株式会社KAZAANAとは
Made in Japan ブランドに特化したECプラットフォーム “BECOS(ベコス)”において、伝統工芸品を中心に国内メーカーによって作られた商品を厳選し、日本だけでなく世界へ向けた販売をメイン事業とする株式会社KAZAANA。
株式会社KAZAANAは、ECプラットフォーム“BECOS”だけに留まらず、伝統工芸品とコラボレーションしたオリジナル商品の開発や、歴史的建造物の改修から収益化までの提案事業、生産者の想いを届ける映像ブランディング事業なども展開し、すべての「日本の伝統」に対して再興を図っている。
今回は、日本の伝統文化や工芸品、古くから伝わる技術を後世へ残し、世界へ発信しようと会社を立ち上げた、株式会社KAZAANAの代表取締役・樫村健太郎氏と、同じく日本への熱い想いを持つ、BECOS Journal 編集長・赤津陽一氏にお話を伺った。
伝統×革新を世界へ販売する ECプラットフォーム“BECOS(ベコス)”
株式会社KAZAANAが厳選した、全国の伝統工芸品を購入できるECプラットフォーム“BECOS”。
日本国内のみならず、海外へも配送を行っているというから驚きだ。
“BECOS”で販売している商品は、すべて樫村氏もしくは赤津氏 が工房へ出向き、職人さんと話し、直接目で見て手で触って確かめたアイテムしか掲載しない。
効率が良いとは、決して言えない。
しかし、そうやって自分たちで実際に手に取り、直接職人さんからモノづくりのことを聞くというのが、とても大切なのだという。
そうすることで、その商品の魅力や、職人さんの想い、時には苦悩ですら消費者へと届けることができるからだ。
“BECOS”については、後ほど樫村氏、赤津氏から詳しく伺おう。
株式会社KAZAANAのモノづくり オリジナル商品の開発
ECプラットフォーム“BECOS”の運営にとどまらず、着物をストリートファッションへと落とし込んだブランド STREET KIMONO “VEDUTA(ベデュータ)”を、デザイナー・渡邉仁氏と共同で立ち上げた。
“VEDUTA”は、平成30年(2018年)にスタートした新鋭の着物ブランド。
きっかけは、渡邉氏が着物のブランドを作りたいと考えていた際に、前職の同期であった樫村氏と再会したことだった。
互いの日本の文化やモノづくりに対する熱い思いを確認し合い、共同開発へと踏み切った。
“VEDUTA”のお客様の中には、ストリートファッションに馴染む着物をとても気に入り、リピートして購入してくれる方もいるのだそう。
伝統的な着物のベースは残しながら、現代にも好まれやすい実用性のある商品へと改良することに注力しているからこそ生まれた、新たな販路である。
樫村健太郎×株式会社KAZAANA
株 式会社KAZAANA設立のきっかけ
平成21年(2009年)に、ウェディング関係の会社に入社した樫村氏。
入社の翌年、新規の店舗を出店するという業務で、結婚式場やレストランとしてリノベーション可能な歴史的建造物を探しに全国を回っていた。
その昔、国府が置かれ、関東三大祭に数えられるお祭りが毎年開催される茨城県石岡市で生まれ育ち、また司馬遼太郎などの歴史小説が大好きだったこともあり、出張に行った際には資料館や歴史館にも足を運び、その土地の風土や歴史を学ぶことから物件探しを行っていた。
さらに、歴史ある物件をリノベーションする中で、全国でさまざまな職人さんと出会い、伝統工芸の世界を知ることになった。そして深く知れば知るほど伝統工芸の問題点や課題が見えるようになり、いつか再生をしてみたいという想いが強くなっていったのだという。
この時はまだ具体的な目標はなかったが、もともと「30歳で起業する!」という目標は学生時代からあったのだそうだ。
平成26年(2014年)には、Webサービスの開発・コンサルティング業を手掛ける会社へと転職。
しかし、全国を回っているときに出会った伝統工芸品や職人に対する想いが消えることはなかった。
そしていよいよ30歳を迎え、Web関係の会社を退職し、平成29年(2017年)に株式会社KAZAANAを設立。
ウェディング会社での経験と出会い、そしてweb業界で培ったスキルという二つの要素が活かされ、Made in Japan ブランドのECプラットフォーム“BECOS”の開発へと繋がっていったのだ。
会 社名の「KAZAANA」に込められた想い
もともと歴史が好きだった樫村氏は、古いものをリノベーションしていく、ということに興味を持った。
空襲を免れ、小京都とも呼ばれる金沢。
しかし、近年その街並みは、維持管理にお金がかかるから、儲かるから、という理由で駐車場やマンションに姿を変え、とても寂しい想いを感じていた。
「歴史的な価値のあるものを現代のライフタイルにマッチする形に変え、後世へ伝えたい。常識を打ち壊し、古い業界に新しい風が吹く“風穴”を空けたい。」
その強い想いから、社名に「KAZAANA」とつけたのだという。
“BECOS”×伝統工芸品
