印伝をご存知でしょうか?
上質の鹿皮に独特の製法を使い、漆で模様をコーティングしたものです。
現代ではカバンや財布、小物入れなどに多く用いられ、使えば使うほど手に馴染む逸品として人気を集めています。
軽くて丈夫、なおかつ気品と優雅さを備えた印伝についてご紹介しましょう。
印伝の歴史
鹿皮を加工したものは高麗(今の朝鮮半島)より伝わったと言われています。
やがて日本の中で様々な技法が重ねられ、漆を使った印伝となったのです。
正倉院の宝物の中には印伝の足袋が、東大寺には文箱が残されています。
やがて武家の社会となると、軽くて丈夫な印伝は甲冑(武士が体を守る武具)として用いられ、発展していきました。
中でも武田信玄が活躍した甲州(現代の山梨県)では、甲冑がすっぽり入る鹿皮の袋は信玄袋と呼ばれ、武士の間で重宝されていたと言います。
戦国の時代が終わり江戸時代に入ると、印伝は粋な町人文化として人々の生活の中に入っていきました。
武具関係でなく煙草入れや革の半纏、巾着などに姿を変えたのです。
特に甲州は山々に囲まれ、古くから鹿皮や漆工芸が盛んだったことから「甲州印伝」として発展していきました。
ただし印伝は庶民にとっては「高級な憧れの品」でした。
江戸時代に書かれた「東海道中膝栗毛※1」の中にも印伝は出てきますが、「高価な品物」として扱われています。
※1 東海道中膝栗毛・・・江戸時代後期に十返舎一九が書いたお笑い本。江戸庶民の生活を知るうえでも貴重な本と言われている。
現代では、信玄袋や巾着だけでなくハンドバッグや財布なども作られるようになりました。
しっとりとした手触りと立体的な漆の光沢は、他に類のない製品として代々人々に使われています。
印伝の工房
印 傳屋 上原勇七
創業400年とも言われる老舗中の老舗が甲州の「印傳屋 上原勇七」です。
上原家では家長となると戸籍も変えて「勇七」の名前を残すと言われています。
商品を指定すると接客係が品物を持ってきて、その中から色違い、柄違いのものも選ぶという購入方法は、昔から続いているシステムなんだとか。
修理にも低額で対応してくれるので、何代も続く固定客が多いショップです。
直営店は甲府本店(山梨県甲府市中央3-11-15)、青山店(東京都港区南青山2-12-15)、心斎橋店(大阪市中央区博労町3-6-7)、名古屋御園店(愛知県名古屋市中区栄1-10-21)があります。
印 傳の山本
(財)伝統的工芸品産業振興協会※2が認定した、国内唯一の「伝統工芸士」がいる工房としても有名。
※2 (財)伝統的工芸品産業振興協会…伝統的工芸品産業の振興に関する法律に基づき作られた財団法人。伝統的工芸品に付けられたマークは有名です。
店舗の住所は山梨県甲府市朝気3-8-4ですが、ネットからでもオーダー注文ができます。
スマートフォンカバーなど現代的な作品から、地元企業とのコラボ商品もあり、注目を集めているのが「印傳の山本」です。
印 傳工房南都
印伝は山梨県が有名ですが、元々の皮製法は関西で多く作られていたと言います。
奈良県にある「印傳工房南都」では、正倉院宝物の印伝を用いた鞍に描かれた文様を再現して話題となり、テレビでも紹介されました。
販売店としては、奈良県宇陀市菟田野古市場432にある工房か、道の駅「宇陀路大字陀」、奈良県商工観光館などがあります。
印伝の注意
印伝は使えば使うほど、味が出ると言われますが、長く使い続けるためには注意が必要です。
そのポイントをお知らせします。
●直射日光を避ける・・・印伝の表面は漆がコーティングされています。漆は直射日光を長時間受けると、紫外線の影響により光沢が無くなるので注意しましょう。
●湿気も大敵・・・濡れた場合は擦るのはNG。乾いた柔らかい布で叩いて、陰干をします。
ベンジンや化学クリーナー、ワックスをつや出しに使うことは劣化を進ませるだけなので厳禁です。
●天然素材であることを理解する・・・鹿皮は天然素材のため、個体それぞれに個性があります。模様や形が完全に均等にならない場合も少なくないのです。購入する際は、天然素材ということを最初に納得してから、購入しましょう。
印伝の代表的な柄
日本には古くから好まれる模様があり、印伝柄にも通じています。
それは人々の様々な願いを込めているのです。
代表的な人気模様をチェックしてみましょう。
蜻 蛉
印伝らしい柄の一つが蜻蛉。
蜻蛉は後に飛べないことから、退却をしないということで武士に好まれ、武具に数多く使われました。
別名「勝ち虫」とも言われ、縁起物の柄です。
青 海波
無限に広がる波の模様、青海波の発祥は古代ペルシャとも言われています。
穏やかの日々の暮らしを願う意味があり、着物の縁起柄「吉祥文様」としても人気が高い柄は、印伝でももちろん人気です。
高 嶺
高嶺は富士山を表していています。
古代より富士山は特別な場所でしたが、印伝の本場である山梨県は静岡県と並んで富士山の御膝元。
印伝にとっては何よりも大切な心を揺さぶる模様です。
印伝を身近に感じたいなら
印 傳博物館
場所は、甲府駅から徒歩15分、中央自動車道・甲府昭和IC又は甲府南ICより一般道で20分、印傳屋上原勇七本店2Fにあります。
印伝で作られた「信玄袋」や「皮羽織」「火事頭巾」展示の他にも、季節ごとの様々なイベント(伊勢型紙の職人による実演や夏休み自由研究プロジェクトなど)があり、ここでしか味わえない印伝の魅力を発信しています。
印伝の柄は、昔から伊勢型紙によって作られています。
また、印伝とは直接の関係はありませんが、館内にはちょっとレトロな鹿模様や蜻蛉柄巾着がモチーフとなった可愛いスタンプもあり、大人から子供まで楽しめる博物館として人気を呼んでいます。
宝 印庵
印傳工房南都に併設されている博物館です。
江戸時代に使われていた印伝の武具や小物を見ることができる他、印伝制作の見学もOK。
入場無料ですが、見学の際は要予約。
展 示会
東京はもとより、全国のデパートやショッピングモールで様々な展示会があります。
印伝単発で催事のある時もあれば、他の工芸品と一緒に出店ということもあるので、HPでチェックしましょう。
おわりに
如何でしたか?
印伝は立体的で美しいだけでなく、その耐久性も魅力のひとつ。
長く使えば味が出るという伝統の技を体感するためにも、何か一つ購入するのも良いかも知れません。
そしてそれを、いつの日かお子様やお孫様に引き継げたら素敵ですよね。
日本には何十年、何百年も前から受け継がれてきた技術を用いた、伝統工芸品が数多く存在します。技術の革新により機械化が進み、安価で使いやすい商品がどんどん市場に出回っている昨今、手作業で作られる伝統工芸品は需要が少なくなり、追い詰められているのが現状です。
竹細工と漆器を合わせた総合芸術の籃胎漆器は、お盆や花入れ、お手拭き置きなど日常の道具として使われています。
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