写真提供:(公財)名古屋観光コンベンションビューロー

工業製品の生産が盛んな「ものづくり大国」、愛知県。

生産品出荷額は、他県と倍以上の差をつけて全国1位を取り続けているのだとか。

特に自動車産業が栄えており、あのトヨタ自動車も豊田市に本社を置いています。

観光県としても有名で、金のシャチホコで有名な名古屋城やレゴ®の世界観に入り込むことができるレゴランド®ジャパンなど、家族で訪れると楽しいスポットがたくさんあります♪

そんな愛知県では、何百年も前から受け継がれてきた技術で作り上げた、50品目以上の伝統工芸品が存在します。

この記事では、その中でも経済産業大臣によって「伝統工芸品」として指定されている15品目をご紹介します。

伝統的工芸品とは?
経済産業大臣が指定した「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」に基づいて認められた伝統工芸品のことを指す。
要件は、
・技術や技法、原材料がおよそ100年以上継承されていること
・日常生活で使用されていること
・主要部分が手作業で作られていること
・一定の地域で産業が成り立っていること

本記事の内容は、令和4年(2022年)1月時点のものです。
掲載内容は変更していることもありますので、ご留意ください。

有松・鳴海絞

有松ありまつ鳴海絞なるみしぼり」は、その名の通り愛知県名古屋市の有松・鳴海地域で作られる木綿の絞り染の総称です。

木綿絞り染とは、木綿生地の一部を糸で括った状態で染めることで、文様を生み出すことができる染技法のことです。

江戸時代初期、有松の開拓者・竹田庄九郎が特産物を作るため、絞りの技法を取り入れた手ぬぐいを考案したことがはじまりだといわれています。

その後、有松・鳴海絞の浴衣も生産されるようになり、旅人がこぞって買い求める“街道一の名産品”として人気を集めました。

有松・鳴海絞の特徴は、“縫い絞り”や“蜘蛛絞り”など多様な絞り染めの技法があることです。

布のくくり方や縫い方などの違いで模様を表現することから、最盛期にはなんと、100種類以上もの染技法が存在し、現在でも70種類は伝わります。

もともとは木綿生地を使った浴衣などが主流でしたが、現在は絹織物の着物も製作されています。

品名有松・鳴海絞り
よみありまつ・なるみしぼり
工芸品の分類染色品
指定年月日昭和50年(1975年)9月4日


常滑焼

常滑焼とこなめやき」は、平安時代後期に誕生し、日本を代表する6つの窯場“日本六古窯にほんろっこよう”の1つに数えられる、愛知県常滑市で作られる陶器です。

酸化鉄を多く含む朱泥しゅでいと呼ばれる地元で採れる土を使うことで、赤褐色に仕上がった焼き物であることが大きな特徴です。

常滑焼には、焼成後にガラス質の層となりつやをだす釉薬ゆうやく(うわぐすり)をかけない素焼きの作品が多く、独特の風合いを楽しむことができます。

特に、江戸時代に生まれた“朱泥急須しゅでいきゅうす”と呼ばれる常滑焼の急須は、原料に含まれる鉄分とお茶に含まれるタンニンという成分が反応し、お茶の渋みがやわらぐといわれており、常滑焼を代表する陶器となりました。

また、この朱泥急須は、現在使われる急須の形の発祥元なのだとか。

品名常滑焼
よみとこなめやき
工芸品の分類陶磁器
指定年月日昭和51年(1976年)6月11日


常滑焼についてさらに詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。

名古屋仏壇

名古屋仏壇なごやぶつだん」は、江戸時代初期に高木仁右衛門たかぎせんえもんという人物が仏壇専門店を開いたことがはじまりとされる工芸品です。

その後、愛知県の西部にあった尾張藩が仏壇業者を保護したことでさらなる発展を遂げ、その伝統が今に続いています。

名古屋仏壇は、8部門の職人という意味の“八職”と呼ばれる職人による分業制で製作されます。

実際には11部門の職人がおり、その部門は以下の通りです。

木地師きじし
荘厳師しょうごんし
彫刻師ちょうこくし
天井師てんじょうし
塗り師ぬりし
外金物師そとかなものし
内金物師うちかなものし
蒔絵師まきえし
箔置き師はくおきし
呂色師ろいろし
仕組師しくみし