国 境を越えたECプラットフォーム“BECOS”
樫村氏)
はじめは私一人で創業しました。
Facebookで起業の報告をしたところ、たまたまその投稿を目にした小学校の同級生である赤津が声をかけてくれて、事業に参入することになりました。
赤津氏)
私自身、祖父が竹細工の伝統工芸職人ということもあり自分 のブログなどでも伝統工芸品の紹介をしており、伝統工芸品を守り続けたいという気持ちがもともとありました。
そんな時に樫村のFacebookの投稿を目にして、声をかけたんです。
そうしたら、KAZAANAは国内だけでなく、海外にも展開するつもりだと聞いて。
海外展開するというのはまったく考えていなかったので、単純にすごいな、と思いました。
それと同時に、伝統工芸を守っていきたいという気持ちがあったので、じゃあ一緒にやろう!ということになりました。
大 きな可能性を秘めた「伝統工芸」という業界
独立して会社を立ち上げたときは、「古い業界に風穴を空けたい」という理念だけが先行していましたが、古い体質で、伸びしろと余白がある業界として「伝統工芸」というのが自然と出てきました。
というのも、4年前に全国を回っていたときの現状と全く変わらず、伝統工芸業界自体が衰退していることを再確認して。
この古い業界を、インターネットを通じて大きなパラダイムシフトができるのではないか?そう考えたのがきっかけでした。
お世話になった先輩方に今の事業のアイデアを報告すると、皆口を揃えて「日本のために素晴らしい事だと思うけど、工芸品なんて売れないからやめたほうがいい」「衰退産業にわざわざ足を突っ込むな」「海外だったら、化粧品とか今、売れてるものを売れば」「今まで工芸の世界で成功した人いないよ、無理無理。」と言われました。
皆さん百戦錬磨の経営者ですし、僕のことを本気で心配してくれているからこそのアドバイスだと思ったのですが、だからこそチャンスだと感じたんです。
僕は、サラリーマンとして働いている時からいつも「自分にしかできないことをやりたい」と思っていました。
誰もが良いアイデアだと思うことって、もう誰かがやってるんですよね。
これから僕たちがやろうとしていることは、工芸の世界で成功している人が誰もいない。
じゃあ、僕はその最初の一人になれるんだと考えたら、やる価値は存分にあると思ったんです。
誰かができることは他の誰かがやってくれ。僕は僕にしかできないことをやるよと。
燃えてきましたね。
“ BECOS”だからこそ持つ、強み
伝統工芸の古臭くてダサいというイメージを刷新したかったので、BECOSはもともと一流のファッションブランドのサイト構築や、自身でブランドの立ち上げなどを行っていた方に監修していただき、洗練されたこだわりのあるサイトを作り上げました。
伝統工芸品を扱うサイトの中では、きっと珍しいのではないでしょうか。
BECOSのデザインを見て、「ここなら出品したい」という声を職人さんからいただくことも増えて、うれしい限りです。
また、ECプラットフォームの運営と同時に、リスティング広告などに頼らず、オウンドメディア「BECOS Journal」も運営し、自社メディアでPR・集客しているという点も大きな強みです。
メディアのライターさんは、伝統工芸品が大好きな方ばかりで、きちんと調査した上で情熱を持って記事をライティングしています。
そのため、読み応えのある、有意義な情報が発信できており、職人さんが読んでも参考になった、という声をいただきます。
弊社の強みとしては、第一に国内外へ向けたECプラットフォームがあること。
第二に、発信するメディアがあるということ。
この二つを同時にやっているのが強みですね。
“ BECOS”に立ちはだかった困難
サービスを開始した直後は本当に大変でした。
「御社の魅力を発信させてください」「国内はもちろん、海外へ販売しましょう!」とお願いをしていくのですが、事業を始めたばかりの頃は、やはり実績も無く、ECプラットフォーム構築中だったので、見せるものがなくとても大変でした。
「ネットじゃ売れないよ。」
「なんでわざわざこんなことはじめたの?」
なんて、職人さんから面と向かって言われてしまうこともありました。
なかなか理解してもらうことができなくて。
でも、僕たちが達成したいのは、伝統工芸の世界における大きな問題点を解決し、新たな未来を築くということ。
僕たちの強みは出品をするだけでなく、伝統工芸品のブランディング、そしてメディアでの紹介など多岐にわたるので、そのあたりを根気強く説明していきました。
また、伝統工芸の産地には必ず資料館があるのですね。営業先にお伺いするときには、先にそういった施設で歴史、風土、技術について最低限の知識を身に付けてからお話に行くようにして、熱意と信用が伝わるようにしていました。
出店を決めて下さった方には、そのような地道な努力と情熱が伝わったのではないかと思います。
樫村健太郎氏・赤津陽一氏×Q &A
や りがいを感じる瞬間は?
