名木曽漆器
よみきそしっき
工芸品の分類漆器
指定年月日昭和50年(1975年)2月17日


飯山仏壇

長野県飯山市で作られている「飯山仏壇いいやまぶつだん」。

その起源は定かではないものの、江戸時代の元禄2年(1689年)に甲府から来た寺瀬重高という人物が、素地仏壇を作ったことがはじまりであると伝えられています。

室町時代に浄土真宗が伝わってきたことや、仏教を信仰していた上杉謙信うえすぎけんしんが戦国時代に飯山城を築城したことなど、古くから飯山市は仏教に馴染みのある地域だったこともあり、仏壇製造が盛んに行われました。

飯山仏壇の特徴は、全体を彩る美しい蒔絵や金箔、拝む人にも配慮した宮殿くうでんの造りです。

本像が安置される宮殿は、肘木組物ひじきくみものという肘木を組み上げる独特の技法で作られています。

肘木を抜くと宮殿を分解することができるため、部品を洗って再塗装する“せんたく”の作業が可能になります。

また、宮殿の上の長押なげしは、宮殿がよく見えて拝みやすいように弓型になっており、“弓長押ゆみなげし”と呼ばれています。

さらに、胡粉ごふんという貝の粉からできた顔料を塗り、盛り上がったところに金粉を塗る“胡粉盛ごふんも蒔絵まきえ”は、金色の絵が浮き上がって見えて立体感があり、美しさが際立つ華やかな意匠です。


※肘木:建築物において、柱の上方にある、上からの重みを支える横木のこと。

品名飯山仏壇
よみいいやまぶつだん
工芸品の分類仏壇・仏具
指定年月日昭和50年(1975年)9月4日


松本家具

松本家具まつもとかぐ」は、長野県松本市などを産地とする民芸家具です。

松本家具の歴史は、安土桃山時代にまでさかのぼります。

木材が豊富で、木工品作りに適した気候を持つ城下町・松本の地場産業として家具製造がはじまり、江戸時代末期に生活用家具の産地として発展しました。

第二次世界大戦後、和家具の需要は下火になりましたが、木工家・池田三四郎いけださんしろうの指導により、松本家具の職人たちは洋家具の技術やデザインを取り入れはじめ、新しさと懐かしさを併せ持つ民芸家具としての復興を果たしました。

ミズメサクラやケヤキ、ナラなど硬く粘り強い木材の無垢材むくざいを用い、伝統の組手接手くみてつぎての技法で作られた松本家具は丈夫で耐久性に優れています。

また、十数回にわたり丁寧に手作業で漆を塗り重ねるため、ずしりとした重みの中に木目の美しさが映えます。


※無垢材とは:接着剤を使って使用する形に整える集成材ではなく、天然木から使用する形で取り出した1枚の板のこと。

品名松本家具
よみまつもとかぐ
工芸品の分類木工品・竹工品
指定年月日昭和51年(1976年)2月26日


内山紙

内山紙うちやまがみ」は、長野県の奥信濃地方でコウゾのみを原料として作られている手漉き和紙です。

江戸時代初期、萩原喜右ヱ門が美濃の紙づくりをヒントに、コウゾの産地だった奥信濃地方で内山紙の生産をはじめ、次第に農家の冬の副業として発展しました。

内山紙は光や空気をよく通し、丈夫で保湿力があります。

雪が溶けて水蒸気になる際に発生する“オゾン”という活性酸素の一種には、殺菌・漂白作用があります。

内山紙ではコウゾの繊維を雪にさらし、オゾンの自然の漂白作用を利用することで、ふっくらと白く輝き、日焼けしにくい紙を生み出します。

豪雪地帯として知られる、奥州地方ならではの工程ですね。

これらの特徴から、障子紙や筆墨紙、官公庁の台帳などに用いられており、今では通光性の良さを活かして和紙を使った照明器具などのインテリアにも利用されています。

品名内山紙
よみうちやみがみ
工芸品の分類和紙
指定年月日昭和51年(1976年)6月2日


南木曽ろくろ細工

長野県木曽郡南木曽町中心で作られている「南木曽なぎそろくろ細工ざいく」は、天然の木目の美しさと手触りの良さが味わい深い木工品です。

南木曽ろくろ細工のはじまりは江戸時代の中頃だといわれていますが、安土桃山時代に発行された木を伐採するために使用した免状が残っていることから、それ以前から木地師たちは存在していたと考えられています。

木地師きじしと呼ばれる、ロクロで木工品を作る高度な技術をもった職人が、木目のデザインを考えてから木をり出します。

乾燥、ロクロ加工、塗りまでのすべての工程を木地師が一貫して手掛け、仕上げには拭き漆を塗って木目の美しさを際立たせます。

品名南木曽ろくろ細工
よみなぎそろくろざいく
工芸品の分類木工品・竹工品
指定年月日昭和55年(1980年)3月3日


信州打刃物

長野県長野市などで作られる「信州打刃物しんしゅううちはもの」は、鉄を熱し、ハンマーで叩いて作る鍛造たんぞう刃物です。

戦国時代、川中島かわなかじまの戦いで刀剣の修理をした職人の技をこの地の人々が受け継いだことにはじまり、代々改良しながら農具や山林の刃物を生産してきました。

その代表格である“信州鎌”は片刃かたはの薄刃であることが特徴で、一番薄いはがね部分は鎌全体の厚さの6分の1だといわれており、見た目は幅広のため重そうですが、軽くて強い上に切れ味が抜群です。

刈り取った芝を手元に寄せる“芝付け加工”や、刃面を内側に湾曲させて薄刃でも手元がぶれないようにする“つり加工”などの独自の工夫が施され、草刈り鎌としての使いやすさにも定評があります。

現在は包丁などの生活用品も生産され、高い評価を得ています。

品名信州打刃物
よみしんしゅううちはもの
工芸品の分類金工品
指定年月日昭和57年(1982年)3月5日