まさに、職人たちの技の結晶ともいえる工芸品ですね。

名古屋仏壇の最大の特徴は、台の部分が高く、3枚の持ち上げ式扉である“みつまくり”を備えていることです。

台が普通の仏壇より高い位置にあるのは、木曽三川の水害から仏壇を守るための知恵によるものでした。

また、釘を使わずに木材を接合する木組みの技術“ほぞ組み”で作られていることで、分解がしやすく修繕が可能なことや、仏具をすべて収納できることなど、その使いやすさでも知られています。

品名名古屋仏壇
よみなごやぶつだん
工芸品の分類仏壇・仏具
指定年月日昭和51年(1976年)12月15日


三河仏壇

三河仏壇みかわぶつだん」は、江戸時代中期に仏壇師であった庄八家が作りはじめたと伝えられている工芸品です。

現在は、愛知県岡崎市など主に三河地方で製造されています。

愛知県に流れる矢作川やはぎがわを利用して運送されてくるマツやスギ、ヒノキなどの仏壇の素材が良質だったことから、三河地方一帯が仏壇製造の産地へと発展していったといわれています。

三河地方では仏壇を押入れに安置する風習があったことから、押入れの高さや奥行きに合わせて台が低い三河仏壇が作られました。

内側は豪華に作られ、正面の彫刻部分を曲線にうねらせた“うねり長押なげし”を施すことで、空殿が良く見えて拝みやすくする工夫がなされています。

三河仏壇も名古屋仏壇と同じく、“八職”と呼ばれる各部門の職人たちの合作で完成する仏壇です。

品名三河仏壇
よみみかわぶつだん
工芸品の分類仏壇・仏具
指定年月日昭和51年(1976年)12月15日


豊橋筆

豊橋筆とよはしふで」は、愛知県豊橋市とその近郊で作られる高級筆で、墨を良く含み、なめらかな書き味で人気を集めています。

全国的にも有名な書道筆のほか、日本画用や化粧用など、その用途別に作られる筆は数百種類にものぼります。

そんな豊橋筆の起源は、江戸時代。

当時の藩主が京都の筆職人を招いたことで豊橋での筆製造がはじまり、明治時代には現在の製法の基礎が築かれました。

豊橋筆は、約36の工程をたった一人の職人が手作業で仕上げます。

なめらかな書き味を実現する秘密は、筆の素材となる複数の獣の毛を、均等に混ざるまで何度も何度も混ぜ合わせる“ぜ”という特殊な技法にあります。

この練り混ぜの際、豊橋筆では水を用いることで、墨含みがよく、書き味が安定した良質な筆を生み出しています。

品名豊橋筆
よみとよはしふで
工芸品の分類文具
指定年月日昭和51年(1976年)12月15日


赤津焼

赤津焼あかづやき」は、茶器や花器、酒器など幅広い種類の焼き物で知られる、常滑焼と同じく“日本六古窯にほんろっこよう”の一つに数えられる陶磁器です。

奈良時代の須恵器すえきを起源とする赤津焼は、日本で最初に釉薬を使いはじめた磁器としても有名です。

志野しの織部おりべなど7種類の釉薬と、へら彫り、印花いんか三島手みしまでなどの12種類の装飾技法を組み合わせながら製作していきます。

赤津焼は多彩な技法の組み合わせにより、表現のバリエーションが豊かなことが特徴です。

デザインや質感の違う個性豊かな作品を楽しむことができるので、きっと自分好みの器を見つけることができますよ。

品名赤津焼
よみあかづやき
工芸品の分類陶磁器
指定年月日昭和52年(1977年)3月 30日


岡崎石工品

岡崎石工品おかざきせっこうひん」は、愛知県岡崎市周辺で作られる、400年以上の歴史を持つ石工品です。

安土桃山時代に岡崎城整備のために大阪から招かれた職人たちがこの地に移り住んだこと、そして加工に適した花岡岩が取れることから石工品の産地として栄えていきました。

やがて、六角雪見型ろっかくゆきみがた春日型かすががたなどさまざまな種類の灯籠が誕生し、昭和時代には石工団地ができるほど隆盛を誇りました。

以来、石灯籠は岡崎石工品の代表的な作品となっています。

日の光を受けるとキラキラ光る岡崎御影みかげ石など、個性的な石の美しさを活かした、繊細で優美な彫刻が最大の特徴です。

現在では、神社仏閣の灯籠だけではなく、庭園用の照明、墓石、鳥居、狛犬などさまざまな場面で使われています。

品名岡崎石工品
よみおかざきせっこうひん
工芸品の分類石工品
指定年月日昭和54年(1979年)8月3日


名古屋桐箪笥

名古屋桐箪笥なごやきりたんす」は、江戸時代に名古屋城の築城に関わった職人たちが周辺地域に定住し、木工品を製造しはじめたことが起源だとされています。

そのため、現在では主に愛知県名古屋市や春日井市で作られています。

材料となる飛騨桐ひだきりの産地である岐阜県に近かったことや、人々の生活が安定し、収納場所が必要になるほど衣服を持つようになったことなどが、発展を後押しした理由だといいます。