一番のやりがいは、やはり結果が出せたときですね。
メーカーさんや職人さんに、「売れました!」と報告できるときが一番うれしいです。
出品をしてからコンスタントにアイテムが売れるようになったり、BECOS Journal でのPRがきっかけで取材が来るようになった、など、さまざまな声をいただけるのはうれしいですね。
BECOS Journal での私たちの取材記事がきっかけで、2020年 東京オリンピックにおけるVIP向けの贈り物に選ばれたアイテムもあります。
それは直接的に私たちの売上にはなりませんが、長い目で見たらきっと返ってくると思いますし、職人さんと信頼関係さえあればそれで良いと思っています。
また何回もリピートして買ってくださったお客様がいらっしゃったのですが、直接お礼のお電話をしたこともありました。
職人さんは少人数で工房を回している方も多く、どうしてもお客様と一歩踏み込んだやり取りをすることが叶わない。
そこで、僕たちがお客様と職人さんの間に立って、いろいろなお話をして、それをまた職人さんへフィードバックしたりしています。
K AZAANAを立ち上げて、最も苦労したことは?
最初は売上が0円の月もありましたし、リスティング広告やSNS広告に出稿したものの、なかなか結果がでない期間が続きました。
また出店候補者への営業の際には、実店舗がないからと断られることも多くて。
スタートしたばかりで信用の問題もあるでしょうし、悔しい思いはたくさんしましたね。
「ネットで売ることは楽をしている」と本気で言われたこともあり、目の前に商品がない状態で、ブランドのない高額なアイテムを売ることが、インターネット上でどれだけ難しいことなのか、理解してもらえないシーンもありましたね。
確かに、ネットリテラシーや考え方の違いで越えられない壁もありました。
職 人さんに言われて心に残っている言葉は?
職人さん達からいただいた、嬉しい言葉はずっと忘れないですね。
とある職人さんは、「BECOSに出すだけで箔がつく!」と言ってくださって。
初めて商品が売れて、報告できたときは本当にうれしかったです。
今 後の目標は?
