かつて照明として重宝された蝋燭は、今でも仏事やお誕生日ケーキなど私たちの生活の様々な場面で使われています。

蝋燭には、大きく分けて洋蝋燭と和蝋燭の二種類があります。

おなじみの真っ白で半透明な蝋燭は、ほとんどが「洋蝋燭」です。

一方で、和蝋燭は日本の伝統的な製法で作られたもので、洋蝋燭とは原料や構造が異なります。

また、和蝋燭の炎は柔らかく、ゆらゆら揺らめき温かく幻想的な空間を作り出します。

実はそこには日本が誇る美と技、魅力が詰まっていました。

今回は、そんな和蝋燭についてご紹介します。

和蝋燭と洋蝋燭との違い

蝋燭が燃える仕組みは、中央の芯の先に点火すると、周りの蝋が溶けて液体となります。

その液体が芯を伝わり吸い上げられ、蒸発した気体が酸素と結びつくことで燃えるというものです。

この原理は和・洋どちらの蝋燭も同じですが、最大の違いは和蝋燭が植物性の原料で作られているという点です。それ以外にもいくつか違いがあります。

原料製造方法仕組み
和蝋燭・蠟

・漆

・糠蠟

・櫨蠟

・和紙

・植物
手作業で溶かした蝋を何重にも塗り重ねる。芯は和紙を棒に巻きつけ、
イグサで巻いた天然素材。

芯は太く、中が空洞になっている。

芯が太いため安定した大きな炎を生み出す。
ほぼ太さの変わらない直線状の棒型と、
上部が広がったいかり型がある。
洋蝋燭・蜜蝋

・パラフィン

・木綿などの糸
機械での大量生産。

石油から作ったパラフィンや
ステアリン酸などの蝋を型に流し入れて作る。
木綿などの糸をねじりあわせた糸芯が1本、
蝋の中に埋まる形になっている。

空洞はなく細い芯となる。
太さの変わらない棒型のもの。

近年ではキャンドルとして
様々な形の蝋燭も増えており、
アロマキャンドルも洋蝋燭が使われている。

和蝋燭の原料

蠟の原料として、はぜや漆など植物から抽出した木蠟や、米ぬかなから抽出した糠(ぬか)蠟といった植物由来のものを使用します。

特に、はぜの実から採ったはぜ蠟が主流です。

また、芯にも和紙 や植物を使うなど、すべてが天然の素材でできています。

和蝋燭の製造方法

いくつかの製法がありますが、主に手作業で溶かした蝋を何重にも塗り重ねていきます。

そのため、和蝋燭の断面はバームクーヘンのような年輪状になっています。

原料も高い上、一本ずつ手作りのため比較的高価になります。

和蝋燭の仕組み

芯は和紙を棒に巻きつけ、イグサで巻いた天然素材です。

別名を灯心草とうしんそうといい、灯心に使用されることからこの名前がつきました。

芯は太く、中が空洞になっています。

芯が太いため安定した大きな炎を生み出します。

和蝋燭の形

ほぼ太さの変わらない直線状の棒型と、上部が広がったいかり型があります。

いかり型は着火当初、明るく消えにくい安定した火になります。

仏事ではいかり型が正式、棒型が略式と言われますが、宗派によってもことなり、使い方は様々です。

洋蝋燭の原料

洋蝋燭は、昔は原料として蜜蝋を使っていました。

ミツバチが巣を形成するために体内(腹部)から分泌するのが蜜蝋ですが、採取に手間がかかり高価のため、今では一般的な白い蝋燭の原料は、石油から作られる加工も容易で、安価なパラフィンが主流です。