名古屋桐箪笥は他の地域で生産されるの箪笥に比べ、幅が広めに作られており、引き戸の金彩画きんさいが蒔絵まきえ、金具部分の金銀装飾など豪華な造りが特徴です。

また、防湿や防虫効果に優れているなど、機能性も高く、長く使うことができるのも魅力の一つです。

そんな名古屋桐箪笥の製造は、大きく造材・木取り・狂い直し・加工・加飾・金具付けに分けられますが、細かく分けると130もの工程があり、そのすべてをたった1人の職人が手掛けています。

品名名古屋桐箪笥
よみなごやきりたんす
工芸品の分類木工品・竹工品
指定年月日昭和56年(1981年)6月22日


名古屋友禅

名古屋友禅なごやゆうぜん」は、独特の濃淡で描かれた模様が味わい深い、愛知県の伝統的な染色品です。

江戸時代に京都や江戸から来た職人によって、友禅の染色技法がこの地に伝えられたことではじまったとされています。

名古屋の実直な土地柄に合わせて、色の数を減らし、一つの色の濃淡で絵柄を表現する点や、つややかな黒染など、全体的に落ち着いた友禅柄が特徴です。

名古屋友禅には、手で描く“手描き友禅”、下絵の型を使う“型友禅”、家紋を染め抜きする“黒紋付染”の3種類の技法があります。

現代では、特徴である渋さに洗練された華やかさも加わるようになり、その技法は手ぬぐいやネクタイなどにも使われています。

品名名古屋友禅
よみなごやゆうぜん
染色品織物
指定年月日昭和58年(1983年)4月27日


名古屋黒紋付染

名古屋黒紋付染なごやくろもんつきぞめ」は、江戸時代に愛知県の西部を治めていた尾張藩の藩士(武士)によって作りはじめられたといわれる染色品です。

名古屋では古くから、婚礼やお葬式の際に着用されるなど、多くの人々に親しまれてきました。

その最大の特徴は、濃密な漆黒色の美しさにあります。

この深みのある黒色は、下染めの際、黒単色ではなく紅や藍色を加えることで得られるものなのだとか。

染色技法は、型紙を使う“浸染ひたしぞめ”と、後から紋を手描きする“引染ひきぞめ”の2種類があります。

浸染では、80℃~90℃の熱湯に長時間にわたり浸して染めることで、黒色をより強いものにする名古屋黒紋付染独特の技法が用いられます。

近年では、洋服・靴の素材やマスクなど、着物のみならずさまざまな用途で利用されています。

品名名古屋黒紋付染
よみなごやくろもんつきぞめ
工芸品の分類染色品
指定年月日昭和58年(1983年)4月27日


尾張七宝

愛知県名古屋市やあま市などを産地とする「尾張七宝おわりしっぽう」は、銅や銀でできた素地に、ガラス質の釉薬を焼き付けて図柄を入れた工芸品です。

尾張七宝は、江戸末期に尾張藩士がオランダから輸入された七宝焼きを目にし、技法を習得したことが、その歴史のはじまりだといわれています。

図柄のとおり金属の線を当て、その上から釉薬を施す“有線七宝ゆうせんしっぽう”が代表的な技法として知られています。

ほかにも、ぼかしの表現に最適な“無線七宝むせんしっぽう”、立体的な図柄を作るのに適した“盛上七宝もりあげしっぽう”などさまざまな技法を用いて、豊かな表現を可能にしています。