一つはサイトを多言語化することです。
現在は日本語と英語だけですが、中国語、フランス語、イタリア語、インドネシア語とどんどん多言語化していきたい。
元となる記事は大量にストックできています。
もちろん、記事のローカライズは必要ですが、一から作るよりは横に展開していく方が圧倒的に早いです。
また、リアルとネットの世界を融合させた取組みを増やしたいと思っていて、まだあまり言えませんが、中国で大きなプロジェクトを進めています。
そのプロジェクトでは、メイドインジャパンブランドを集めた商店街を構築して、実際に職人の作業を見ながら、工芸品を触れて、場合によっては自分でも体験しながら、職人の話を聞きながら購入し、購入した商品は翌日に家に届く。
そのような取り組みを進めています。
また、KAZAANAの長期的なビジョンとしては、私たちはインターネット企業でありながら、メーカーとしての能力を持つホールディングカンパニーになりたいと思っています。
工芸の世界では数百年続いた看板を、売上の低迷や後継者不足などで廃業している会社、技術が継承できない会社が山のようにあります。
私は日本の何より貴重な資源は、歴史だと思っています。
歴史はお金で買うことができません。
そのような数百年という歴史が絶たれてしまうのは、日本全体としてとても大きな損失です。
そのような経営、後継者不足、跡継ぎに苦しむ会社を友好的にM&Aし、メーカーの仲間達を増やしていきたい。
そうすることによって、メーカーの立場からすると歴史と技術が守られる、これは非常に意義のあることだと思っています。
またこのようなスキームは、後継者不足など若者の採用・育成の問題に対しても大きな解決策になると思っています。
KAZAANAに入社すれば、インターネットのこともできる、マーケティングもできる、商品開発も、デザインもできる、EC運営も、メディア運営もできる。
また一方でホールディングスのメーカーへ出向し、直接ものづくりに携わることができるし、経営に携わることもできる。
伝統工芸も一つの分野だけではなく、有田焼、輪島塗、藍染、津軽びいどろ、和包丁などさまざまな産地で修行することもできる。
ひたすらに技術を追及するスペシャリストな職人ももちろん必要なのですが、私はこれから工芸業界に必要なのは、横断的なスキルと柔軟な考え方を持ったジェネラリスト的な職人が必要になると考えています。
そのようなホールディングカンパニーを、工芸業界で初めて作り上げることがKAZAANAの中長期的な目標です。
インタビューを終えて
「伝統工芸品は売れない」という周囲の言葉を跳ね除け、その社名の通り、まさに業界に風穴を空けようと奮闘する株式会社KAZAANA。
今では認知度も上がり、顧客の獲得にも成功した“BECOS”ですが、その裏では樫村氏と赤津氏の地道な努力があることがわかりました。
お話を伺った時には、「近々、良い扇子を求めて京都の方へ探しに行こうと思っているんです!」と仰っていました。
良い商品があるという情報を聞けば、すぐに足を運び、自らの目で見て確かめる。
樫村氏、赤津氏の実直さが職人さんの心を動かし、“BECOS”を通して「本物」の日本を世界へ発信しているのだと思いました。
そして、お話を伺う中で何よりも驚いたのが、今でこそ志を同じくする仲間が集まって来ているが、創業当初は業務のほとんどを2人でこなしていたということ。
創業開始から、短期間でここまでの成長を遂げた“BECOS”。
樫村氏と赤津氏の能力が高いのはもちろんのこと、2人の人柄の良さ、そして日本の伝統を残していきたいという強い想いがあるからこその結果なのだと強く感じました。
ワゴコロも、日本の伝統を残していきたいという気持ちは一緒。
株式会社KAZAANAのお話を聞いて、ワゴコロも良い意味で触発されました。
樫村氏、赤津氏のような熱い想いをもった方々とともに、もっともっと「本物」の日本を発信していきたい!!!
シーン別のオススメアイテム紹介や、アイテムのこだわり、作り手の想いなどを写真や動画を交えて知ることができるメディアである、“BECOS Journal”。
想いを使えるブランディング動画
株式会社KAZAANA代表 樫村健太郎氏の略歴
1987年
茨城県石岡市出身
2009年
横浜国立大学経営学部を卒業。その後、株式会社ノバレーゼに入社、ウェディングプランナー、レストランサービスマン、人材開発部を経験し、その後は新規店舗の出店部署へ異動、日本国内だけではなく、韓国、中国において、結婚式場、レストラン、ドレスショップの新規出店を行う。
特に有形文化財などに指定されている歴史的建造物の再生事業に力を入れ、
などの再生を手掛ける。
2014年
Webサービス開発・Webコンサルティング業を手掛けるヴァンテージマネジメント株式会社へ入社。Webコンサルタントを経験後、経営管理部の責任者として管理部全般を統括、IPO準備などを牽引。
2017年9月
株式会社KAZAANAを創業。
2018年3月
Made in Japan ブランドに特化したECプラットフォーム『BECOS』をオープン。
BECOS Journal編集長 赤津陽一氏の略歴
1986年
茨城県石岡市出身。
2009年
日本大学法学部を卒業。その後、株式会社アックスコンサルティングに入社、全国の税理士や公認会計士、社会保険労務士などの士業向けのコンサルティングに従事。
WEB制作・コンサルティング部門の責任者として全国300件以上の士業事務所のサイト制作、運用に携わる。
その後、伝統工芸の職人であった祖父の仕事風景や現状を見て育った経験から、伝統工芸業界を革新するために2018年1月に「BECOS」立ち上げに参画。