芯は木綿などの糸をねじり合わせた糸芯が使われています。

洋蝋燭の製造方法

機械で大量生産します。

石油から作ったパラフィンやステアリン酸などの蝋を型に流し入れて作ります。

原料もはぜ蠟などに比べて安く、大量生産するため和蝋燭より安価になります。

洋蝋燭の仕組み

木綿などの糸をねじりあわせた糸芯が1本、蝋の中に埋まる形になっています。

そのため和蝋燭と違い空洞はなく細い芯となります。

洋蝋燭の形

基本的には太さの変わらない棒型のものになります。

近年ではキャンドルとして様々な形の蝋燭も増えてきました。

アロマキャンドルなども洋蝋燭が使われています。

和蝋燭の燃え方の特徴

和蝋燭の燃え方には次のような特徴があります。

炎は大きく揺らぎがあり消えにくい

和蝋燭の炎は融点が低いため、優しいオレンジ色です。

炎は大きく消えにくく、風がなくても揺らぎがあるのが特徴です。

炎が神秘的にゆらゆらと揺れるのは、蝋燭の中が空洞で、空気が流れるからです。

また芯に巻いたイグサは植物のため場所により厚さが違います。

その燃焼力の違いも炎の揺らぎが生じる原因です。

煤があまり出ず蝋が垂れにくい

和紙とイグサでできた芯が、蝋をしっかり吸い上げながら燃えるため、蝋が垂れるのを防ぎ、最後まできれいに燃えます。

すすも出にくいので仏壇をあまり痛めません。

このように、和蝋燭は植物由来の材料を使った、環境にも人にも優しいエコな明りであることと、芯が太く消えにくい大きな炎が特徴です。

日本では仏事の際に火が消える「立ち消え」が嫌われたことや、木造家屋ですき間風が吹き込むことから、先人たちは消えにくい大きな炎の蝋燭を作りだしました。

和蝋燭は、まさに日本の風土に応じた灯りとなのですね。

和蝋燭の歴史

蜜蝋から松脂へ

蝋燭は奈良時代、唐から日本に伝えられました。

このときはミツバチの巣で作った蜜蝋燭だったと伝えられています。

蝋燭の「蝋」という漢字が虫へんなのは蜜蜂に由来するためです。

平安時代には中国から遣唐使が廃止され、蜜蝋燭の輸入が途絶えたことをきっかけに、国内で松脂まつやに蝋燭が作られるようになりました。

櫨の木蝋

室町時代、はぜや漆を使った木蝋で作る和蝋燭の製造がはじまります。

それぞれの産地により西日本でははぜ蠟、東日本では漆蠟が主として使われました。

江戸時代には各藩がはぜや漆の生産を奨励したことや、外出用の提灯ちょうちんが広がったため、和蝋燭の製造が盛んになります。

ただし、主に裕福な商家や武士、寺院などで使われる大変高価な物でした。

日常的に蝋燭が使われるようになったのは、明治時代に洋蝋燭が輸入され、国産化し庶民に普及してからです。

和蝋燭の豆知識

江戸時代、和蝋燭を最も多く使っていたのは不夜城と呼ばれた吉原遊郭、次いで江戸城大奥といわれています。

無数の揺らめく炎に浮かび上がる空間はさぞや豪華で幻想的だったことでしょう。

和蝋燭の原料

和蝋燭の原料ははぜの実の油脂ゆしから抽出して作ったはぜ蠟が主流です。

はぜは漆科の落葉小高木らくようしょうこうぼくで、冬に実を採取し、潰して蒸した後にしぼります。

蝋にはこのほか漆の蝋、米糠こめぬかから抽出したぬか蝋などがありますが、粘り気やきめ細かさのあるはぜ蠟が最も優れており、高級です。

芯は和紙に灯心草とうしんそうずいを巻いたもの。

灯心草とうしんそうは別名イグサといい、畳表たたみおもて茣蓙ござに使われる草で、この茎の中から取り出したのがずいです。

