ほのかな酸味とやさしい甘さ、“赤い宝石”とも称されるさくらんぼの名産地として有名な山形県。

その字の通り、山々に囲まれており、さくらんぼや西洋梨などの果樹栽培が盛んに行われています。

そんな山形県では、何百年も前から受け継がれてきた技術で作り上げた、20品目以上の伝統工芸品が存在します。

この記事では、経済産業大臣によって山形県の「伝統工芸品」として指定されている山形鋳物、置賜紬、山形仏壇、天童将棋駒、羽越しな布をご紹介します。

伝統的工芸品とは?
経済産業大臣が指定した「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」に基づいて認められた伝統工芸品のことを指す。
要件は、
・技術や技法、原材料がおよそ100年以上継承されていること
・日常生活で使用されていること
・主要部分が手作業で作られていること
・一定の地域で産業が成り立っていること

本記事の内容は、令和4年(2022年)1月時点のものです。
掲載内容は変更していることもありますので、ご留意ください。

山形鋳物

山形鋳物やまがたいもの」は、山形県山形市周辺で作られる金工品で、“伝統的工芸品産業の振興に関する法律”が施行されてから、最も早く伝統的工芸品として指定された工芸品の一つです。

平安時代中期以降に現在の山形市周辺を訪れた鋳物職人が、この地域の砂や土が鋳物の型作りに最適であることを発見したことが発祥とされています。

それ以降の長い歴史の中で、鍋釜などの日用品から仏像などの大きな仏具まで、多様な金工品が製造されてきました。

松尾芭蕉も訪れ、“山寺”と称される立石寺りっしゃくじの金灯籠も山形鋳物の名工による作として知られています。

伝統技法によって実現される“薄手で繊細な肌合い”が山形鋳物の特徴であり、現代では特に、茶道に使われる茶釜や鉄瓶が代表的な製品となっています。

品名山形鋳物
よみやまがたいもの
工芸品の分類金工品
指定年月日昭和50年(1975年)2月17日


置賜紬

置賜紬おいたまつむぎ」は、山形県南部の置賜地方に属する米沢よねざわ市、長井市、白鷹町しらたかまちで作られる伝統的な織物の総称です。

江戸時代後期に米沢藩主・上杉鷹山うえすぎようざんが、織物の原料となる青苧あおそという植物の産地であった置賜地方での織物づくりを奨励したことがはじまりとされています。

現在、米沢市の草木染紬・紅花染紬、長井市の緯総絣よこそうがすり経緯併用絣たてよこへいようがすり、白鷹町の米琉板締小絣よねりゅういたじめこがすり白鷹板締小絣しらたかいたじめこがすりの6種類が置賜紬として伝統的工芸品に指定されています。

3地区で製造方法は異なりますが、先に染めた糸を平織りで織り上げるという点が共通しています。

丁寧な手仕事の温もりが感じられる、素朴な風合いが魅力です。

品名置賜紬
よみおいたまつむぎ
工芸品の分類織物
指定年月日昭和51年(1976年) 2月26日


山形仏壇

山形仏壇やまがたぶつだん」は、山形県で山形市、天童市、尾花沢市、酒田市を中心に作られる伝統的な仏壇です。

仏壇の正統的様式である金仏壇きんぶつだんの制作を守り続けているほか、天女や菊などの華やかな飾り柄による装飾、独自の意匠である“黒金具”の落ち着いた輝きなどにより、独自の荘厳さが感じられます。

江戸時代中期、星野吉兵衛が江戸から彫刻技術を持ち帰ったことが、山形仏壇制作のきっかけになったとされています。

300年もの伝統が受け継がれながら、現在では山形仏壇の彫刻師が丁寧に手彫りしたブローチやリースといった小物が作られるなどの取り組みがなされています。

品名山形仏壇
よみやまがたぶつだん
工芸品の分類仏壇・仏具
指定年月日昭和55年(1980年)3月3日


天童将棋駒

天童将棋駒てんどうしょうぎこま」は、山形県の天童市、山形市、村山市で生産される将棋用の駒です。

天童市は将棋駒の国内生産90%以上のシェアを誇るといわれており、“人間将棋”のイベントが行われるなど、将棋のまちとして有名です。

江戸時代後期に当時の天童織田藩が、生活に窮する藩士の救済として将棋駒制作の内職を奨励したことが起こりとされています。

近年では製作手法や書体は多様になっていますが、躍動感のある草書体の文字を漆で書き込んだ“書駒かきごま”が、伝統的な天童将棋駒の特徴です。

品名天童将棋駒
よみてんどうしょうぎこま
工芸品の分類その他の工芸品
指定年月日平成8年(1996年)4月8日


日本の工芸品通販サイト『&わごころ』では、天童市で100年以上将棋駒つくりを行ってきた将棋駒専門店・中島清吉商店の将棋駒を販売しています。

商売繫盛、千客万来をもたらすといわれる6寸の“左馬ひだりうま”をお家やお店にお迎えしてみませんか?

羽越しな布

羽越うえつしな」は、山形県鶴岡市と新潟県村上市の県境の山里に生育するシナノキ等の樹皮から作られる織物です。

“日本三大原始布”の一つにも数えられるしな布の歴史は古く、平安時代に編集された法典『延喜式えんぎしき』に登場することから、その頃には既に織られていたと考えられています。


※日本三大原始布:東北地方の 科布しなふ(しなぬの)・静岡県掛川市の葛布くずふ・沖縄県の芭蕉布ばしょうふを指す。


羽越しな布は、厳しい冬期間の貴重な収入源として脈々と受け継がれてきました。

ざっくりとした手触りと落ち着きのある風合いが特徴で、現在は暖簾のれんのような建具といったインテリア、ブックカバーやバッグなどファッション性の高い趣味の工芸品として生産されています。

品名羽越しな布
よみうえつしなふ
工芸品の分類織物
指定年月日平成17年(2005年)9月22日


また、山形市には、松尾芭蕉が「しずかさや 岩にしみる 蝉の声」という有名な句を詠んだ宝珠山立石寺ほうじゅざんりっしゃくじ(通称:山寺)があり、松尾芭蕉ゆかりの地として訪れる方が後を絶ちません。

ワゴコロ編集部員が実際に立石寺を訪れた体験レポート記事もあわせて読んでみませんか?