写真提供:しまね観光ナビ

東西に長い特徴的な地形を持ち、山地や丘陵地が面積の9割を占める島根県。

湿度の高い空気や日照時間の短さ、60ヶ所以上で湧き出る温泉により、美肌県グランプリで常に上位を獲得し、“美肌県しまね”とも呼ばれています。

また、縁結びのご利益で有名な神様が祀られている出雲大社いずもおおやしろ(いずもたいしゃ)には、全国から多くの観光客が参拝に訪れます。

日本神話を題材とした石見神楽いしみかぐらや、“どじょう踊り”という滑稽な踊りを含む安来節やすぎぶしなど、伝統的な民俗芸能も数多く残っています。

そんな島根県では、何百年も前から受け継がれてきた技術で作り上げた、60品目以上の伝統工芸品が存在します。

この記事では、その中でも経済産業大臣によって「伝統工芸品」として指定されている4品目をご紹介します。

伝統的工芸品とは?
経済産業大臣が指定した「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」に基づいて認められた伝統工芸品のことを指す。
要件は、
・技術や技法、原材料がおよそ100年以上継承されていること
・日常生活で使用されていること
・主要部分が手作業で作られていること
・一定の地域で産業が成り立っていること

本記事の内容は、令和3年(2021年)12月時点のものです。
掲載内容は変更していることもありますので、ご留意ください。

出雲石燈ろう

出雲石燈いずもいしどうろう」は、昭和51年(1976年)に石工品の中で最も早く伝統的工芸品に指定された、島根県を代表する特産品です。

その昔、出雲国いずものくにといわれていた島根県東部の出雲市および松江市や鳥取県北西部の境港さかいみなと市で古くから作られてきました。

古墳時代から石棺などに用いられてきた島根県松江市宍道町しんじちょう来待きまち周辺で採ることができる “来待石きまちいし”を原料としており、製作の始まりは奈良時代ともいわれていますが、盛んになったのは江戸時代とされています。

吸水性の高い来待石を用いた出雲石燈ろうは、雨を含みやすいため苔むすのが早く、色合いも数ヶ月ほどでおもむきある黄みをおび、自然とよく調和するのが最大の魅力でしょう。

出雲石燈ろうの気品ある優雅な佇まいに、茶人・千利休も魅了されたのだとか。

また、出雲石燈ろうには熱や寒さにも強いという特徴があり、江戸時代初期に作られた作品が現存するなど耐久性にも優れています。

明治以降も造園・室内外のインテリアで活躍する出雲石燈ろうは、石の“美術品”として国内だけでなく海外からも高く評価されている工芸品です。


※来待石:1,400万年前の火山灰が固まって形成された砂岩で、加工しやすく、古来より石段や彫像、庭園石材やかまどなど多岐に渡り利用されてきた。
江戸時代には松江藩主が“御止石おとめいし”と名付け、藩の許可を得られなければ藩外への持ち出しを禁止されていたこともあり、良質な石材としても知られている。

品名出雲石燈ろう
よみいずもいしどうろう
工芸品の分類石工品
指定年月日昭和51年(1976年)6月12日

雲州そろばん

雲州うんしゅうそろばん」はかつて、出雲国いずものくに、別名“雲州うんしゅう”と呼ばれていた島根県東部で作られています。

江戸時代後期に島根県の大工・村上吉五郎むらかみきちごろうが、広島県の職人が作ったそろばんを参考に、地元でとれるカシ・ウメ・ススタケなどの木材でそろばんを作ったのがはじまりだといわれています。

その後、たまを削る手回しロクロが開発されたことで生産量が増え、地場産業へと発展しました。

雲州そろばんは玉、けた、枠によって構成されており、それぞれに多くの工程があり、ほとんどが職人による手作業で行われています。

玉の作りが正確で、軸や枠の組み立ても狂いがないことで実現する玉の動きの良さや、弾いたときの冴えた音が雲州そろばんの特徴です。

品名雲州そろばん
よみうんしゅうそろばん
工芸品の分類そろばん
指定年月日昭和60年(1985年)5月22日


石州和紙

石州和紙せきしゅうわし」は、石見国いわみのくにとよばれていた島根県西部で漉かれている和紙のことで、“石州半紙せきしゅうばんし”とも呼ばれます。

その歴史は古く、延喜5年(905年)に編纂された『延喜式えんぎしき』には、紙を納めさせた国の一つとして石見があげられています。

石州和紙は良質のコウゾやミツマタ、ガンピなどを原料に、ネリにトロロアオイを用いて、“流し漉き”によって作られ、優しい光沢と強さが特徴です。

江戸時代には大阪商人が帳簿に石州和紙を使用し、火事の際には帳簿を井戸に投げ込み難を逃れようとするほど、石州和紙の耐久性、強靭性が優れていたというエピソードもあるのだとか。

品名石州和紙
よみせきしゅうわし
工芸品の分類和紙
指定年月日平成元(1989年)4月11日


石見焼

石見焼いわみやき」は、江戸時代に島根県西部の石見地方ではじまった陶器(焼き物)です。

耐火度の高い粘土を1300℃ものの高温で焼くことで、耐酸性・耐水性・耐塩性に優れた強度の高い陶器(焼き物)になります。

その特徴を活かした大型の水がめ“はんどう”や、漬物や梅干しの保存用容器などが作られ、生活に欠かせない器として全国へ運ばれました。

地元の鉄を含む来待錆石きまちさびいしによる深みある茶褐色の来待釉薬きまちゆうやくが使われたものと、アルカリ成分を含む温泉津石ゆのついしが使われた透明釉薬とうめいゆうやくを使った黄土色や青色のものが主流です。


釉薬ゆうやく(うわぐすり):陶磁器の表面に施すガラス質の液。陶磁器を保護するとともに、色もつけることができる。

品名石見焼
よみいわみやき
工芸品の分類陶磁器
指定年月日平成6年(1994年)4月4日


なお、毎年秋には石見地方の窯元が集結する“石見大陶器市”が開催され、リーズナブルな価格で石見焼の作品を手に入れることができますので、興味のある方は時期を合わせて訪れてみてはいかがでしょうか?