灯心草とうしんそうずいはスポンジ状で気泡が多いため、粘りのあるハゼ蝋を力強く吸い上げ燃焼を助けます。

櫨の豆知識

はぜの木は約7mの高さになります。

実の密着力が高く、傷つきやすい木のため、厳冬期に木にはしごをかけて登り、苦労してはぜの実を採取します。

この過酷さを軽減しようと、昭和初期に採取器も考案されましたがうまくいかなかったとか。

今でははぜの木の減少や採取する「ちぎり子」が少なくなり、はぜの実の採取も大変難しくなっています。

和蝋燭の製造方法

和蝋燭の作り方には二通りあります。

清浄生掛しょうじょうきがけ」と「型流し」です。

生掛きがけは西日本、型流しは北陸地方など東日本に多い傾向にあります。

清浄生掛け

まずは溶かして適温の液体になった蝋を用意します。

芯締め

灯芯に蝋を馴染ませます。

下掛け 

竹串に和紙を巻き付け、その上にイグサの茎のずいと呼ばれる白い糸状のものを巻いていき、これが灯芯になります。

溶かした蝋を素手でかけて、竹串を転がしながら芯に塗りつけて乾かします。

これを何度も繰り返し、蝋を重ねて太くしていきます。

右手で串を回しながら左手の指にぬった蝋を塗りつけたり、手のひら全体に蝋をつけてその上を転がしたりと、職人によって手法は少しずつ異なります。

上掛け 

蝋燭のコーティング作業です。

下掛けより融点の高い蝋を使います。

融点の違う蝋を重ねることで、蝋の垂れを防ぎやすくします。

回転とこすり方で、白く滑らかに仕上げていきます。

商品によっては赤色や白色の蝋を使うことも。

蝋の色の豆知識

白色の蝋は一から二ヶ月、蝋を天日にさらして脱色したものです。

朱蝋燭は白蝋と朱色の顔料を混ぜ合わせたものです。

芯出し 尻切り

頭部を切だし、芯を出します。

竹串から蝋燭を抜き、尻切りをして寸法を揃えて完成です。

型流し

芯に蝋につけて芯を固めます。

流し込み

木型に芯を入れ、隙間に蝋を流し込みます。

固まったら取り出し必要に応じて上掛けします。

どちらの製法もこの後、絵蝋燭にする場合は表面に絵筆で絵を描き、さらに蝋で上掛けします。

和蝋燭の製造の豆知識

蝋燭作りには製品を作る前に、はぜの実を採る「ちぎり子」、蝋を作るせい蝋所、型作り、竹串屋、芯屋など様々な人が関わっています。

各地の和蝋燭

会津の和蝋燭

会津の和蝋燭は約五百年前、領主の芦名あしな氏が漆の植樹を奨励し、漆器と漆で作った和蝋燭作りが始まりました。

浄瑠璃の女殺油地獄おんなころしあぶらのじごくの話の中にも会津蝋燭が登場します。

江戸時代には、会津の絵蝋燭は藩の特産品となりました。

その流れをくむ小沢蝋燭店では絵付け体験ができます。

鶴岡の和蝋燭

約三百年の歴を持つ鶴岡の和蝋燭は花紋燭かもんしょくと呼ばれ、御所車や源氏車、花模様を顔料で描いた華やかなものです。

江戸時代の18世紀、皆川重兵衛じゅうべいによって作られました。

庄内藩の幕府への献上品となり、十一代将軍家斉から日本一と称えられるなど名品として広く知られました。

富樫とがしろうそく店は手描きの伝統を守り続けています。

越後の和蝋燭

新潟の和蝋燭は越後の花蝋燭とも呼ばれています。

むかし、北国では冬になると半年もの間、仏壇にお花を飾ることができませんでした。

そこでお花の代わりに、花を描いた花蝋燭をお供えしました。

朱色の絵蝋燭の美しさでも有名です。

明治創業の小池ろうそく店は平成期に、明治神宮へ六度も絵蝋燭を献上しています。

七尾(能登)の和蝋燭