尾張七宝は、色とりどりの美しい釉薬が織りなすきらびやかな色彩と、華麗な図柄が特徴です。

その美しさで多くの人を魅了し続け、現在では花瓶や皿のみならず、アクセサリー類などの新商品も人気を集めています。

品名尾張七宝
よみおわりしっぽう
工芸品の分類その他の工芸品
指定年月日平成7年(1995年)4月5日


瀬戸染付焼

愛知県瀬戸市周辺で作られる「瀬戸染付焼せとそめつけやき」は、素地の表面に直接筆で模様を描いた陶磁器です。

江戸時代末期に瀬戸出身の陶工が、九州で磁器の焼成技術を学び、瀬戸に持ち帰りました。

その後、絵師により中国風の絵付け技術が持ち込まれたことで、瀬戸染付焼の技法が確立されたといわれています。

瀬戸染付焼の原料は、地元産の風化した花崗岩や粘土です。

それらを混ぜて素焼きした白い素地に、呉須ごすと呼ばれる青い絵の具で、花や鳥などの絵付けをします。

その技法には、濃淡をつける“ダミ”、輪郭のない“つけたて”、細かい線を描く“線描き”などがあります。

焼成する際に、一定時間高温を維持して釉薬を熟成させることで、潤いのある仕上がりとなり、藍色を基調とした繊細な絵付けが際立ちます。

品名瀬戸染付焼
よみせとそめつけやき
工芸品の分類陶磁器
指定年月日平成9年(2007年)5月14日


尾張仏具

尾張仏具おわりぶつぐ」とは、愛知県名古屋市を産地とする、仏前に供える器具一式のことです。

その製造は江戸時代初期にはじまり、やがて下級武士の内職として発展。

明治時代以降には専門職人による分業制となり、大量に生産できるようになったことで全国に流通するようになりました。

木製の漆塗り製品を中心にした木魚や木彫仏、位牌いはいなど、その種類は1000種以上にものぼります。

また、各工程において宗派や寺院用、在家用などで仕様が異なるため、それぞれ専門の技術を持つ職人たちによって製造していることも特徴の一つです。

その中でも、分業制をとっている尾張仏具には珍しい、一人の職人が一貫生産する“木魚”や、木材を曲げる特殊な技術が必要な“丸金台”は、尾張のみで生産される仏具として有名です。


位牌いはい:故人を供養するための木の板で、故人の戒名(法名、法号)や没年月日などの情報を記したもの。

品名尾張仏具
よみおわりぶつぐ
工芸品の分類仏壇・仏具
指定年月日平成29年(2017年)1月26日


三州鬼瓦工芸品

三州鬼瓦工芸品さんしゅうおにがわらこうげいひん」は、瓦産業の発達する愛知県西三河地域で作られる瓦のうち、鬼の顔の装飾が付いた瓦のことです。

江戸時代中期、防火のために幕府が瓦屋根を推奨したことで普及していきました。

中でも、三州瓦は高品質な土によって生まれるなめらかな質感と、“いぶし銀”と呼ばれる特有の色合いで人気を集めていました。

そんな屋根瓦の普及にあわせて生まれたのが、屋根装飾の鬼瓦です。

鬼の形相で厄払いをするという意味を込め、家の繁栄を願ったもので、鬼師と呼ばれる鬼瓦の製作者によって鬼面や家紋入りの鬼瓦が作られてきました。

現在は、伝統的な手法を受け継ぎつつ、室内の床の間飾りや玄関飾り、身近なインテリア品も作られるなど、楽しみ方が広がっています。

品名三州鬼瓦工芸品
よみさんしゅうおにがわらこうげいひん
工芸品の分類陶磁器
指定年月日平成29年(2017年)11月30日


名古屋節句飾

名古屋節句飾なごやせっくかざり」は、愛知県名古屋市などで作られる、主に人形、幟旗のぼりばた類、雪洞ぼんぼりの3種類からなる工芸品です。

江戸時代からすでに作られており、当時の書物に名古屋節句飾に関連する記載があるのだそうです。

その伝統をもとに、大正5年(1916年)に技法が確立され、さらに高品質な製品が作られるようになりました。

3点とも、それぞれ優れた魅力を持ち合わせていることで、多くの人から愛されてきた名古屋節句飾。

人形は、東京や京都など東西文化の魅力を混合させながら取り入れたことで表れる、豪華さと庶民的な親しみやすさが魅力となっています。

幟旗類の大幟おおのぼりや腹部が黄色い“黄腹のこい”は、名古屋特有のものとして人気を集めています。

雪洞ぼんぼりは、美濃みの和紙や小原おばら和紙、木曾檜きそひのきなど中部地区の良質な材料で作られており、折り畳みできない火屋ほや物提灯が代表的な製品です。

そして3つの工芸品全てに共通しているのが、消費者の需要に答える柔軟な姿勢。

東西の特徴を人々の希望に応じて取り入れ続ける、職人の努力の結晶なのです。

品名名古屋節句飾
よみなごやせっくかざり
工芸品の分類人形・こけし
指定年月日令和3年(2021)1月15日