現存する世界最古の木造建築である法隆寺は、今から約1300年も前に建設されました。

湿度が高く、劣化のリスクが高い木材を使用しているにも関わらず、今日までその形を保ってきたことからも、日本の木造建築技術の高さがわかります。

今回は、そんな木造建築には欠かすことのできない「木製建具」や「木製家具」を作り続けている安達建具株式会社の3代目・安達克敏あだちかつとしさんと、その息子である4代目・将伍しょうごさんにお会いし、伝統の技術を受け継いでいくことの想いを伺いました。

「木製建具」とは?

建具たてぐ」とは、障子や襖、窓や戸など、家の開く場所に設けられた枠やその可動部分のことです。

中でも、木材を用いて作られる「木製建具」は、古くから日本人の生活に多く取り入れられ、日本の文化を担ってきたといっても過言ではありません。

日本では、弥生時代にはすでに木製の扉が存在していたと言われており、その後長きにわたり日本人の生活を支えてきました。

木製建具は、“呼吸をする”建具であると言われています。

梅雨のような湿った時期に水分を蓄え、乾燥する時期にはその水分を放出することで室内の湿度を保ち、夏の暑い空気や冬の寒い空気を通さない断熱性にも優れています。

木目を活かしたデザインのものが多いため、部屋に温かみのある雰囲気をもたらしてくれるのも魅力の一つです。

安達建具株式会社とは?

今回取材させていただいた安達建具株式会社さんは、木製建具を中心に、家具や伝統工芸品であるオリジナルデザインの組子の製作を行っている建具会社です。

茨城県で昭和10年(1935年)に創業した後、現在は3代目の安達克敏あだちかつとしさんと息子の将伍しょうごさんが運営しています。

将伍さんは、技能五輪※1で1位の受賞経験を持ち、克敏さんは、技能グランプリ※2で1位、卓越技能者厚生労働大臣賞(現代の名工)や、黄綬褒章を受賞するなど数々の賞歴を持っています。

現在は、茨城県職業能力開発協会技能検定の検定委員や、全国建具連合会の技術委員長を担うなど、まさに建具界のパイオニアである職人です。


※1技能五輪:23歳以下の技能者を対象とした、技能レベルを競う大会。毎年11月頃に行われる。
※2技能グランプリ:年齢制限のない、一級技能士の資格を持つ職人が技能を競う大会。

機能性のみならず、現代の生活様式に合った木製建具を次々と生み出しており、玄関窓枠や照明カバーなど、お客様のニーズに合わせて和を楽しめる製品を製作。

また、新築住宅の建具建築のほか、古民家の再生事業や伝統工芸品イベントへの出展など、さまざまな場面で活躍しています。

安達建具株式会社×Q&A

ここからは、安達建具株式会社さんに、建具製作への想いを伺った様子をお届けします!

製建具の魅力とは?

(将伍さん)
天然無垢の素材を使った木製建具は、一つ取り入れるだけでお部屋の雰囲気がガラッと変わるのが、魅力の一つだと思います。

現在は洋室に住まれている方が多いですが、洋の中に少しの和を取り入れるだけで、普通とは少し違ったお部屋を作り上げることができるので、そういった魅力を感じて頂けたら嬉しいですね。

(克敏さん)
大きな話にはなるのですが、実は木を使うことによって、災害を防ぐことにも繋がっているんです。

山を整備せずに木を生やしっぱなしにしておくと、他の植物の成長を妨げたり、土砂崩れの原因となってしまうことがあるので、木製品を作り続けることは、そういった自然を守ることにも繋がっています。

りがいを感じるのはどういう瞬間ですか?

(将伍さん)
製品を納めたお客様から、満足したとお声を頂けた時ですかね。

当たり障りのない回答になってしまうんですが(笑)、でも本当にそうで。

報酬を頂けることももちろんやりがいの一つではあるんですが、それ以上に、お客様の期待値を超えるぐらいの仕事が出来た時のお客様の反応が、一番やって良かったなと思えます。

れられない経験はありますか?

(克敏さん)
技能グランプリに出て、賞を取ったことですかね。

36歳の時にはじめて出場して銅メダルを取った後、2回目に関東賞、3回目で日本一になったんですが、この経験がきっかけで全国的に知って頂けるようになって、仕事の繋がりも増えて……。

図面に向かって3~4ヵ月を費やすあの時間があったからこそ、職人として一つ上の段階に自分を持って行くことができて、今のお仕事に繋がっているなあと感じます。

(将伍さん)
僕も、若手が出る技能五輪に参加して、優勝したことですね。

出場するまでのプロセスがやっぱりとても為になったということと、その努力を結果として評価して頂いたということが、当時22歳の僕にはとても嬉しかったです。

それまで何者でもなかった自分が、何かを成し遂げた自分になることができて、仕事への考え方も変わった時期でした。

達建具株式会社の想い

うちは小さい規模で会社を運営しているので、大量生産とか大きな仕事をたくさんすることは難しいのですが、直接お客様とお話をして、製品を納めるまで、だれかを通さずに関係性を作ることができるのが、我々の大きな強みだと思っています。

なので、製品を作る時には、お客様の希望やアイデアを話し合って、“共に”作るということを大事にしています。

お客様の納得がいくまで何度もやり取りをするので、納品までに1年以上かかったりして(笑)。

例え時間がかかっても、量産のものに比べて値段が高くなっても、一緒に作り上げたものは愛着が湧きますし、プロセスを見て頂くことで製品の魅力もさらに感じて頂けるかなと思いますね。

とにかく丁寧に人との繋がりを大切に仕事していけば、人が人を呼んで良い結果になると信じているので、お客様との関係性は特に考えてお仕事するように心がけています。


インタビューを終えて

お客様の希望やイメージに沿う製品を作るため、お客様との距離を近く保ちたいという安達さん。

作った人間の“顔が見える”製品を作ることで、作り手の想いが消費者に伝わり、さらに物を大事にすることができるのだな、と、その想いに強く感銘を受けました。

また、木製建具を作ることが自然環境を保つことへの手助けになるということは、そのような視点で工芸品を見てこなかった私にとって、新たな気づきになりました。

古くから受け継がれてきた日本人の知識を正しく伝えることが、私達の住む環境を守ることにも繋がっているのかもしれませんね。

皆さんも、ぜひお住まいに木製建具を取り入れて、伝統的な和の空間を演出してみてはいかがでしょうか。

安達建具株式会社の略歴

達克敏

生年月日 昭和39年10月9日

平成12年10月    1級建具技能士 取得
平成13年11月    ものづくリマイスター(木製建具製作)茨城県 取得
平成17年3月14日   第23回技能グランプリ 建具職種 金賞 厚生労働大臣賞 受賞
平成20年11月5日   卓越した技能者厚生労働大臣表彰(現代の名工 木製建具製造工)
平成28年11月    木製建具1級施工士 取得
平成28年11月    全技連マイスター(建具製作) 取得
令和3年5月~現在  茨城県家具建具技能士会 会長
令和3年5月~現在  茨城県技能士連合会 理事

令和4年11月3日   黄綬褒章 受賞

この他、多数の免許・資格、団体歴、受賞歴あり。

達将伍

生年月日 平成5年9月11日

平成24年4月    安達建具株式会社 入社
平成26年3月    東京建具高等職業訓練校 卒業
平成27年11月  第53回技能五輪全国大会 建具職種 金賞 厚生労働大臣賞 受賞
令和4年2月   職業訓練指導員免許 取得
令和4年9月   1級木製建具技能士 取得