能登地方は昔から信仰心が篤く寺院も多かったため蠟燭が仏事やお祭りに使われることが多く、江戸時代に蠟燭づくりが盛んになりました。

七尾には北前船の立ち寄る港があり、九州や東北などへも七尾の和蠟燭が運ばれ、特産になります。

七尾では17世紀半ばに、和蝋燭の製造販売の組合「蝋燭座」も作られるなど発展しました。

現在では髙澤蝋燭のみで作られています。

岡崎の和蝋燭

徳川家康の生誕地である岡崎は、東海道の要衝として栄え、伝統産業も発展します。

あわせて家康が浄土宗を保護して寺院が増えたこともあり、仏事に必要な蠟燭の需要が増え和蠟燭の産地になりました。

「三州岡崎和蝋燭」と呼ばれる和蝋燭は三百年以上の歴史があります。

珍しい浮世絵の描かれた蝋燭もあります。

松井本和蝋燭では絵付け体験ができます。

京都の和蝋燭

神社仏閣の多い京都では昔から寺院、貴族の邸宅などで和蝋燭が使われていました。

京都の和蝋燭は本来、朱掛けや白蝋掛けが中心で絵蝋燭はありませんでした。

白蝋を塗った蝋燭は、地域によっては京蝋燭と呼ばれます。

丹治連生堂たんじれんしょうどうは東本願寺の南にあり「京式」と呼ばれる丁寧で素朴な和蝋燭を作り続けています。

また、中村ローソクは今では絵蝋燭も手がけています。

ここでは絵付けや蝋燭作りなどの体験が可能です。

このほかにも越前(福井)、兵庫、近江(滋賀)、内子うちこ(愛媛)にも有名な和蝋燭があります。

絵蝋燭の豆知識

一説には会津が絵蝋燭の発祥とも言われます。

絵蝋燭は東日本で盛んで、西日本では元々少なかったようです。

和蝋燭の使い方

和蝋燭は灯りを灯して明るくするものです。

ただし、もともとは仏事を中心に使われており、今も和蠟燭の多くは仏事で使われています。

その色には主に白と朱色があります。

白は一般法要、朱色は仏教行事や年忌法要の法事用などともいわれますが、宗派や地域によって違い、宗派によって三回忌または五回忌法要以降は朱色などの違いがあります。

朱色はご先祖様にめでたいことを報告するときなどにも使われることもあります。

和蝋燭の役割

蝋燭は火を灯す以外の使い方もあります。

美しい和蝋燭はインテリアとして外国人にもお土産として人気です。

東北地方の花蝋燭はお供えとして飾られます。

時には食卓に和蝋燭を灯してみてはいかがでしょうか。

家族や親しい人たちと暖かい灯りを囲む時間は、いつもより親密度が高まりほっこりした空気が流れるはずです。

和蝋燭の炎の揺らぎは、そよ風や小川のせせらぎなど、人の心地よいリズムとされる1/fの揺らぎの波動と同じともいわれています。

この炎を眺めていると、日常の忙しさから離れて癒されるでしょう。

和蝋燭の付け方、消し方

和蝋燭は芯の根元に点火すると火がつきやすく、炎も早く大きくなります。

燃焼中は燃えた芯が残り、炎が大きくなりすぎるので、芯を少し切る芯切りを行う必要があります。

火を消す時には、息を吹きかけると蝋が飛び散る可能性があるので、芯の根元を蠟燭消しまたはピンセットで摘まむか、釣鐘のような専用の火消しを被せて消します。

おわりに

和蝋燭の魅力についてご紹介しました。

和蝋燭は日本の自然と文化のなか、幻想的で心地よい和の灯りを灯してきた伝統工芸品です。

しかし、昭和初期には百軒以上あった和蝋燭のお店も、今では二十軒程度に減少してしまいました。

そんな中でも職人たちは伝統の炎を絶やすまいと、和蝋燭作りに勤しんでいます。

制作の見学や体験ができるお店もありますので、是非訪れて、エコで優しい灯りの魅力に触れてみてはいかがでしょうか。